【吹奏楽ナビ】#53 スペイン狂詩曲

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皆さま、こんにちは。

今年の全日本吹奏楽コンクール高校の部では、自由曲でラヴェル作曲の「スペイン狂詩曲」が3校によって演奏される(しかも前半の部に固まって)という近年稀に見ることが起こりました。この作品自体は近年の全国大会で演奏されているのですが、同じ部門で複数団体によって演奏されたのはいつぶりになるのだろうと調べたところ、2008年の中学の部で3校によって演奏されていて、高校の部になると私が全国大会に出場した2002年に5校によって演奏されており20年以上も遡ることが分かりました。1990年代から2000年代にかけてはよく演奏されていた曲だったなあと大変懐かしい気持ちになりましたので、今回はラヴェルが作曲した「スペイン狂詩曲」を取り上げてみようと思います。

スペイン狂詩曲

フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが作曲した「スペイン狂詩曲」は、1895年に2台ピアノのために作曲されていた「ハバネラ」と、1907年から1908年にかけて2台ピアノのために作曲された「夜への前奏曲」「マラゲーニャ」「終曲」にオーケストレーションを施して4曲からなる組曲としたものです。この作品はスペインの民謡を引用しているわけではないのですが、スペインの色彩豊かなリズム、転調の多い旋律、装飾的な特色などが表れていて、スペイン・バスク地方出身の母をもつラヴェルの思い描くスペインが表現されているのではないかと思われます。

吹奏楽コンクール全国大会での初演は1976年の秋田市立山王中学校ですが、1990年代に全国大会に登場する頻度が増え、特に1994年以降の課題曲がマーチ以外の年(偶数年)によく演奏されるようになったという歴史があります。

常総学院高等学校 (1989年)

「スペイン狂詩曲」より Ⅱ. マラゲーニャ Ⅳ. 祭り
作曲:.ラヴェル
 編曲:八田 泰一

全日本吹奏楽コンクール
1989年(第37回大会) 金賞
演奏:常総学院高等学校吹奏楽部
指揮:本図 智夫

茨城県だけでなく東関東支部を代表する名門校である常総学院高校ですが、全国大会に初出場した時の自由曲が「スペイン狂詩曲」でした。同校の吹奏楽指導者であった八田泰一さんの名編曲による名演です。

Ⅱ.マラゲーニャ《0:00~》は少し速めのテンポでリズミカルかつ情熱的に繰り広げられていきます。Ⅳ.祭り《2:06~》は快速テンポでの切れ味抜群な演奏で、全国大会初出場でのチャレンジャー精神が良い方向に働いたアグレッシブな演奏は現在の常総学院高校の演奏とはまた違った魅力があります。イングリッシュホルンやクラリネットなどのソロ群が初出場とは思えないほど堂々としていて上手ですが、この演奏の最大の特徴としては八田先生と本図先生と常総学院高校のコンビネーションが生み出した倍音溢れる鮮烈なサウンドの凄さではないかと思います。

三重大学 (1990年)

「スペイン狂詩曲」より Ⅱ. マラゲーニャ Ⅳ. 祭り
作曲:.ラヴェル
 編曲:八田 泰一

全日本吹奏楽コンクール
1990年(第38回大会) 金賞
演奏:三重大学吹奏楽部
指揮:沖 公智

沖公智先生と三重大学といえばフランスものと言えるぐらいに、フランス音楽との相性が良い両者のコンビネーションが生み出した名演です。

Ⅱ.マラゲーニャ《0:00~》はゆっくりなテンポでありながらもリズムにのれていて、音の処理がフランス音楽に相応しいものになっています。1:26の原曲でのイングリッシュホルンソロはアルトサクソフォーンで演奏されていますが、サクソフォーン特有の色気が出過ぎずちょうど良いバランスであまり違和感なく聴くことができます。Ⅳ.祭り《2:20~》もゆっくりめのテンポで進んでいきますが、この曲でも音の処理が美しくて、4:40のアルトサクソフォーンのソロもほとんど違和感がなくて素晴らしいです。吹奏楽の倍音溢れるサウンドとはまた違った繊細でフランスの香りがするサウンドで、ラヴェルの音楽を存分に堪能することができます。

天理高等学校 (1994年)

「スペイン狂詩曲」より Ⅳ. 祭り
作曲:.ラヴェル
 編曲:八田 泰一

全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄

新子先生時代の天理高校の演奏の中でも、とりわけフランス音楽の魅力が伝わる名演だと思います。

全体的にゆっくりなテンポなのですが、音楽の揺れが時に不安定に聴こえるほどの変幻自在な音楽表現が大変魅力的な演奏になっていて、技術的な細かいミスが見られるのですがなぜかそこまで気にならず、各声部のバランス感覚が絶妙でいつ聴いても感心してしまいます。

習志野市立習志野高等学校 (2000年)

「スペイン狂詩曲」より Ⅰ. 夜への前奏曲 Ⅳ. 祭り
作曲:.ラヴェル
 編曲:八田 泰一、仲田 守

全日本吹奏楽コンクール
2000年(第48回大会) 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:新妻 寛

習志野市立習志野高校は1993年に「スペイン狂詩曲」を自由曲に選んでいますが、2000年の再演では私が知る限りでは全国大会で初めて1曲目の「夜への前奏曲」を演奏しており、この年は指揮者の新妻先生が最後の年ということもあって注目度が高かったことが思い出されます。

Ⅰ.夜への前奏曲《0:00~》は冒頭の木管楽器が誘う幻想的な世界から0:09でぶわっと柔らかいサウンドが響き渡る瞬間がとても感動的で聴き惚れてしまいます。0:54のクラリネット2本のデュオはとても難しいのですが息がぴったりでお見事です。Ⅳ.祭り《1:41~》はスペインの情熱的な部分を前面に出したアグレッシブな演奏で、習志野高校特有の柔らかいサウンドとフランス音楽の相性も良く、新妻先生の最後の年に相応しい素晴らしい演奏です。

愛知工業大学名電高等学校 (2002年)

「スペイン狂詩曲」より Ⅳ. 祭り
作曲:.ラヴェル
 編曲:小久保 大輔

全日本吹奏楽コンクール
2002年(第50回大会) 金賞
演奏:愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部
指揮:桐田 正章

桐田先生が指揮者だった時代の愛知工業大学名電高校は透明感のあるスタイリッシュなサウンドが特徴的で、特にラヴェルなどのフランス音楽によく合うサウンドだったと思います。

速めのテンポですが技術的にもテンポ的にも正確さが際立っていて、フランス音楽に必須なソルフェージュ能力が高いのだろうと思わされる演奏です。3:28や3:45からのソプラニーノサクソフォーンの高音が弦楽器のようなサウンドを作り出し、色彩感豊かな素晴らしい演奏になっています。

あとがき

いかがでしたでしょうか。ラヴェル作曲「スペイン狂詩曲」の、コンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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