皆さま、こんにちは。
夏のコンクールシーズン真っ只中に、猛暑に加えて突然に雨が降ったりする不安定な天気の毎日で、リードの調子を心配してしまう日々ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
私事ですが、先月の中旬に石川県吹奏楽コンクールの審査をさせていただきました。これまでにコンクールを聴きに行く機会は多くありましたが、審査員としてコンクールで演奏を聴かせていただくのは初めての経験で、観客として勝手に点数をつけて聴いていた時とは全く違う、審査をすることの責任や演奏を聴きながら講評を書いて点数をつけて順番をつけていくことの大変さを体験することができました。これは実際に経験しないと分からないことでしたので、この機会をいただいたことにとても感謝しています。
今年の石川県吹奏楽コンクールでは自由曲として今流行りの作品ばかりでなく、一昔前に流行った作品も聴くことができました。その中でも印象的だったのが、シンプルで美しい作品であるがゆえにコンクールの自由曲として演奏するのが大変難しい作品である、アーロン・コープランド作曲の バレエ組曲「アパラチアの春」を、中学の部・高校の部のA部門で3校が演奏しており、特に中学校2校の演奏がとても素晴らしくて2校ともが石川県の代表校となったことでした。そこで今回は、私がコープランドの作品の中でも特に大好きな作品である バレエ組曲「アパラチアの春」を、吹奏楽コンクールでの名演を通してご紹介しようと思います。
バレエ音楽「アパラチアの春」
バレエ音楽「アパラチアの春」は、アメリカの作曲家であるアーロン・コープランドが、振付師でダンサーのマーサ・グラハムの委嘱を受けて、13人編成の室内オーケストラの作品として1944年に作曲しました。当初、コープランドはこの作品に題名をつけておらず、単に「マーサのためのバレエ」と呼んでいましたが、初演の直前にマーサ・グラハムが、ハート・クレインの詩の一節である「アパラチアの春」という題を提案し、その後はこの標題で呼ばれています。コープランドはこの作品によって、1945年にピューリッツァー音楽賞を受賞しました。その後、1945年にコープランドはこのバレエ作品をほとんどの曲を残した状態でオーケストラ用組曲に編曲し、現在ではこの組曲版が一般的に知られています。
このバレエで語られている物語の内容は、19世紀前半の開拓が進む時代に、アメリカ東部のアパラチア山脈の麓にあるペンシルヴァニア州にて、素朴な開拓者村で若い夫婦が結婚式を挙げた日の情景を描いたものとなっており、この時代におけるコープランドのシンプルで明快な作風がよく表れている作品です。

神奈川県立野庭高等学校 (1992年)
バレエ組曲「アパラチアの春」より
作曲:A.コープランド 編曲:森田 一浩
全日本吹奏楽コンクール
1992年(第40回大会) 銀賞
演奏:神奈川県立野庭高等学校吹奏楽部
指揮:中澤 忠雄
吹奏楽コンクールでの バレエ組曲「アパラチアの春」といえば、真っ先に思い浮かぶのがこちらの神奈川県立野庭高等学校の演奏ではないでしょうか。自由曲でアルフレッド・リードの作品を演奏して一世を風靡した中澤忠雄先生時代の野庭高校ですが、得意のリード作品を含む海外オリジナル作品を中心とした選曲とパワフルで豪華なサウンドをもってしても全国大会に出場できない時期が3年も続き、苦悩の末に中澤先生が出した答えが、それぞれの楽器の音色がよくブレンドされたオーケストラサウンドでした。1992年に自由曲として演奏した バレエ組曲「アパラチアの春」は、これまでの野庭高校の選曲とは180度変わっていたので当時はさぞ衝撃的だっただろうと思いますが、このシンプルな作品を魅力的に聴かせてくれる木管楽器中心のよくブレンドされたサウンドと、歌心に溢れた演奏はとても素晴らしく、特にお気に入りの演奏でこれまでに幾度となく聴いてきました。
惜しむらくは、朝の2番目の演奏順だったことで会場の普門館がまだ響いていない環境だったこともあり、発音のアタックが荒く感じられてしまうところがあったり細かいミスが少し目立って聴こえてしまったことでしょうか。この年の野庭高校の関東大会の録音を探しているのですが、まだ聴く機会には恵まれておらず、朝早くの出番でなかった関東大会ではどのような演奏だったのか、とても気になっている過去の演奏の1つです。
東大和市立第三中学校 (1998年)
バレエ組曲「アパラチアの春」より
作曲:A.コープランド 編曲:森田 一浩
全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 銀賞
演奏:東大和市立第三中学校吹奏楽部
指揮:楢木 輝明
私が初めて バレエ組曲「アパラチアの春」を聴いたのは中学生の時で、同じ市内の中学校がコンクールの自由曲で演奏しているのを聴いた記憶が残っているのですが、その後全国大会のCDを購入した時に出会ったのがこちらの東大和市立第三中学校の演奏です。課題曲がマーチ以外の年だったので、改めて聴き直してみるとなかなか強引なカットに驚かされるのですが、この曲の冒頭で印象が決まってしまうクラリネットのソロが上手で、とても良くまとまっている演奏だと思います。
さいたま市立浦和高等学校 (2024年)
バレエ組曲「アパラチアの春」より
作曲:A.コープランド 編曲:森田 一浩
西関東吹奏楽コンクール
2024年(第30回大会) 金賞
演奏:さいたま市立浦和高等学校吹奏楽部
指揮:小泉 信介
2024年は、ちょっとしたご縁があり初めて埼玉県吹奏楽コンクールを聴きに行きました。伊奈学園総合高校・埼玉栄高校・春日部共栄高校の全国大会常連校の課題曲がうまくバラけていて、当時から強豪で、翌年の2025年に全国大会初出場を果たす叡明高校を含めると課題曲が全曲聴けるということもあって楽しみにしていました。その大会で出会ったのがさいたま市立浦和高等学校の演奏で、課題曲Ⅲ: メルヘン の良い意味で自然な音楽性に心を打たれ、久しぶりに生演奏で聴くことができた バレエ組曲「アパラチアの春」の美しいハーモニーにとても感動しました。西関東支部大会での演奏は更に磨きがかかっており、この曲の美しさと楽しさを存分に味わえる演奏だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか。コープランド作曲「アパラチアの春」の、コンクールでの名演をご紹介しました。
私事ではありますが、2026年8月1日付で、シエナ・ウインド・オーケストラにバスクラリネット奏者として入団することができました。
これまでにも私自身が演奏したり経験したことに関連する作品をご紹介してきましたが、これからはシエナ・ウインド・オーケストラの公演に関連する作品についてもご紹介していければと考えておりますので、引き続きお楽しみいただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
シエナ・ウインド・オーケストラ バスクラリネット奏者。
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。

