【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#4

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皆さま、こんにちは。

前回の 名演紹介 #3 アルプス交響曲/常総学院高(92年) はお楽しみいただけたでしょうか?

今回は大栗裕作曲の「大阪俗謡による幻想曲」の名演をご紹介します。

この曲はオーケストラ編成のために作曲されましたが、後に作曲者自身によって吹奏楽編成のために編曲され、今ではオーケストラよりも吹奏楽での演奏機会が多い曲となっています。私はオーケストラでの演奏と吹奏楽での演奏の両方を聴きましたが、この曲は実際の祭りの音楽を使っていることもあって吹奏楽の編成のほうが合っているのではないかと私は思います。

吹奏楽の演奏機会の中でも吹奏楽コンクールでの演奏が圧倒的に多く、その中でも一つの高校の吹奏楽部が自由曲として10回以上演奏しているというのは他に類を見ない曲だと言えるでしょう。

その一つの高校とは、関西支部を代表する「淀工」こと 大阪府立淀川工業高等学校(2005年から大阪府立淀川工科高等学校)です。

名演紹介 #4 大阪俗謡による幻想曲/淀川工業高(淀川工科高)

大阪俗謡による幻想曲
作曲:大栗 裕


全日本吹奏楽コンクール
演奏:大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部 (大阪府立淀川工科高等学校吹奏楽部)
指揮:丸谷 明夫

淀工が「大阪俗謡による幻想曲」(以下俗謡)を吹奏楽コンクールで演奏したのは1980年から2022年までの42年間で計11回ですが、淀工の吹奏楽コンクールでの名演がこの中に数多く存在します。

当初はこの中で自分がベストだと思う演奏をご紹介しようと考えておりましたが、全ての演奏を聴き直していくうちに1つに絞れなくなってしまいましたので、3つの演奏を私が名演だと思う順番にご紹介することにしました。

演奏について

1997年(第45回大会)

私がこの1997年の演奏を一番に推す理由としては、この年は淀工の歴史の中でも木管楽器が上手であり、その中でも特にクラリネットパートがとても上手だということ、そして曲の表現と技術的な完成度のバランスが一番良いところにはまっていると思われるからです。

一番最初のH音の伸ばしの張りっぷりが素晴らしく、その後のおごそかな部分のクラリネットとサクソフォーンのバランスがクラリネット優位かつクラリネットの音色が良いので曲の雰囲気がよく出ています。メロディのクラリネットも音色が良い中での攻めの表現が素晴らしく、Esクラリネットがとても上手です。

チャンチキという打楽器のリズムで祭りが始まってからもクラリネットの音色が荒れることがなく、それでいて熱さがあって攻めの表現ができるのはさすがの一言で、この部分もEsクラリネットが上手でピッチのはまり具合も素晴らしいです。4:39からのトロンボーンのグリッサンド奏法の音圧が強烈でかっこいいです。

ピッコロの祭りのお囃子は大阪の祭りの雰囲気がよく出ていて、これに加わるEsクラリネットがまた素晴らしく上手です。中間部のオーボエのソロはオーボエ特有の艶があってとても美しい音色で、オーボエのソロと掛け合うシロフォンの音色感も素晴らしいです。

再びテンポが上がりますが、熱い表現の中にも冷静さがあって音色が荒くならないのが見事です。6:54からのトロンボーンの音圧に全く負けていない木管高音の音圧が凄まじく、7:01からのクラリネットの高速タンギングが必要な超難所が見事に決まり、ラストに向かって更に一段ギアを上げます。7:37からのトロンボーンセクションの凄まじい音圧や、7:48からのトランペットセクションの祭りの熱狂を表現しながらも確実にハイトーンを決めていくところに感激し、チャンチキとティンパニの高速連打を経て曲は鮮やかに終わります。

1989年(第37回大会)

この1989年の演奏は表現の熱量が相当高く、凄まじい勢いで有無を言わさない圧巻の演奏だと思います。全国大会での5金達成がかかっていたということもあるのでしょう。特に金管楽器のレベルの高さが印象的です。

冒頭の金管楽器の音の張りと熱さが群を抜いています。おごそかな部分からだんだんと盛り上がった後の金管楽器の音圧もとても素晴らしいです。

チャンチキから始まる祭りはスピード感に溢れていて、フォルテの部分の勢いとピアノの部分の落ち着きの対比が特に素晴らしいと思います。イングリッシュホルンとトランペットの歌いこみはまさに関西人ならでは濃ゆい表現で、やはり大阪の曲なのだなと納得させられます。

中間部のオーボエのソロは哀愁漂う音色での泣ける歌いまわしがとても素晴らしいです。

再びテンポが速くなってからがこの演奏の真骨頂で、だんだんとテンポが上がっていきながらそれぞれの楽器の見せ場が次々と決まっていきます。最後に向かってもう一段テンポが上がってからが圧巻で、トロンボーンセクションとトランペットセクションの見せ場での凄まじい音圧とテクニックの鮮やかさに耳を奪われます。ラストの打楽器のクレシェンドとアッチェレランドの勢いが凄まじく、疾風迅雷のように曲が終わります。

2008年(第56回大会)

この2008年の演奏はとにかく技術的な完成度がかなり高くて、コンクールとして文句のつけようがない最高レベルの演奏だと思います。どの楽器もレベルが高くて上手です。

一番最初のHの伸ばしの音のピッチのはまり方、冒頭のミュート付きのトランペットが音を確実に当てているところから、この演奏の完璧さがよく分かります。その後に続いていくメロディもきっちりはまっていて、メロディとそれ以外のバランスが良いのもこの演奏の特徴です。

テンポが速くなってからはチャンチキをはじめとした打楽器のリズムとテンポ感が素晴らしいので、テンポが圧倒的に安定しています。どの楽器も音色が荒れることがないのにしっかりした音圧を保ちながら突き進んでいくのがお見事です。

祭りのお囃子はピッコロの音程がきっちりはまっていて、次にピッコロ2本に増えたことが分からないぐらいピッチがぴったり合っていて、その後Esクラリネットなどが入っても全くぶれることがないユニゾンの安定感は恐ろしいです。オーボエのソロも美しくて言うことなしです。

再びテンポが速くなりますが、決して破綻しないテンポ設定とメロディがちゃんと聞き取れるバランスのとり方がとくに素晴らしいと思います。最後まで勢いがおとろえることなく、鮮やかにかっこよく曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?関西支部の高校といえば淀工、淀工といえば俗謡といえるぐらい有名で、関西人の血が燃える演奏をご紹介しました。

次回は、吹奏楽の神様と呼ばれた先生の九州名門校での演奏をご紹介しようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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