【吹奏楽ナビ】#61 全日本吹奏楽コンクール課題曲⑦ 委嘱作品

  • LINEで送る

皆さま、こんにちは。

4月になり新年度が始まりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今回は、課題曲における委嘱作品についてご紹介しようと思います。全日本吹奏楽コンクールの課題曲には、全日本吹奏楽連盟からの依頼をもとにコンクールの課題曲として作曲された委嘱作品が使用されることがあります。近年では課題曲のうち1曲は委嘱作品という傾向が続いてきたのですが、今年度は委嘱作品が2曲使用されており、これは1996年度以来で約30年ぶりになります。

今年度の課題曲ではⅡとⅣが委嘱作品なのですが、どちらもタイプの違う魅力をもった作品です。課題曲Ⅱは技術的にはそこまで高い要求はされませんが、基礎的な部分に忠実で教育的な印象を受ける作品、かたや課題曲Ⅳは作曲家の色や個性が存分に表れていて、情景描写に富んだ叙景的な印象を受ける作品です。そこで今回は、委嘱作品の歴史と共に、過去の課題曲からそれぞれのタイプに該当すると私が思う作品をご紹介します。

課題曲における委嘱作品の歴史

全日本吹奏楽コンクール初期の課題曲は既存の行進曲や海外作品で構成されていましたが、1966年度から全日本吹奏楽連盟が委嘱した作品が課題曲となり始めました。さらに1972年度からは連盟による作品公募も始めることで課題曲が公募作品と委嘱作品で構成されるようになり、1977年度のように課題曲が全曲委嘱作品の年もありましたが、平均すると1年に2曲は委嘱作品が使用されていました。1993年度からはマーチの年とマーチ以外の年が交互になるのですが、マーチの年では委嘱作品が姿を消していきマーチ以外の年に1曲のみが委嘱作品という構成に落ち着きます。その後、マーチとマーチ以外が混ざる構成になった2008年度以降は、年によって委嘱作品が1曲入るかどうかという時期を経て、2017年度以降は委嘱作品が毎年1曲使用されるようになり、今年度には約30年ぶりに委嘱作品が2曲使用されるということになりました。

1978年 カント

課題曲B:カント
作曲:..マクベス


1978年 課題曲参考演奏
演奏:東京佼成ウインドオーケストラ
指揮:アントン・キューネル

1979年度の課題曲は全曲委嘱作品という構成に加えて、全日本吹奏楽連盟創立40周年記念行事としてアメリカの作曲家に委嘱されていた作品2曲が課題曲に流用されたため、大変豪華な顔ぶれの年となりました。「マスク」などで有名なウィリアム・フランシス・マクベスが作曲した「カント」は、「さくらさくら」を用いた三部形式の曲で、冒頭からユニゾンで現れる「さくらさくら」のメロディが多少の変形や和声付けを伴いながら繰り返されていくというマクベスの典型的な手法の一つが貫かれており、ウッドブロックや手拍子が面白い効果を上げるなど、初級バンドでも楽しく演奏ができるように配慮された作品となっています。残念なことにこの作品は全国大会では演奏されず録音がありませんので、東京佼成ウインドオーケストラの課題曲参考演奏をご紹介します。

私がこの曲を初めてCDで聴いた時は特に印象に残らなかったのですが、埼玉県の新人戦でとある中学校が演奏した「カント」を聴いた時に、とても良くできている曲でオーケストレーションも良くて音楽的にも素晴らしいと感動してこの曲の印象が一変したことがありましたので、是非生演奏で聴いていただきたい曲の1つです。

1983年 カドリーユ

課題曲C:カドリーユ
作曲:後藤 洋


全日本吹奏楽コンクール
1983年(第31回大会) 金賞
演奏:兵庫県立明石北高等学校音楽部
指揮:松井 隆司

カドリーユ は、今年度の課題曲Ⅱの作曲者でもある後藤洋さんの2作目の課題曲で、「カドリーユ」とは舞曲の名称ですが音楽自体はその舞曲とは関係なく、「カドリーユ」が4人1組で踊られることから4つの構成要素をもつ舞曲風音楽という意味を示したとのことで、エレガントな舞曲としてとらえていただきたいという希望から「カドリーユ」と名づけられたとのことです。幻想的な序奏から主部のロンドという分かりやすい構成に美しいメロディが印象的な作品ですが、序奏の調性がC-durという吹奏楽には難しい調性だったり、ロンドの6/8拍子の付点リズムをセンス良く演奏するのが難しかったりと、教育的でありながら音楽的なセンスを要求される、課題曲として申し分ない作品となっています。

私の母校である兵庫県立明石北高校が全国大会初出場にして金賞受賞となった伝説的な名演で、序奏の真っ当な音楽性と全楽器のレガート奏法の美しさ、ロンドでの音楽的なセンスの良さとトロンボーンセクションの技量の高さなどが大変魅力的な演奏です。

1996年 管楽器のためのソナタ

課題曲Ⅰ:管楽器のためのソナタ
作曲:伊藤 康英


全日本吹奏楽コンクール
1996年(第44回大会) 金賞
演奏:薔薇崇師ウィンドシンフォニー
指揮:塩谷 晋平

「ぐるりよざ」などで有名な作曲家の伊藤康英さんですが、実は私には大学1年生の時に履修したソルフェージュの授業の担当教官が伊藤康英先生だったというご縁があります。1996年度の課題曲を依頼された伊藤康英さんが書いたのは、展開部にフーガを含む古典的なソナタ形式の室内楽のような音楽で、曲名が「管楽器のためのソナタ」でした。個々のパートは技術的には易しめですが、アンサンブルとして完成させるのはなかなかに難しく、そういう意味では理想的な課題曲と言えるでしょう。

薔薇崇師ウィンドシンフォニーの演奏は音楽的にとても自然で各声部のバランスの取り方が素晴らしく、この曲のアンサンブルの難しさを感じさせない見事な演奏で、この年の課題曲Ⅰにおける唯一の金賞受賞となりました。

1985年 Overture FIVE RINGS

課題曲A:Overture FIVE RINGS
作曲:三枝 成章


全日本吹奏楽コンクール
1985年(第33回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人

「機動戦士Zガンダム」などで有名な作曲家の三枝成章さんが、NHK新大型時代劇「宮本武蔵」の音楽を課題曲のために再構成した作品が Overture FIVE RINGS です。冒頭から大活躍のピッコロ、6連符を始めとして縦横無尽に荒れ狂うクラリネット、凄まじい音圧とスタミナまで要求される金管楽器、これでもかと乱れ打つティンパニなど、課題曲の枠を超えた異色中の異色作となっています。

中央大学の演奏は、さすが大学生と思えるパワフルかつ完成度の高い名演で、この曲の魅力を最大限に伝える名演だと思います。

1989年 風と炎の踊り

課題曲A:風と炎の踊り
作曲:小長谷 宗一


全日本吹奏楽コンクール
1989年(第37回大会) 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実

風と炎の踊り は、早くから作・編曲家や指揮者として吹奏楽やバレエの現場で活躍していた小長谷宗一さんが作曲した、手慣れたオーケストレーションによるファンタジー溢れる作品です。架空のバレエのストーリーが設定されており、その情景が目に浮かぶような作品でありながら、演奏時間を4分以内に収めるというこれぞ正にプロの仕事だと言える作品だと思います。

埼玉栄高校の演奏は隙がなく、どの楽器もレベルが高いですが特に打楽器セクションのレベルの高さが際立っている完成度の高い名演だと思います。

1994年 ベリーを摘んだらダンスにしよう

課題曲Ⅰ:ベリーを摘んだらダンスにしよう
作曲:間宮 芳生


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 銀賞
演奏:神奈川県立野庭高等学校吹奏楽部
指揮:中澤 忠雄

ベリーを摘んだらダンスにしよう は、日本古来の民謡のみならず世界の民俗音楽に精通している間宮芳生さんの3作目の課題曲で、「短い北欧の夏の間、いっせいに野の花が咲き、ベリーが実をつけると、村人が太陽光を求め、そしてベリーを摘むために野に出る」という作曲者自身の中の北欧の情景のイメージが目に浮かぶような作品です。可愛らしい曲調とは裏腹に技術的には大変難しく、全国大会金賞の演奏でも何かしらの問題が見えてしまう難曲だと思います。

神奈川県立野庭高校の演奏は、冒頭のクラリネットの超難所であるシ♭とソのトレモロが完璧で、難しいはずのアンサンブルをさらりとこなしていることに驚愕する演奏です。中間部のテンポが速めで音楽がさらっと流れていくことが惜しいといえば惜しいのですが、その代わりに速い部分のアンサンブル精度の高さが際立って恐ろしく、とても銀賞とは思えない名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。課題曲における委嘱作品の中から今年度の課題曲のタイプに該当すると思われる作品と演奏を6つご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

欲しい楽譜がきっと見つかる!

楽譜のことなら
『株式会社ミュージックエイト』

吹奏楽、金管バンド、器楽、ソロからアンサンブルまで
国内楽譜・輸入楽譜ともに豊富に取り揃えております。

ぜひ一度ご覧ください!


ご購入・お問合わせはこちら