【吹奏楽ナビ】#75 作曲家 櫛田 胅之扶①

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皆さま、こんにちは。

2025年がメモリアルイヤーとなる作曲家として、国内では櫛田胅之扶さんがこの11月で生誕90年を迎えられることを知りました。邦楽を背景にした日本的な作風の作品で広く知られる作・編曲家です。記事の公開日でもある11月19日が櫛田胅之扶さんの誕生日であるというご縁もありましたので、今回は櫛田胅之扶さんが作曲した全日本吹奏楽コンクールの課題曲を、コンクールでの名演を通してご紹介します。

プロフィール

櫛田 胅之扶(くしだ てつのすけ)さんは1935年京都に生まれ、京都教育大学にて数学を専攻する傍ら、福本正氏に作曲を学ばれました。卒業後に高橋半、高瀬古和の各氏に師事すると共に、作曲グループ「創る会」に参加し作曲活動を始められます。最初は京都の中学校で数学の教師をする傍ら作曲活動をされており、邦楽の家に生まれ育ったという環境で、作風は伝統的な邦楽を基調にした、日本的あるいは民族主義的な路線を徹底してとっています。京都女子大学文学部教育学科及び京都音楽院にて後進の指導をされていました。

1981年 東北地方の民謡によるコラージュ

東北地方の民謡によるコラージュは、1981年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。題名通り東北地方に伝わる民謡にオリジナルの旋律を組み合わせており、具体的には「南部牛追い唄」「津軽じょんがら節」「庄内おばこ」「南部二上がり甚句」などの民謡が使用されています。この年の全国大会では48.1%の団体がこの曲を演奏し、中学の部では52%、高校の部では60%と半数以上の学校が演奏した大人気の課題曲となりました。

習志野市立習志野高等学校

課題曲東北地方の民謡によるコラージュ
作曲:櫛田 胅之扶


全日本吹奏楽コンクール
1981年(第29回大会) 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:新妻 寛

2025年に38回目の全国大会出場を果たした、東関東支部を代表する千葉県の名門校である習志野市立習志野高校が全国大会に初出場した時の課題曲が 東北地方の民謡によるコラージュ でした。初出場の時点でも現在に通ずる習志野高校のサウンドだと分かることが驚異的なのですが、日本的な間の取り方、0:49のアルトサクソフォーンソロや3:22のトランペットデュオの音楽的で堂々とした演奏、テンポがゆっくりな部分と速い部分との緩急の差をうまく作り出すことによるコンクール的な見せ方の上手さなどがとても初出場とは思えず、1つの作品として聴くことができる大変素晴らしい演奏だと思います。

青森県信用組合吹奏楽部

課題曲東北地方の民謡によるコラージュ
作曲:櫛田 胅之扶


全日本吹奏楽コンクール
1981年(第29回大会) 金賞
演奏:青森県信用組合吹奏楽部
指揮:箕輪 響

青森県の職場団体である青森県信用組合吹奏楽部は、1981年に課題曲・自由曲ともに櫛田作品を演奏して全国大会初金賞を受賞し、その後2年続けて自由曲で櫛田作品を演奏していて櫛田作品を得意としていた団体でした。この演奏の最大の特徴は前半の幽玄的な部分での0:48のアルトサクソフォーンソロを本物の「尺八」を使用して演奏していることでしょう。こぶしをきかせた寂寥感漂うソロはこの曲にマッチしていて和の世界観を存分に堪能することができ、音楽的に大変素晴らしい演奏だと思います。

1994年 雲のコラージュ

雲のコラージュは、1994年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。最小の編成として23名で演奏可能となっていますが、それ以外のパートはスコアが空欄で大きな編成での演奏は適宜楽器を書き加える必要があっただけでなく、旋律と和音の加え方に若干の制約があるだけで楽器の追加や変更は自由、打楽器はバンドのイマジネーションに任せられているという、大変画期的な課題曲でした。結果としてそれぞれの団体のセンスによって個性豊かな演奏が繰り広げられ、この年の全国大会職場の部・一般の部では63.6%の団体がこの曲を演奏し、特に大人の部門で大人気の課題曲となりました。

広島市立宇品中学校

課題曲Ⅳ雲のコラージュ
作曲:櫛田 胅之扶


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:広島市立宇品中学校吹奏楽部
指揮:金田 康孝

1994年の広島市立宇品中学校は同校としては少ない人数の33人での演奏となり、作曲者が想定した編成での演奏に近いものだと思いますが、人数の少なさを感じさせない充実したサウンドに加えて特殊楽器を使わない編成による真っ当な演奏、特にシングルリード楽器を中心にしたサウンド作りはクラリネット奏者としては親近感のあるサウンドでした。5:59からのクライマックスのコラールを木管中心にしたりと木管楽器の活躍が光る演奏で、この曲の素の部分の美しさを感じることができます。

天理高等学校

課題曲Ⅳ雲のコラージュ
作曲:櫛田 胅之扶


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄

天理高校は編成にハープを加えたことによって和の雰囲気の中での優雅さを表出しており、繊細な色彩感とテンポの揺らぎはまるでフランス音楽を聴いているかのような響きを感じることができます。0:36のトランペットソロをイングリッシュホルンに変更したりと木管楽器中心ではありますが、金管楽器の豊かな響きと音色の美しさも際立っていて、全体的に隙がなく音楽的にも素晴らしい雲のコラージュの名演だと思います。

浜松交響吹奏楽団

課題曲Ⅳ雲のコラージュ
作曲:櫛田 胅之扶


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:浜松交響吹奏楽団
指揮:浅田 亨

浜松交響吹奏楽団の演奏は大編成による豊かなサウンドと柔軟な音楽表現が魅力的ですが、この演奏の最大の特徴は5:40からのクライマックスのコラールに合唱を加えていることでしょう。私が初めて聴いた雲のコラージュがこの浜松交響吹奏楽団の演奏だったのですが、雄大でありながらどこか切なさを感じる合唱があまりにも綺麗にはまっていたため普通に楽譜に書いてあるのだと思ってしまうほど音楽的なセンスの良さが光っていて、大人ならでは落ち着いた音楽性による雲のコラージュの名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。櫛田胅之扶さんが作曲した全日本吹奏楽コンクールの課題曲を、全国大会での名演を通してご紹介しました。

次回は、コンクールの自由曲で演奏されたことがある櫛田胅之扶さんの作品を、全国大会での名演を通してご紹介しようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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