【吹奏楽ナビ】#49 作曲家 マルコム・アーノルド①

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皆さま、こんにちは。

前回の記事では、”吹奏楽をきっかけに認知をされた作品”をテーマに「第六の幸福をもたらす宿」の名演をご紹介しました。今回はその作曲家であるマルコム・アーノルドをテーマにして、彼の残した交響曲のいくつかを吹奏楽コンクールでの名演を通してご紹介します。

マルコム・アーノルドと交響曲

イギリスの作曲家であるマルコム・アーノルドですが、作曲家として本格的にデビューする前はトランペット奏者として活躍しており、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の首席トランペット奏者を務めたほどの名手でした。自身がトランペット奏者だったこともあってか管楽器の作品が多くあり、私の本業であるクラリネットでも協奏曲2曲にソナチネなどのいくつかの作品を残しています。アーノルドの作品は金管楽器に難所が多い印象で、特にトランペットは何気ないパッセージが難しかったりさらっとハイトーンが出てきたりと、どの曲も大変な印象が強いです。

アーノルドは生涯で9つの交響曲を書き上げており、吹奏楽コンクール全国大会ではこのうち4曲が今までに演奏されています。今回は、全国大会に登場した順番でご紹介していきましょう。

交響曲第5番

柏市立酒井根中学校 (2003年)

交響曲第5番」より
Ⅱ. Andnte con moto – Adagio Ⅳ. Risoluto – Lento
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:柏市立酒井根中学校吹奏楽部
指揮:犬塚 禎浩

交響曲第5番はアーノルド自身が最も愛好していたと言われる交響曲で、1998年の文教大学の演奏が全国大会初演でした。2003年に柏市立酒井根中学校の演奏が中学校の部での全国大会初演となり、この年が同校として初めての全国大会金賞受賞となりました。

第2楽章《0:00~》は、アーノルドらしい美しくて官能的なメロディが特徴ですが、木管楽器中心のよくブレンドされた美しいサウンドでの歌いこみがこの曲にマッチしています。合唱(原曲にはない)も効果的に響いていて、オーボエの高音の切ないメロディが大変美しくて心に沁みます。不穏な空気で始まる第4楽章《3:24~》は、ピッコロの印象的なメロディが始まって金管楽器のパワフルな響きが絡んでいき、木管楽器の高速タンギングも決まっていて技術力の高さを見せつけられます。5:54からは2楽章のメロディがトゥッティになって感動的に歌われていき、最後のチャイムが入った後のディミヌエンドをカットせずにちゃんと演奏しているのが大変好感がもてます。

創価大学 (2001年)

交響曲第5番」より
Ⅲ. Con fuoco Ⅳ. Risoluto – Lento
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:創価大学吹奏楽部
指揮:佐川 聖二

吹奏楽コンクールでの交響曲第5番のカットは2楽章と4楽章を演奏するのが定番となっていますが、2001年の創価大学の演奏は3楽章と4楽章を演奏するという珍しいカットでした。

第3楽章《0:00~》は冒頭から打楽器が大活躍する楽章ですが、スケルツォ的な曲の性格をよく表現できていて、技術的に難しい楽章にも関わらずアンサンブルの完成度が大変高いです。第4楽章《3:09~》冒頭のトランペットがバッチリと決まり、金管楽器中心のサウンドの音圧の凄さに圧倒されます。緊張感を保ったまま曲が進んでいき、6:01からは指揮者の佐川さんの特徴である佐川節での歌いこみが圧巻の演奏となっています。

交響曲第2番

創価グロリア吹奏楽団 (2000年)

交響曲第2番」より
Ⅰ. Allegretto Ⅳ. Allegro con brio – Lento molto e maestoso
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2000年(第48回大会) 金賞
演奏:創価グロリア吹奏楽団
指揮:佐川 聖二

交響曲第2番が全国大会に初登場したのは2000年で、この年に演奏した文教大学と創価グロリア吹奏楽団の2団体共に金賞受賞となり、その後2002年に高校の部で2校が演奏しましたが最後に演奏されたのが2010年の中学の部で1校と今までに5団体しか全国大会で演奏されていません。1楽章冒頭にクラリネットのソロがあることやEs-durの調性が吹奏楽と相性が良いことなどから個人的には大好きな曲なのですが、特に4楽章の金管楽器が大変難しいこともあってコンクールで演奏するにはリスクが高いのだろうと思います。

第1楽章《0:00~》が重厚なサウンドで始まり、クラリネットソロをはじめとする木管楽器の豊かな音色と表現力の高さが際立っています。1:47からのトゥッティでは金管楽器の豊かなサウンドも加わって圧倒的な演奏です。第4楽章《2:42~》が高速タンギングで始まり、速めのテンポで軽快にグイグイ進んでいきます。3:11からのホルン、トランペット、トロンボーンと続いていくフーガがかなりの難所なのですが、どの楽器も太い音で堂々と吹き進んでいく様は圧巻の一言です。曲の最後まで音圧が落ちることなく、勢いがありながらも重厚に曲が終わります。

東海大学第四高等学校 (2002年)

交響曲第2番」より
Ⅰ. Allegretto Ⅳ. Allegro con brio – Lento molto e maestoso
作曲:M.アーノルド 編曲:中原 達彦


全日本吹奏楽コンクール
2002年(第50回大会) 金賞
演奏:東海大学第四高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳

2002年の東海大学第四高校の交響曲第2番の演奏は、中原達彦さんの新編曲での全国大会初演となりました。

第1楽章《0:00~》の冒頭から木管楽器のサウンドの美しさが際立っていて、繊細でありながら表情豊かな演奏がアーノルドの曲の魅力を最大限に引き出しています。金管楽器のパワーも充分にあるのですが、木管楽器中心のトゥッティサウンドの美しさに惹き込まれます。第4楽章《2:58~》は速すぎないテンポでしっかりと確実に進んでいきますが、3:28からのフーガを乗り越えて再びメロディが戻ってくる4:27から少しテンポを上げて勢いに乗り、最後まで勢いを保ちながら鮮やかに曲が終わります。

交響曲第8番

文教大学 (2004年)

交響曲第8番」より
Ⅰ. Allegro Ⅱ. Andntino Ⅲ. Vivace
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:文教大学吹奏楽部
指揮:佐川 聖二

次に全国大会に登場した交響曲第8番は、2004年に文教大学が演奏しましたが、その後支部大会で演奏されたのが2021年の東海大学付属相模高校のみという、大変レアな曲となっています。

第1楽章《0:00~》は、重厚かつパワフルな金管楽器中心のサウンドが圧巻ですが、1:12から突然可愛らしいメロディが登場したかと思えば再び冒頭の雰囲気に戻ったりと場面転換の激しさに驚かされます。第2楽章《2:46~》は、オーボエの陰鬱なメロディが印象的に響きます。第3楽章《3:46~》は、ヴィヴァーチェで狂ったように駆け抜けていきます。高速パッセージをものともせずに最後まで突き進んでいき、終盤で更にテンポが上がって狂乱で曲が終わります。

交響曲第4番

文教大学 (2006年)

交響曲第4番」より
Ⅰ. Allegro – Poco piu mosso Ⅳ. Con fuoco
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:文教大学吹奏楽部
指揮:佐川 聖二

最後に全国大会に登場した交響曲第4番は、2006年に文教大学が初演した後はこれまでに2団体が全国大会で演奏していますが、この曲もかなりレアだと言えるでしょう。

第1楽章《0:00~》は、冒頭から打楽器が大活躍する曲で、金管楽器の溢れる音圧によって熱帯夜の儀式のような独特の世界が展開されていきます。第4楽章《2:54~》は、コン・フォーコで激しく始まり目まぐるしく変化していく楽章で、打楽器が大活躍しながら金管楽器が咆えたかと思えばマーチが始まったりと何でもありの世界にびっくり仰天のおもしろい曲になっています。

あとがき

いかがでしたでしょうか。アーノルドが作曲した交響曲の、コンクールでの名演をご紹介しました。

次回は、アーノルドが作曲した映画音楽を中心に、コンクールでの名演をご紹介しようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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