【金管バンドナビ】#11 金管バンドの楽器 トロンボーン

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

金管バンド楽器紹介の4話目は、神の楽器とも呼ばれるトロンボーンについてです。コルネットなどのピストン楽器が普及する前から、トロンボーンは自由に音程を変えることができ、半音階が演奏できることから、教会での讃美歌の伴奏に使用され、神の楽器と称されていました。

現在ではクラシックをはじめ、ジャズやビッグバンドなど、幅広いジャンルで演奏される金管楽器の中でもとりわけトロンボーンは万能な楽器です。そんなトロンボーンの金管バンドにおける役割をご紹介していきましょう。

テナー音域

前回の記事でご紹介したバリトン・ホーン、ユーフォニアムと並ぶテナー音域の一つがトロンボーンです。このパートの中でも担当する役割は分かれており、高音域やソロを担当する1st トロンボーン、中音域に位置する2nd トロンボーン、そしてトロンボーンの中でも低音域を担当するベース・トロンボーンの3パートで構成されています。

他の楽器同様、金管バンドではほぼほぼ全てのパートが1stと2ndで分かれており、同じ楽器の中でも細かく音域を分割することで、より幅広い音色や響きを作っています。それではそれぞれのパートをご紹介していきましょう。

ファースト・トロンボーン(1st Trombone)

要求される音や奏者の好みによって、テナー・トロンボーン(Tenor Trombone)、またはテナー・ベース・トロンボーン(Tenor Bass Trombone)が使われます。トロンボーンパートのプリンシパル、つまり首席奏者としてソロの演奏はもちろんのこと、低音域パートのリードを取ったり、他の楽器との協奏を行ったりと幅広くリーダー的役割を与えられてます。近年の最上級クラスであるチャンピオン・セクションの課題曲では、ほぼほぼソロの演奏が書かれ、プリンシパル・コルネット奏者と同様にバンドの主役的役割を求められます。

リーダー的役割の一例としては、筆者がコーリーバンドに在籍していた時、テナーとベース音域からなる低音セクションでのtutti演奏(全員で演奏すること)では、1stトロンボーンのChris Thoms(2023年現在現役、下の動画のソリスト)にベース・セクションとしてアンサンブルをつけ、演奏をしていました。

ビッグバンドやポップスなどの曲を演奏する際、このトロンボーン・パートを客席に向けベルが正面にくるように配置することでよりビッグバンドのブラスセクションに近い迫力が出たりと、コルネット同様トロンボーンパートの配置を変えるだけで音色の変化に一役買うことも忘れてはなりません。またコルネット同様にさまざまな種類のミュートを多用することも多く、演奏中に高速で行われるミュート・ワークにも注目です。

セカンド・トロンボーン(2nd Trombone)

1stトロンボーンに比べると低音域を担当するハーモニーの中間として非常に重要なパートです。高度なソルフェージュ(音感力や楽譜を読む力)を必要とされるパートで、どの楽器でもそうですがこの2nd(=二番手)がバンドの音色、音量、バランスを担っている重要なパートです。また各トップ奏者たちが活躍するには、この二番手や三番手のような名サポーターたちが必要です。

トロンボーンパートの中でもソロや高音域を担当する1st、低音域であるベース・パートとの橋渡しや最も低い音域を担当するベース・トロンボーン、これら2つのパートとの間で音色をまとめる非常に大切なパートとなっています。多くの場合誤解されがちですが、1stよりも技量が足りない奏者が2ndを務めるのではなく、先述したそれぞれのパートがもつ性格にあった奏者がそれぞれのパートを演奏するのです。誤解されやすいですし、とても重要なことなので各パートを選ぶ際、また選ぶ立場にいる際はご承知いただけると幸いです。

ベース・トロンボーン(Bass Trombone)

先述したテナー・トロンボーンと管の長さは同じ実音シbを基準とした楽器です。しかし、ベース・トロンボーンは管の太さやベルの大きさがより大きく、大きめのマウスピースが使用されることによってより太く、低い音色を持った楽器となっています。

一般的な現代のベース・トロンボーンには、主にF管(実音ファ)と、GbやD管(ソbやレの長さの管)が付いています。これらの管をロータリー機能を使って切り替えながら演奏することで、より安定した幅広い音域を演奏したり、音色の選択肢を増やすことができます。

さて、このベース・トロンボーンですが、楽譜の表記が金管バンドの中で唯一実音表記のへ音記号譜(吹奏楽と同じ)です。これは初期のベース・トロンボーンがベース・サックバット(The Bass Sackbut)と呼ばれていた時代に、Bb管よりも低いGやF管だったためでした。この楽器でテナー・トロンボーンよりも低音域を実音のGやFを基準とするベース・トロンボーンによって演奏する際、楽譜が実音のへ音記号譜で書かれている方が読みやすいので、現在の金管バンドの中では唯一この形になっている説が最も濃厚です。

現在楽譜の出版社によってはベース・トロンボーンパートもト音記号譜のIn Bb(1st & 2ndと同じ)で書かれているものも付属されていたりと、もしかしたら今後トロンボーンパートも全てト音記号譜に統一される日がくるかもしれません。

さて、このベース・トロンボーンですが金管バンドの中でトロンボーンパートの最も低い音域を担当することはもとより、ベース音域のEb & Bbベースたち(チューバ)との協奏もたくさんあります。ベースたちが奏でる大音量での旋律に輪郭を与える役割であったり、時に音色を溶け込ませ低音域の充実を図ったりと、必要最低人数で構成をされている金管バンドの中においてベース・トロンボーンの役割も他の楽器同様多岐にわたります。

オーケストラや吹奏楽、そしてジャズやビッグバンド、ポップスなどでも大人気のトロンボーンですが、この金管バンドではたった3人で構成されています。しかしその役割は多く金管バンドにとって無くてはならない重要なパートです。現代では求められる表現の幅やそれに伴う音域も広がっており、奏者のレベルもどんどん上がっている素晴らしい楽器の一つです。

さて、次週はついに管楽器パート最低音域であるベース音域を司るチューバもといベース(Bass)のご紹介です。ソロも伴奏もハモリも何でもこなす金管バンドのベースパート、ぜひお楽しみに

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Besson アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。