【吹奏楽ナビ】#55 クープランの墓

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皆さま、こんにちは。

2025年の巳年を迎えました。本年も、何卒よろしくお願い致します。

今年最初の記事ということで、2025年がメモリアルイヤーとなる作曲家を調べたところ、モーリス・ラヴェルが生誕150年という記念の年だということが分かりました。ラヴェルといえば、当連載ではこれまでに 「ダフニスとクロエ」や、「スペイン狂詩曲」の名演をご紹介してきましたが、今回はラヴェルの作品の中で私が一番好きな曲と言っても過言ではない「クープランの墓」を取り上げます。私のこの曲との出会いからエピソードと共にご紹介していきましょう。

「クープランの墓」との出会い

中学2年生の時に吹奏楽編曲作品のオーケストラ原曲の演奏を聴いてみたいと思うようになり、最初期に購入したCDの中に「ボレロ~ラヴェル管弦楽曲集」がありました。「ダフニスとクロエ」第2組曲や「スペイン狂詩曲」などが収録されていて大変素晴らしい演奏に魅了されたのですが、このCDの演奏がシャルル・デュトワ指揮のモントリオール交響楽団だったので、同じ演奏者で他のラヴェル作品のCDがないかと探していると「マ・メール・ロワ」や「クープランの墓」などが収録されているCDを見つけて購入したのが、「クープランの墓」との出会いです。

何気なく聴いた「クープランの墓」の Ⅰ. 前奏曲 に心を奪われてしまい、他の指揮者やオーケストラのCDを購入して聴き比べましたが、当時はデュトワ指揮のモントリオール交響楽団が一番のお気に入りでこの演奏ばかり聴いていたことが懐かしく思い出されます。この演奏の特徴は指定のテンポよりも速く、鍛え抜かれたアンサンブルによる鮮やかな演奏に感銘を受けていたのですが、いざ自分が演奏してみると指定のテンポよりもゆっくりめで演奏してもアンサンブルがかなり難しく、改めてこの演奏の凄さを実感することとなりました。


シャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団による Ⅰ. 前奏曲 の演奏です。

トッカータ

私が初めて聴いた「クープランの墓」は管弦楽版でしたが、高校1年生の時の吹奏楽コンクール全国大会の実況録音版のCDに入っていた「クープランの墓」を聴くと、前奏曲に続いて始まった曲が今まで聴いたことがないかっこいい曲で一聴惚れしてしまいました。オーケストラ版には存在しない楽章だったので調べてみると、「クープランの墓」の原曲がピアノ曲であることを知り、ピアノ独奏の演奏を聴いてこの曲が Ⅵ. トッカータ という曲だと分かりました。

余談になりますが、私が大学生の時、必修科目に「ソルフェージュ」というものがあり、レベルごとにいくつかのクラスに分かれていてそれぞれに担当する先生がいらっしゃるのですが、2年生の時のある授業で曲のテンポの話になり、担当の先生が「このテンポですと私はこの曲で覚えているのですよ~」と言っておもむろにピアノで弾いたのが「クープランの墓」Ⅵ. トッカータ の冒頭だったのです。さらりと弾いた演奏があまりにも上手で度肝を抜かされたのですが、この担当の先生というのがフランス音楽の名手として有名な藤井一興先生でした。


藤井一興先生のピアノ独奏による Ⅵ. トッカータ の演奏です。

秋田県立秋田南高等学校 (2001年)

組曲「クープランの墓」より Ⅰ. 前奏曲 Ⅵ. トッカータ
作曲:.ラヴェル
 編曲:天野 正道

全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 銀賞
演奏:秋田県立秋田南高等学校吹奏楽部
指揮:阿部 智博

私が高校1年生の時の吹奏楽コンクール全国大会の実況録音版のCDに入っていた演奏団体が、秋田県立秋田南高校でした。この演奏が全国大会初演です。

Ⅰ. 前奏曲《0:00~》はデュトワ指揮モントリオール交響楽団のような高速テンポで始まります。曲冒頭のオーボエソロはオーケストラスタディの定番として有名な超難所ですが、美しい音の流れがとても素晴らしいです。木管を中心とした連符の流麗さに鍵盤打楽器の連符がブレンドして、オーケストラ原曲とは違う、吹奏楽としても独自の魅力があるフランス音楽を感じることができます。曲終盤まで乱れない連符の完成度の高さは圧巻です。ミュートトランペットのタンギングから高速テンポの Ⅵ. トッカータ《3:05~》が始まります。常に16分音符が聴こえている無窮動な楽想の曲ですが、鍵盤打楽器も含めて打楽器を16分音符のメインに据えていない天野正道さんの編曲のセンスが大変素晴らしく、主に16分音符を担当している管楽器は相当な技術力が必要ですが見事な完成度の高さです。4:28の木管楽器の浮遊感のあるメロディが美しく響き、終曲に向けてだんだんとエネルギーが溜まっていって最後まで緊張感を保ちながら華麗に曲が終わります。

全国大会会場の普門館の広さではこの曲のラヴェルの繊細さを伝えることは難しかったでしょうか。結果は惜しくも銀賞でしたが、銀賞名演と呼ぶに相応しい演奏だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。ラヴェル作曲「クープランの墓」のコンクールでの名演を、私のエピソードを交えてご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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