【吹奏楽ナビ】#51 「メジャー・バーバラ」

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皆さま、こんにちは。

先月にはなりますが、10月の19・20日、26・27日の4日間で全日本吹奏楽コンクールが開催され、以前の記事にて“吹奏楽をきっかけに認知されたであろう作品”として紹介した、ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲や、バレエ音楽「ガイーヌ」などの、私が中高生時代によく演奏されていた曲が自由曲で選曲されていて懐かしさを感じました。そこで今回も、同じく吹奏楽コンクールによって認知を広げた作品の一例として、ウィリアム・ウォルトン作曲の「メジャー・バーバラ」を取り上げてみようと思います。

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描より「メジャー・バーバラ」

正式なタイトルは『管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描より「メジャー・バーバラ」』で、私が初めてこの曲を知ったのは吹奏楽コンクール全国大会の実況録音のCDでした。当時高校生だった自分には「~的素描」という意味がよく分からないまま、今は絶滅したMDに録音して、このひたすら長い曲名を入力していたのも良い思い出です。曲名に含まれるジョージ・バーナード・ショーとは、ノーベル文学賞の受賞歴もあるアイルランド人の劇作家で、彼が1905年に執筆した戯曲が「メジャー・バーバラ」です。貧民救済を願う救世軍の将校バーバラの物語を描いたこの作品は1941年に映画化され、イギリスの作曲家であるウィリアム・ウォルトンが映画音楽を作曲しました。その映画音楽の中から4つの場面、「タイトル」、「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」、「ラブシーン」「エンドタイトル」が抜粋され、クリストファー・パルマーによってコンサート用に編曲された楽譜が本作品で、吹奏楽コンクールでは瀬尾宗利さんによる吹奏楽編曲版が演奏されています。

余談ですが「~的素描」という邦題は、その部分の原題が「A Shavian Sequence」となっていて、Shavian というのは「(ジョージ・バーナード・)ショーの〜」という意味の造語らしく、Sequence は「場面」や「一幕」という訳がここでは相応しいかと思いますので、少し意訳も踏まえると『管弦楽のための ジョージ・バーナード・ショー原作「メジャー・バーバラ」より』というようなニュアンスです。少し話が逸れましたが、それでは「メジャー・バーバラ」の名演を全国大会に登場した順でご紹介します。

文教大学 (1997年)

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描 より 「メジャー・バーバラ」
作曲:W.ウォルトン 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 金賞
演奏:文教大学吹奏楽部
指揮:佐川 聖二

「メジャー・バーバラ」が初めて全国大会で演奏されたのは1997年ですが、この年は演奏した2団体が共に金賞受賞となり、翌年以降の人気の火付け役となりました。全国大会の日程は大学の部が先だったため、文教大学が全国大会での初演団体となります。

シンフォニックなサウンドでの若々しいエネルギーに溢れたファンファーレで始まる「タイトル」《0:00~》では美しい音色で朗々と歌う木管楽器と高音をバッチリ決めていくトランペットセクションに耳を奪われ、「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」《1:43~》では緊張感を保ちながらも見事なアンサンブルを聴かせてくれます。美しいクラリネットソロで始まる「ラブシーン」《4:12~》では4:44からの原曲にはない混声合唱がとても印象的に響き渡り、「エンドタイトル」《7:04~》ではトランペットをはじめとする勇壮な金管楽器が実力を遺憾なく発揮して鮮やかに曲が終わります。

創価学会東京吹奏楽団 (1997年)

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描 より 「メジャー・バーバラ」
作曲:W.ウォルトン 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 金賞
演奏:創価学会東京吹奏楽団
指揮:佐川 聖二

1997年に「メジャー・バーバラ」を演奏した創価学会東京吹奏楽団(現在の名称は創価グロリア吹奏楽団)は東京を代表する一般団体ですが、この年が全国大会初出場となりました。指揮者の佐川聖二さんは文教大学の指揮もされていますが、各団体のカラーに合わせた音楽の違いがよく分かる演奏となっており、どちらかを選ぶことが難しく2団体ともご紹介することにしました。

落ち着いたテンポで始まる「タイトル」《0:00~》ではパワフルな金管楽器の音圧が耳に心地よく、0:35からの木管楽器のメロディもそれに負けない音圧でオーケストラのような分厚いサウンドを作り出していて、1:34のファゴットソロの音色がとても美しいです。「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」《1:43~》では落ち着きめのテンポで始まりますが2:32からのアッチェレランドの疾走感にグイグイ惹き込まれていき、クラリネット・フルート・オーボエの表情豊かなソロ回しで始まる「ラブシーン」《4:14~》では4:49からの男性合唱が独特な美しさを醸し出しています。管打楽器の演奏メンバーは全員男性なのですが、合唱でソプラノの声部も聴こえてくるのは気のせいでしょうか。その後、弦楽器のような豊かな響きのメロディがホールに響き渡って、金管楽器を中心とした圧倒的なサウンドが特徴的な「エンドタイトル」《7:11~》で幕を閉じます。

狭山ヶ丘高等学校 (1998年)

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描 より 「メジャー・バーバラ」
作曲:W.ウォルトン 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:狭山ヶ丘高等学校吹奏楽部
指揮:佐々木 隆信

「メジャー・バーバラ」が全国大会に初登場した翌年の1998年には高校の部で2校が演奏し、その内の1校が狭山ヶ丘高校です。

スピード感溢れるファンファーレとテヌートの表現が印象的な「タイトル」《0:00~》で始まり、「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」《1:40~》でも勢いを保ちながら緊張感のある音楽が展開されていきます。「ラブシーン」《2:57~》冒頭のソロ回しはあっさり気味ですが、合唱部分からの木管楽器が表情豊かな歌を充分に聴かせてくれて、爽やかでありながら雄大なサウンドの「エンドタイトル」《5:29~》で鮮やかに曲が終わります。

海田町立海田中学校 (2001年)

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描 より 「メジャー・バーバラ」
作曲:W.ウォルトン 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:海田町立海田中学校吹奏楽部
指揮:古土井 正巳

2001年には「メジャー・バーバラ」が全国大会中学校の部に初登場し、海田中学校が同校初めての金賞受賞となりました。

スケールの大きな音楽と中学生の若々しいエネルギーがマッチした「タイトル」《0:00~》では特にトランペットの高音の安定感が中学生のレベルを超えていて素晴らしく、「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」《1:44~》では高速のテンポで駆け抜けていく技術力の高さが際立っています。「ラブシーン」《3:59~》では一転してゆっくりめのテンポで歌いこんでいく木管楽器中心の豊かなサウンドが印象的で、「エンドタイトル」《6:26~》でも勢いが落ちないどころか更にエネルギーを増した金管楽器がパワー全開で圧巻の演奏となっています。

加古川市立浜の宮中学校 (2004年)

管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描 より 「メジャー・バーバラ」
作曲:W.ウォルトン 編曲:瀬尾 宗利


関西吹奏楽コンクール
2004年(第54回大会) 金賞
演奏:加古川市立浜の宮中学校吹奏楽部
指揮:中原 淳子

「メジャー・バーバラ」のコンクールでの演奏としてはパワフルでスケールの大きな演奏が大多数だった中で、しっかりと整理された演奏が印象に残っている浜の宮中学校の関西大会での演奏になります。

冒頭のファンファーレから一貫して和音のハーモニーの美しさが際立っている「タイトル」《0:00~》、各声部のバランスのとり方が上手で全ての声部がちゃんと聴こえてくる「アンダーシャフトの工場と田園にある彼の家」《1:33~》、美しい音色での木管楽器のソロ回しから中学生らしい素直な混声合唱と和音のハーモニーが美しい「ラブシーン」《2:40~》、金管楽器中心にしっかりと鳴っているサウンドでありながらもバランスが良くてハーモニーの美しさも感じられる「エンドタイトル」《5:03~》、なによりも最後の音が原曲通りで伸ばさず終わることにとても好感がもてます。

あとがき

いかがでしたでしょうか。管弦楽のための“ジョージ・バーナード・ショー”的素描より「メジャー・バーバラ」の、コンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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