【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#23

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皆さま、こんにちは。

ここ数回の記事ではオーケストラ曲の吹奏楽編曲版の演奏をご紹介しましたので、今回はその流れを汲んで”吹奏楽編曲”という部分にも着目して、2015年全国大会高校の部から、習志野市立習志野高校の演奏になります。

市立習志野高校については過去の記事でもご紹介しておりますので、よろしければこちらの記事もご一緒にご覧いただけると幸いです。
名演紹介 #7 課題曲Ⅰ:さくらのうた/習志野高(12年)

名演紹介 #23 スペイン奇想曲/習志野高(15年)

スペイン奇想曲より Ⅲ.アルボラーダ Ⅳ.情景とジプシーの歌 Ⅴ.アストゥーリアのファンダンゴ
作曲:N.リムスキー=コルサコフ 編曲:石津谷 治法


全日本吹奏楽コンクール
2015年(第63回大会) 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:石津谷 治法

ニコライ・リムスキー=コルサコフが1887年に作曲した「スペイン奇想曲」は、吹奏楽コンクール全国大会での初演が1967年と古く、1980年代に特に中学の部で流行った歴史があります。1990年代からは演奏回数がガクッと減ってしまうのですが、吹奏楽向きの明るい曲調でありながらも技術的に難しいソロが多く、リムスキー=コルサコフの見事なオーケストレーションを吹奏楽に編曲する難しさも影響していると思います。

市立習志野高校の演奏では同校指揮者の石津谷先生の吹奏楽編曲版を使っていますが、この編曲の一番の驚きは5楽章のアストゥーリアのファンダンゴが原調であることです。1980年代によく演奏されていたウィンターボトム編曲版の5楽章はB-durで、これは吹奏楽がフラット系の調の楽器が多くて音が合いやすく演奏しやすいことが大きな理由ですが、原調はA-durというシャープ系の調で吹奏楽ではかなり難しいとされる調です。しかもオーケストラの弦楽器パートを担当するクラリネットがB管でアルトサクソフォーンがEs管なのでとてつもなく難しい楽譜になります。クラリネットはA管を使えば何とかなりますが、サクソフォーン属は機動力が高いとはいえどんなに難しかったのだろうと思ってしまいます。

演奏について

Ⅲ.アルボラーダ《0:00~》の冒頭から明るく快活な演奏で、スペインの太陽がまぶしく輝きながら登る朝の情景が見えてきます。0:15からのクラリネットソロはオーケストラの入団試験にも出るほどの難所で特にタンギングが難しいのですが、芯があってよく通る音での堂々とした吹きっぷりはプロのオーケストラ奏者のレベルです。0:56からの恐ろしく高速な連符がしっかりと聴きとれるのは驚愕するしかありません。

Ⅳ.情景とジプシーの歌《1:15~》は、輝かしい金管楽器のファンファーレで始まります。1:43からはオーケストラ原曲ではヴァイオリン1本のソロですが、ソプラノ・アルトサクソフォーンのソリから始まってクラリネット、オーボエ、フルート、ピッコロと繋がっていく編曲が素晴らしく、ヴァイオリン特有の表現が管楽器で表せています。その後、低音域から高音域までの広い音域をものともせず美しく吹きこなすフルートソロ、アルペジオの繋がりが見事なクラリネットソロ、よく通る美しい音色が印象に残るオーボエソロから、本職かと思うような華麗で上手すぎるハープのカデンツァとソロ群がこれでもかと魅せてくれます。3:49からのクラリネットセクションはオーケストラの弦楽器と聴き間違えるぐらいのしっかりとした息圧による攻めの表現が圧巻です。

Ⅴ.アストゥーリアのファンダンゴ《5:25~》が原調で始まり、カスタネットが大活躍します。シャープ系の調を演奏しているとは思えないぐらい鮮やかに曲が進んでいき、ファンダンゴの舞曲のリズムのとり方もバッチリで各色にある難所をいとも簡単に越えていきます。7:48からのテンポが上がってからが弦楽器パートの超難所になりますが、ミスを恐れずガンガン攻めていく木管楽器には尊敬の気持ちすら覚えます。終曲に向かって更に勢いが増していき、強烈なAの音の伸ばしで曲は終わります。

あとがき

いかがでしたでしょう?オーケストラ曲の魅力が最大限に発揮された、吹奏楽コンクールならではの名演をご紹介しました。

私はこの年の東関東大会で習志野高校の演奏を生で聴いていて感動しましたが、全国大会では更に高いクォリティの演奏となっていて記憶に残る名演となりました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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