【吹奏楽ナビ】#76 作曲家 櫛田 胅之扶②

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皆さま、こんにちは。

前回に引き続き、今年の11月19日に90歳の卒寿を迎えられた櫛田胅之扶さんをテーマに、吹奏楽コンクール全国大会の自由曲として演奏されたことのある作品を、コンクールでの名演を通してご紹介します。

飛鳥

飛鳥
作曲:櫛田 胅之扶

全日本吹奏楽コンクール
1980年(第28回大会) 金賞
演奏:敦賀市立粟野中学校吹奏楽部
指揮:荒木 則通

1980年に敦賀市立粟野中学校が自由曲で演奏した 飛鳥 が、全国大会に初めて登場した櫛田作品となりました。飛鳥は1969年に作曲され、1970年にJBA作曲賞に入賞しています。6世紀から7世紀にかけて繁栄した飛鳥地方の栄華を表現した曲で、「ゆるやかに流れる飛鳥川のほとりで、かつては壮麗さを誇ったであろう宮殿や寺院が荒廃している姿を見たとき、何ともいいがたい感情の高まりを覚えました。この曲を書くことにより、私自身の心のよりどころを知ろうと思いました。」と作曲者が語っています。


冒頭のフルートソロと打楽器セクションのこれぞ櫛田作品と言える日本的な間の取り方と雰囲気作りが抜群に素晴らしく、和の世界観が一気に広がります。金管楽器のストレートに伝わる音圧が心地よく、テンポが上がってからは疾走感に溢れた素直な音楽が爽快で、櫛田作品の魅力を最大限に伝えてくれる演奏だと思います。

火の伝説

火の伝説
作曲:櫛田 胅之扶

全日本吹奏楽コンクール
1981年(第29回大会) 金賞
演奏:敦賀市立粟野中学校吹奏楽部
指揮:荒木 則通

1980年に作曲された 火の伝説 は、京都の年中行事「おけら火」「大文字の送り火」「鞍馬の火祭り」を描いた作品で、京都橘高等学校吹奏楽部によって初演されました。「京都に伝わる火の祭事・神事・伝統行事への思いから、生・祈り・情熱、そして人間の自然に対する畏敬の念を表現しようと、これらの主題を『火の伝説』として、交響詩を作曲しました。人間の生命の自然への回帰する姿を追ってみました。祖先から受け継いだ、尊い生命の湧き上がる情熱を描いています。」とスコアの楽曲解説で作曲者が語っています。


敦賀市立粟野中学校の演奏は、重厚なサウンドによる序奏が幻想的に始まり、大人顔負けの和の世界が繰り広げられていきます。前半のゆっくりな部分をカットなしでじっくり聴かせる構成が大変魅力的で、後半の速い部分では技術力の高さが存分に発揮されていてトゥッティの一体感も素晴らしく、終盤のフルートソロが切なく響き渡って曲が終わります。

元禄

元禄 は1980年に京都で開催された近畿高等学校総合文化祭のために作曲され、その後東芝EMIが発売した「新・実践吹奏楽指導全集」(1993年発売)に収録されたことで広く演奏されるようになりました。「江戸の文化が華やかに色づいた元禄時代、そこに生きる人々のたくましさを描いた浮世絵のような作品。前半のラテン・フュージョン風のリズムは人々が行き交う様を、後半の和太鼓群は祭りに湧く若者の熱気を描き出し、これらの情景を中心に、中間部で人の情け・心情をさらりと語るといった形にまとめられています。」と曲目解説に記されています。

福岡工業大学附属高等学校 (1999年)

元禄
作曲:櫛田 胅之扶

全日本吹奏楽コンクール
1999年(第47回大会) 金賞
演奏:福岡工業大学附属高等学校吹奏楽部
指揮:屋比久 勲

私が中学生の時に初めてA部門に出場した時の自由曲が元禄であり、最初に顧問の先生が聴かせてくれたのが福岡工業大学附属高校の定期演奏会での演奏が入ったCDでした。ちょうど私がこの曲を演奏した年と福岡工業大学附属高校がコンクールで演奏した年が一緒だったため、全国大会での元禄の演奏を聴いてみたいと思って購入したCDが私が初めて購入した全国大会のCDとなりまして、この中に入っている演奏は特にたくさん聴いたことで鮮明に記憶に残っています

冒頭から凄まじい音圧のトゥッティサウンドに痺れますが、序奏での各楽器のソロはもちろんのこと、煌びやかなハープがとてもいい味を出していて日本美の世界観の表出が大変素晴らしいです。テンポが速くなる1:58からのテンポとリズムの安定感や、3:59からの中間部での木管楽器中心の美しいサウンド、5:55からの祭りの熱狂を表現する金管楽器の凄まじい音圧と最後のB-durの圧倒的な響きが特徴的ですが、一糸乱れぬトランペットセクションと要所要所を見事に決めていく打楽器セクションがこの演奏のレベルを更に上げていると思います。

福岡市立次郎丸中学校 (2005年)

元禄
作曲:櫛田 胅之扶

全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:福岡市立次郎丸中学校吹奏楽部
指揮:畑中 洋介

福岡市立次郎丸中学校が全国大会に出場したのは2005年の一度だけですが、初出場での金賞受賞に加えて前半の部1位という衝撃的な全国大会デビューを果たしました。33名という人数を全く感じさせない充実したサウンドで、真っ向勝負という言葉がぴったりな音楽性が大変魅力的です。アルトサクソフォーン・トランペットなどの各ソロは中学生離れした素晴らしさで、ほぼノーカットでの圧倒的な演奏は今でも記憶に残っている伝説の名演だと思います。

斑鳩の空

斑鳩の空
夢殿、まほろば、里人の踊り、斑鳩の空
作曲:櫛田 胅之扶

全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:桑名市立正和中学校吹奏楽部
指揮:伊藤 宏樹

斑鳩の空は、「まほろば」「夢殿」「里人の踊り」「斑鳩の空」の4楽章構成の組曲として1983年に作曲されました。「奈良・飛鳥から少し離れた矢田丘陵の麓の斑鳩と呼ばれる里は、聖徳太子の宮居として、古代文化の拠点の一つです。日本人の聖地といえます。この空の下に佇み、法隆寺を見上げて、日本人としての魂のときめきを感じました。同じこの空の下で、想いを連ねた古代の人々を偲び、作曲した作品です。また《空》は大きく広がり、世界につながっているという意味も託しています。」と作曲者が語っています。

「夢殿」《0:00~》の冒頭からオーボエの音色が鮮烈に響き渡り、0:28からは原曲でのフルートソロを移調してオーボエソロに変更しているのですがこのオーボエソロが驚愕の上手さで、その後のオーボエデュオも素晴らしく、遠くで鳴っている鐘の音と絶妙にマッチした和の空気感に浸ることができます。「まほろば」《1:48~》は金管楽器の充実したサウンドと木管楽器のメロディの歌心の対比が素晴らしく、里人の踊り《3:39~》は土俗的なリズムにぴったりとはまっている一体感が見事で、「斑鳩の空」《5:24~》は6:19のピッコロソロが奏でる寂寥感に身を委ね、遠くで鳴っている鐘の音が心を浄化されるような気持ちにさせてくれます。

あとがき

いかがでしたでしょうか。吹奏楽コンクール全国大会の自由曲として演奏されたことのある櫛田胅之扶さんの作品を、全国大会での名演を通してご紹介しました。

今回ご紹介した作品の楽譜は改訂版として現在も出版・販売されておりますので、これからもたくさんの団体によって演奏されていくことを願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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