【吹奏楽ナビ】#39 「トゥーランドット」

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皆さま、こんにちは。

今回は、前回に引き続き「歌曲」と呼ばれるジャンルの作品の第2弾として、歌劇「トゥーランドット」を取り上げます。全曲を通すと2時間に及ぶ作品ですが、吹奏楽コンクールではもちろん抜粋での演奏です。そのカット手法や編曲による演奏効果の差も大きく、コンクールにおけるこの作品の面白味の一つとも言えますので、そういった部分にも触れながらご紹介しようと思います。

「トゥーランドット」

日本で「トゥーランドット」が有名になったのは、2006年のトリノ冬季オリンピック、女子フィギュアスケートで荒川静香選手が金メダルを獲得した時のフリープログラムの曲だったということではないでしょうか。この時は主に「誰も寝てはならぬ」というテノール歌手のためのアリアが演奏されており、「トゥーランドット」というオペラの題名よりも「誰も寝てはならぬ」という曲名のほうが有名になったと思います。

イタリアの作曲家、ジャコモ・プッチーニが作曲したオペラ「トゥーランドット」は、プッチーニが作曲途中で病気のために亡くなってしまったことによって未完となってしまい、イタリアの作曲家のフランコ・アルファーノの補作を経て完成されたオペラなのですが、この作品のあらすじを簡単にご紹介しておきましょう。

歌劇は北京を舞台にしており、特定の時代背景はなく「伝説の時代」とされています。氷のように冷たく、固く心を閉ざしている姫君トゥーランドット。その美しさのあまり何度も求婚されて来ましたが、トゥーランドットのかける謎を解き明かす事、そして解き明かせなければ処刑される事を条件とし、これまで数多くの王子達が命を奪われて来ました。かつてはダッタンの王子であり、今はその名を秘めているカラフもトゥーランドットの美しさに心を奪われ、その氷のような心を解き放し、愛を知る女性に変える事を決心して謎解きに挑んで行きます。

ブレーン株式会社 ホームページ 歌劇「トゥーランドット」より/G.プッチーニ(宍倉 晃) 楽曲解説より引用

歌劇「トゥーランドット」より (木村 吉宏編曲)

歌劇「トゥーランドット」より
作曲:G.プッチーニ 編曲:木村 吉宏


全日本吹奏楽コンクール
1999年(第47回大会) 金賞
演奏:北海道大麻高等学校吹奏楽部
指揮:西井 雅司

「トゥーランドット」が全国大会で初めて演奏されたのが1999年で、全国大会初演の団体が北海道大麻高校なのですが、大麻高校はこの年が全国大会初出場でしかも金賞受賞という結果となり、いろいろな初めてが重なった記念すべき年となりました。

まずは第1幕冒頭「北京の民よ!」《0:00~》の重厚で熱情的な演奏から始まり、様々な楽器の歌心が感じられます。《2:31~》で第3幕にとんで曲想がガラッと変わり、《3:15~》から第2幕冒頭のピン、ポン、パンの3大臣のユーモラスな場面が繰り広げられます。《3:50~》で再び1幕に戻って雄大な響きを聴かせた後、《4:31~》からリュウのアリア「王子様お聞きください」がフルートソロから木管楽器群に繋がって切なくも表情豊かに演奏されます。《6:05~》でペルシアの王子が処刑場に向かう場面となって不穏な空気が流れますが、《7:01~》から第1幕最後の王子カラフが謎解きに挑戦する場面で再び雄大な音楽が豊かなサウンドで繰り広げられて、曲は劇的に終わります。

歌劇「トゥーランドット」より (石津谷 治法編曲)

歌劇「トゥーランドット」より
作曲:G.プッチーニ 編曲:石津谷 治法


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:石津谷 治法

2004年に放送されたTV番組「笑ってコラえて」の「吹奏楽の旅」で習志野高校が密着されていたことを覚えている方もいるかもしれませんが、この年の習志野高校の自由曲が「トゥーランドット」で、指揮者の石津谷先生の編曲の良さも相まって翌年以降に「トゥーランドット」が大人気となったことが懐かしいです。

曲は第2幕第2場「あなたの出した3つの謎を」《0:00~》から始まり、ミュート付き金管楽器の印象的な音色から、木管楽器の歌心に溢れた表情豊かな演奏が繰り広げられます。そこから第1幕の「砥石よ回れ」《1:04~》で激しいアクセントを伴う音楽を聴かせた後、《1:52~》から第2幕第2場のトゥーランドットのアリア「この宮殿の中で」が演奏されます。この部分は習志野高校の柔らかくブレンドされたサウンドにオペラならではの歌に溢れた表情豊かな演奏がホールに美しく響き渡ります。そして打楽器のロールから、第3幕第2場の終曲「我らが皇帝陛下万歳!」《4:09~》でプッチーニの雄大な音楽を美しくも音圧のある豊かなサウンドで聴かせてくれて、感動的に幕を閉じます。

歌劇「トゥーランドット」より (後藤 洋編曲)

歌劇「トゥーランドット」より
作曲:G.プッチーニ 編曲:後藤 洋


全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実

今でこそオペラの吹奏楽編曲作品をコンクール自由曲に選んでいる印象が強い埼玉栄高校ですが、オペラの吹奏楽編曲作品を初めて自由曲に選んだ2006年の曲が「トゥーランドット」で、後藤洋さんの新編曲での登場となりました。

まずは第1幕冒頭「北京の民よ!」《0:00~》が重厚かつキレの良いサウンドで始まり、随所で聴こえる打楽器群がとても良い仕事をしていると思います。《1:41~》から第3幕のカラフの有名なアリア「誰も寝てはならぬ」がオーボエソロで演奏され、オーボエの美しい音色がホールいっぱいに響き渡ります。《2:16~》からの第2幕「私の勝利が」で不穏な予感を感じさせて、《2:40~》からの第1幕「砥石よ回れ」でスピード感に溢れた演奏を聴かせてくれます。《4:12~》からの第2幕のアリア「世界のすみずみから」では、木管楽器主体の豊かなサウンドで歌のフレーズを研究し尽くしたアゴーギグによる音楽的な演奏を堪能することができます。そして《4:57~》からの第3幕フィナーレ「おお神聖なる父君陛下よ」につながっていき、打楽器の演奏効果が存分に発揮されたパワー全開のトゥッティサウンドに圧倒されて、壮大に幕が閉じます。

あとがき

いかがでしたでしょうか。「トゥーランドット」のコンクールでの名演をご紹介しました。

次回は、オルフ作曲の「カルミナ・ブラーナ」の名演をご紹介したいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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