【吹奏楽ナビ】#54 バレエ音楽「くるみ割り人形」

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皆さま、こんにちは。

早いもので2024年もあと少しとなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は本番の都合で朝早くに家を出ないといけなかったり、会場が学校の体育館だったりと12月の寒さを強く感じる毎日を過ごしておりました。

12月はクリスマスシーズンで街中にクリスマス音楽が溢れていますが、クラシック音楽のクリスマスといえば、チャイコフスキー作曲の バレエ音楽「くるみ割り人形」が定番となっています。ここ数年の12月にはバレエ公演での「くるみ割り人形」全曲の演奏の機会をいただいていましたが、今年は残念ながら演奏の機会がないので、私が「くるみ割り人形」の曲に興味をもつきっかけとなった吹奏楽コンクール全国大会での演奏をご紹介して、クリスマス気分を皆さまと共有しようと思います。

「くるみ割り人形」

ロシアの作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが作曲したバレエ音楽「くるみ割り人形は、チャイコフスキーが手掛けた最後のバレエ音楽であり、1892年にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演されました。この作品のあらすじを簡単にご紹介しておきましょう。

クリスマスの夜、広い大広間では盛大なパーティーが行われ、そこで少女クララは老人からくるみ割り人形をプレゼントされます。パーティーが終わりみんなが寝静まった頃、ベットに寝かせておいたくるみ割り人形をクララが見に行ったとき、時計の針はちょうど12時を指し、クララの体は不思議と人形ほどの大きさになってしまいました。そこへネズミの大群が襲ってきて、くるみ割り人形が指揮するおもちゃの兵隊たちが応戦。最後はくるみ割り人形とネズミの王様の一騎打ちとなり、くるみ割り人形が危なくなった所をクララの投げつけたスリッパがネズミの王様に見事命中します。戦いを終えたくるみ割り人形はいつのまにか凛々しい王子となり、クララをお菓子の国に招待し、二人は旅立つというファンタジーあふれる物語です。

フォスターミュージック株式会社 ホームページ バレエ音楽「くるみ割り人形」より:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー arr. 石津谷治法 概要より引用

「くるみ割り人形」の曲を知らない人でも、「花のワルツ」を聴いたことがあるという人はたくさんいると思います。それぐらいに「花のワルツ」がクラシックの曲として有名であり、チャイコフスキー自身が編んだ演奏会用組曲にも入っているのですが、意外にも「花のワルツ」が吹奏楽コンクール全国大会で演奏されたことはありません。他にも、昔のCMで使われていた「葦笛の踊り」や、「行進曲」、「金平糖の精の踊り」が組曲に入っている曲の中で有名だと思われるのですが、これらの曲も全国大会では演奏されていないのです。オーケストラの演奏会では演奏会用組曲の演奏機会が圧倒的に多いですが、バレエ全曲版の曲にも名曲がたくさんあり、特にコンクールでは吹奏楽の編成で魅力的に聴こえる曲が選ばれて演奏されている印象です。

飯能市立加治中学校 (2001年)

バレエ音楽「くるみ割り人形」より
お菓子の王国、チョコレート、アラビアの踊り、トレパーク、コーダ
作曲:P.チャイコフスキー 編曲:中川 徳夫


全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:飯能市立加治中学校吹奏楽部
指揮:中川 徳夫

1999年に全国大会初出場での金賞受賞というデビューを果たし、2000年の全国大会金賞受賞で三金のリーチがかかった2001年に朝1番という出演順にも関わらず全国大会三金を達成した、飯能市立加治中学校の演奏です。

第2幕最初の曲であるお菓子の王国《0:00~》の雄大な音楽から始まります。チョコレート《1:01~》ではスペインのリズムにのった踊りが情熱的に繰り広げられていきます。アラビアの踊り《2:17~》になるとゆったりとしたテンポで民謡調のメロディが表情豊かに歌われていき、トレパーク《4:51~》ではロシアの激しい踊りを鮮やかなスタッカートで爽快に演奏した後、中学生らしい素直で軽快なコーダ《5:50~》に突入します。金管楽器の音圧や木管楽器の連符に圧倒されて、楽しい雰囲気に溢れたまま曲が終わります。

私はこの演奏でチョコレートコーダを初めて聴き、その後オーケストラの全曲版を探して聴くぐらい好きな曲になりました。飯能市立加治中学校の演奏は課題曲を含めて朝1番とは思えない見事な演奏で、現在までで唯一の「くるみ割り人形」での金賞受賞となっています。

根上町立根上中学校 (2003年)

バレエ音楽「くるみ割り人形」ファンタジー
序曲、情景とグロスファーター・ダンス、トレパーク⦅金平糖の精の踊り⦆、くるみ割り人形とねずみの王の戦い、チョコレート、パ・ド・ドゥ、冬の松林、道化師の踊り
作曲:P.チャイコフスキー 編曲:後藤 洋


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 銀賞
演奏:根上町立根上中学校吹奏楽部
指揮:田中 一宏

根上町立根上中学校と田中一宏先生、作編曲家の後藤洋さんのタッグによって数々の名編曲が生み出された中の1曲で、ファンタジーに溢れた美しく賑やかな音楽を目指していて、たくさんの場面が次々に(時には断片的に)変化していくように構成された「くるみ割り人形」のファンタジーとなっています。

第1幕最初の曲である序曲《0:00~》で可愛らしく始まったと思ったら、スネアドラムのロールから情景とグロスファーター・ダンス《0:11~》が展開されていきます。そこからトレパーク《1:01~》に突入し、金平糖の精の踊り《1:44~》が一瞬顔を覗かせたと思ったら勢いそのままにくるみ割り人形とねずみの王の戦い《2:04~》になだれ込みます。激しい戦いの音楽からチョコレート《2:39~》にワープし、原曲のトランペットソロとは違うユーフォニアムソロがかっこよく決まって溌剌としたスペイン舞曲を聴かせた後、こちらも原曲のオーボエソロとは違うクラリネットソロに導かれて第2幕一番の見せ場であるパ・ド・ドゥ《3:32~》が始まり、原曲のバスクラリネットソロとは違うファゴットソロで表情豊かに歌われます。感動的な場面がトゥッティサウンドで歌いこまれた後、第1幕の冬の松林《5:21~》に受け継がれていって雄大なサウンドを聴かせてから、幻想的なハープを経て道化師の踊り《6:53~》が始まり、ラチェット・ムチ・サイレンホイッスルも登場して派手に盛り上げた勢いそのままに鮮やかに曲が終わります。

私はこの演奏を会場で聴いていましたが、中学生にぴったりな選曲のとにかく楽しい演奏でコンクールであることを忘れてしまう雰囲気だった記憶が残っています。ただ、高校生だった自分にはパ・ド・ドゥや冬の松林といった名曲の良さがまだ分かっておらず、この曲の良さが分かったのは大学生になってからでした。

習志野市立習志野高等学校 (2006年)

バレエ音楽「くるみ割り人形」より
冬の松林、コーダ、王子と金平糖の踊り
作曲:P.チャイコフスキー 編曲:石津谷 治法


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 銀賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:石津谷 治法

ロシアの作曲家のオーケストラ作品の吹奏楽編曲を数多く残している石津谷治法先生が、2006年に当時吹奏楽部顧問を勤めていた習志野市立習志野高校で初めてチャイコフスキーの曲を演奏しました。

第1幕のくるみ割り人形とねずみの王の戦いの終盤《0:00~》を導入部分として、冬の松林《0:17~》が始まります。チャイコフスキーらしい分厚い響きと習志野高校特有のよくブレンドされたサウンドがこの曲にぴったり合っていて、雪の中の松林の情景が見えてくるようです。弦楽器を意識した雄大なフレーズの歌いこみが大変魅力的で、この曲の良さを最大限に引き出しています。爽やかで軽快ながら分厚いサウンドも持ち合わせているコーダ《2:29~》を挟んで、ハープのアルペジオから王子と金平糖の踊り(パ・ド・ドゥ)《3:45~》が始まります。原調での演奏でオーケストラ原曲の雰囲気を損なうことなく進んでいき、4:31のオーボエソロが美しい音色で切なく響き渡ります。演奏時間の都合なのは重々承知していますがこの直後のバスクラリネットソロの部分がカットされたのが非常に惜しく思えるぐらいの感動的な演奏で、アゴーギグを伴った情熱的な歌いこみが大変素晴らしく、最後までチャイコフスキーらしさを保ったまま曲が終わります。

この演奏も朝1番とは思えない見事な演奏で(「くるみ割り人形」には朝1番になる呪いでもかかっているのでしょうか?)、もっと後ろの出演順だったらどれほどの名演になったのだろうと思わせてくれます。この演奏で冬の松林王子と金平糖の踊り(パ・ド・ドゥ)の良さを初めて知り、その後オーケストラのバレエ全曲版で初めてバスクラリネットパートを演奏した時の感動は相当なものでした。何度演奏してもやはり名曲だと感動できる曲です。

あとがき

いかがでしたでしょうか。バレエ音楽「くるみ割り人形」の、コンクールでの名演をご紹介しました。吹奏楽コンクールではなかなか評価されにくい「くるみ割り人形」ですが、組曲版だけでなく全曲版にも魅力的な曲がたくさんありますので、オーケストラの原曲に興味をもつきっかけになってもらえたらと願っています。

私の2024年は例年よりもたくさんの演奏の機会をいただくことができまして、プレッシャーのかかる本番も多かったですが充実した日々を送ることができました。来年も演奏の機会をいただけることを願いつつ、皆さまにたくさんの魅力的な演奏をご紹介することができればと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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