【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#15

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皆さま、こんにちは。

お盆休みが終わりましたが、まだまだ猛暑が続く毎日ですね。

今回は、ヒル作曲の「セント・アンソニー・ヴァリエーション」をご紹介します。

名曲紹介 #15 セント・アンソニー・ヴァリエーション

ウィリアム・H・ヒルが作曲した「セント・アンソニー・ヴァリエーション」は、吹奏楽コンクールだけでなく演奏会のプログラムに入るなど、プロアマ問わず幅広く演奏されているのですが、この曲が日本の吹奏楽シーンで流行るまでに数奇な運命を辿ることになります。

「セント・アンソニー・ヴァリエーション」は、1979年にカリフォルニア州のトーマス・ダウニー高校バンドの委嘱により作曲され、翌年の1980年に作曲者自身がカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校ウインドアンサンブルの指揮者として来日した際に日本初演が行われました。この変奏曲の主題となっているのは、17世紀ヨーロッパの聖歌として有名な「セント・アンソニー」であり、ハイドンはこの旋律を1780年頃の作品「6つの野外組曲」第6番変ロ長調の第2楽章に用いています。後にブラームスも1873年に「ハイドンの主題による変奏曲」として、同じ旋律を主題に用いて管弦楽曲を作曲しています。

こちらが「セント・アンソニー・ヴァリエーション」原典版の演奏になります。

日本初演の翌年、1981年の吹奏楽コンクールにおいて文教大学がこの曲を取り上げ、コンクール用の縮小改訂には作曲者の許諾を得て同吹奏楽部の音楽監督であった作曲家の柳田孝義氏があたり、主題再現部を加筆して原曲では最後には原型で現れることのない“聖アンソニーのコラール”が演奏される版を作成しました。この年の文教大学は全国大会まで進みましたが、残念ながら結果は銀賞。当時は金賞団体の演奏しかライヴレコードに収録されなかったこともあり、曲もさほど知られることはありませんでした。

その数年後、1985年の吹奏楽コンクールにおいて天理高校がこの曲を取り上げ、同校の活動に協力していた中屋幸男氏による縮小改訂版が演奏されました。この縮小改訂版は柳田氏の版で加えられた再現部も新しく作り直されており、この演奏が全国大会で金賞を受賞して一躍話題となります。その後ミュージック・エイト社から正式に出版されることとなり、これが現在最も演奏されている版となっています。これら一連の作業はすべて作曲者であるヒル氏の許諾のもとに行われ、自作の他者による縮小改訂版を作曲者自身が認めた稀有な例と言えます。

それでは、吹奏楽コンクールでの演奏を4つご紹介しましょう。

文教大学 (1981年)

1981年(第29回) 全日本吹奏楽コンクール 銀賞
演奏:文教大学吹奏楽部
指揮:山田 敏彦
編曲:柳田 孝義

「セント・アンソニー・ヴァリエーション」の全国大会初演の演奏と同時に、柳田孝義編曲版の唯一の演奏だと思われます。5:43からがこの編曲によって加わった部分になりますが、後にご紹介する天理高校のカットにも影響を与えているので、この演奏がなかったら天理高校の演奏は生まれていなかったかもしれないと考えると大変貴重な演奏だと思います。

天理高校 (1985年)

1985年(第33回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄
編曲:中屋 幸男

天理高校の演奏の中でも屈指の名演として名高い演奏ですが、「セント・アンソニー・ヴァリエーション」日本中で爆発的な人気が出ることになったという意味で歴史的な名演となっています。

全く隙のない磨き上げられたアンサンブルで、全ての楽器の演奏技術と表現力が高く、原曲以上に感動的な曲となったカットと編曲の力、どれもが素晴らしいです。

この年の同校の課題曲B、真島俊夫さん作曲の波の見える風景も大変素晴らしい名演なので、是非一緒に聴いていただきたいです。

宝塚市立宝梅中学校 (1991年)

1991年(第39回) 全日本吹奏楽コンクール 特別演奏
演奏:宝塚市立宝梅中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之
編曲:中屋 幸男

宝梅中学校が全国大会五金を達成した翌年の1991年に、全国大会での特別演奏の中の1曲として演奏されました。

宝梅中学校の特徴である柔らかくてよくブレンドされたサウンドと木管楽器の美しい音色がこの曲にぴったりで、高いレベルの金管楽器と打楽器と合わさって特別演奏とは思えないほどの名演となっています。

平田市立平田中学校 (1999年)

1999年(第47回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:平田市立平田中学校吹奏楽部
指揮:古川 慎治
編曲:中屋 幸男

パワー全開の金管楽器のファンファーレから始まり、全曲を通してゆっくりめのテンポでの大きなスケールの演奏が中学生らしくて心に残ります。オーボエが全編にわたって大活躍で、アンサンブルに隙が無くかなり練習されていることがよく分かります。この曲の魅力が最大限伝わる演奏だと思います。

この年の同校の課題曲Ⅱ、レイディアント・マーチの演奏もとても素晴らしいので、是非一緒に聴いていただきたいです。

あとがき

いかがでしたでしょう?吹奏楽オリジナル作品の名曲「セント・アンソニー・ヴァリエーション」のコンクールでの名演をご紹介しました。

最近は全国大会ではなかなか演奏されませんが、この曲のような吹奏楽オリジナル作品の名曲をコンクールで聴くことができるとほっとするので、また演奏される時代になるといいなと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。


セント・アンソニー・ヴァリエーションズ【St.Anthony Variations】《原典版》
グレード:5.0
演奏時間:10分30秒

セント・アンソニー・ヴァリエーションズ【St.Anthony Variations】《コンクール版》
グレード:5.0
演奏時間:06分30秒

セント・アンソニー・ヴァリエーションズ【St.Anthony Variations】《少人数版》
グレード:4.5
演奏時間:06分30秒
編曲者:佐藤博昭

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