【吹奏楽ナビ】#40 バレエ「ロミオとジュリエット」

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皆さま、こんにちは。

6月となり、リード楽器の演奏者としては憂鬱な気分になってしまう梅雨の時期がやってきてしまいましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

私事ですが、5月下旬にバレエの演目のオーケストラに出演しておりました。演目はプロコフィエフ作曲の「ロミオとジュリエット」で、休憩を含めて約3時間というハードな本番でしたがプロコフィエフの魅力的な音楽に囲まれて幸せな時間を過ごすことができて、“バレエ音楽の魅力”というものを再認識しました。そこで今回は、前回予告した内容とは異なりますが、題材を変更して吹奏楽コンクールで取り上げられる「バレエ音楽」のジャンルの作品の第1段として、バレエ音楽「ロミオとジュリエット」の名演をご紹介しようと思います。予告していました「カルミナ・ブラーナ」を楽しみにしてくださっていた方には申し訳ございませんが、また改めての機会に取り上げさせていただきます。

「ロミオとジュリエット」とプロコフィエフの音楽

イングランドの劇作家であるウィリアム・シェイクスピアによる戯曲「ロミオとジュリエット」は名前だけでも聞いたことがあるという人は多いのではないでしょうか。若い恋人たちが社会によって課された障壁をはねのけて愛を成就させようとするが、心無い周囲のせいで全てを失い、命を落としてしまう恋愛悲劇となっています。この魅力的な作品はオペラやバレエに翻案されたり、作品を題材として作曲されたりして、大変魅力的な音楽が数多く生まれています。

ロシアの作曲家、セルゲイ・プロコフィエフは7曲ものバレエ音楽を作曲しているのですが、「ロメオとジュリエット」はロシア革命後に海外に拠点を移していた彼の、祖国復帰第1作目となった作品です。52曲からなるバレエ音楽全曲と、作曲者自身が編んだ演奏会用組曲が3つあり、吹奏楽コンクールでは主に組曲版からの演奏がほとんどですが、全曲版からの演奏や組曲版と全曲版を組み合わせた演奏もあり、選曲によっても演奏団体の個性が光ります。

駒澤大学 (1981年)

バレエ組曲「ロミオとジュリエット」より
モンタギュー家とキャピュレット家、タイボルトの死
作曲:S.プロコフィエフ 編曲:上埜 孝


全日本吹奏楽コンクール
1981年(第29回大会) 金賞
演奏:駒澤大学吹奏楽部
指揮:上埜 孝

吹奏楽コンクールでのプロコフィエフ作曲「ロミオとジュリエット」といえばこのカットというのが一般的となっていた1980年代の演奏で、この曲の全国大会初の金賞となった駒澤大学の演奏です。

駒澤大学の演奏の特徴である硬派なカラーとプロコフィエフの音楽がマッチしており、モンタギュー家とキャピュレット家《0:00~》ではパワフルな金管楽器の音圧と重厚かつ荒々しい音楽表現を堪能することができます。タイボルトの死《2:51~》ではキレの良いはっきりしたサウンドでのスピード感溢れる音楽表現に圧倒されて、ラストはシンフォニックなサウンドで劇的に曲が終わります。

山口県立下松高等学校 (1991年)

バレエ音楽「ロミオとジュリエット」より
太公の宣言、タイボルトの死、ジュリエットの墓の前のロミオ
作曲:S.プロコフィエフ 編曲:淀 彰


全日本吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 金賞
演奏:山口県立下松高等学校吹奏楽部
指揮:中井 勝

1987年の全国大会で、天理高校が演奏した「ロミオとジュリエット」のカットがおそらく初めて「ジュリエットの墓の前のロミオ」を演奏したもので、当時は大変話題になったのではないかと思います。天理高校の演奏も名演なのですが、今回は同じカットで名演となっている1991年の山口県立下松高校の演奏をご紹介します。

太公の宣言《0:00~》の冒頭から張り詰めた緊張感と共に冷静でいながらも誠実な音楽表現が心に残ります。タイボルトの死《1:18~》は正確なリズムで着実に演奏されていきますが、熱くなりすぎないところが逆に曲の緊張感をうまく表現していると思います。ジュリエットの墓の前のロミオ《4:55~》は美しい音色の木管楽器を中心とした音楽表現を存分に堪能することができ、最後まで緊張感が途切れることなく曲が終わります。

中央大学 (1991年)

バレエ音楽「ロミオとジュリエット」より
マドリガル、ガヴォット、タイボルトはロメオを見つける、ロメオはマキューシオの死の報復を誓う、第2幕の終曲
作曲:S.プロコフィエフ 編曲:林 紀人

全日本吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人

林紀人さんが指揮者の時代の中央大学はオーケストラ曲の吹奏楽編曲版を数多く演奏しているのですが、オーケストラ曲として有名な作品でも知られざる楽章を演奏したりと独自の世界を切り開いていて、林紀人さんが編曲した曲で今でも吹奏楽のレパートリーとなっているものが数多くあります。中央大学は1986年にもプロコフィエフ作曲「ロミオとジュリエット」を選曲していて、こちらも吹奏楽コンクールでは今まで演奏されていなかった曲を演奏していたのですが、1991年にはまた新たな曲を演奏して驚かされたのと同時にバレエ音楽の世界の広さを感じさせてくれた意味のある演奏だと思います。

マドリガル《0:00~》では木管楽器を中心とした柔らかく幅広い音色で愛の歌が奏でられますが、ガヴォット《1:42~》では一転して明るく溌剌とした踊りの音楽が繰り広げられます。そこからタイボルトはロメオを見つける《3:36~》で暗雲が立ち込めて一気に不安な気持ちになり、ロメオはマキューシオの死の報復を誓う《4:48~》では低音楽器の強烈なアクセントから始まって金管楽器の音圧に耳を奪われ、木管楽器の高速タンギングを伴った弦楽器パートの表現がとても見事です。第2幕の終曲《6:25~》では一糸乱れぬアンサンブル能力の高さを見せつけて、劇的な音楽表現に圧倒されて曲が終わります。

生駒市立生駒中学校 (2011年)

バレエ組曲「ロミオとジュリエット」より
モンタギュー家とキャピュレット家、タイボルトの死
作曲:S.プロコフィエフ 編曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2011年(第59回大会) 金賞
演奏:生駒市立生駒中学校吹奏楽部
指揮:牧野 耕也

1980~1990年代までのコンクール全国大会では比較的登場していたプロコフィエフ作曲「ロミオとジュリエット」ですが、2000年代の全国大会では演奏数が激減してしまいます。そのような中で、2008年に鈴木英史さんの新たな編曲版が登場し、全国大会中学校の部に再登場するようになりました。生駒中学校の演奏は吹奏楽コンクールでの現代版「ロミオとジュリエット」と言えるような大変素晴らしい演奏となりました。

モンタギュー家とキャピュレット家《0:00~》は緊張感がありながらも美しいサウンドで始まり、気持ちいいぐらいに鳴る低音楽器や弦楽器パートの木管楽器の音圧が圧巻です。タイボルトの死《3:08~》になっても美しいサウンドは健在で、キレの良いスピード感に溢れた演奏で終曲まで一気に進みます。冷静でいながらも緊張感が保たれていて、フライングの拍手が起こらないぐらい音楽に引き込まれていたことが分かる見事な演奏だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。プロコフィエフ作曲「ロミオとジュリエット」のコンクールでの名演をご紹介しました。

次回は、グラズノフ作曲のバレエ音楽「ライモンダ」の名演をご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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