みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
春を迎えた金管バンド界ですが、イギリスでは英国一を決める全英選手権の地区予選が各地で開催され、波乱が相次ぐ結果となりました。また、4月初旬の週末にはオーストラリアで全国大会が開催され、競合バンド全てを抜いてBrisbane Excelsior Bandが最上級グレードで優勝、日本人奏者や由来の奏者も多く出場した本コンテスト、こちらも大いに盛り上がりを見せました。
この金管バンドナビが配信される今週末には、筆者が2024年にIBEと共に参戦したニュージーランドの全国大会も開催されます。2026年の幕開けとともに、世界各地のバンドは早くもコンテスト・シーズン真っ只中を迎えています。
さて今回は、今年70歳の節目を迎えるヤン・ヴァン デル ロースト作曲、アーサー王伝説に登場する聖剣『エクスカリバー』の特集です。日本の金管バンド界でも根強い人気を誇る本作品を、ぜひ深く掘り下げていきましょう。

作品情報
| 作曲年 | 1987年 |
| 演奏時間 | 約15分 |
| グレード | 6 (例:アーセナルやカンタベリー・コラールは4) |
| 編成 | 金管バンド |
| 他編曲版 | 吹奏楽、ファンファーレ・オーケストラ |
| 音源 | Youtube音源(イタリアの金管バンドBrassBand Überetschの演奏) |
英国ウェールズに起源を持つアーサー王伝説は、円卓の騎士や魔法使いマーリンなどで知られています。その伝説に登場する聖剣の名が『エクスカリバー(Excalibur)』です。
本作は金管バンドのために作曲され、発表後、フランダース・ブラスバンド連盟主催のアドルフ・サックス作曲コンクールにおいて受賞を果たしました。1987年の作曲以降、作曲者自身の手により吹奏楽版やファンファーレ・オーケストラ版へと編曲され、現在では世界中で高い人気を誇る作品となっています。
金管バンド界において本作は、1989年のオランダ全国大会で自由曲として選曲されて以来、長くコンテスト・レパートリーとして親しまれてきました。2025年11月に開催されたイングランド南西部ブラスバンド連盟主催のコンテストにおいても自由曲として採用されるなど、現在に至るまで多くの場で愛用され続けています。
また、日本の吹奏楽コンクールにおいても本作はこれまでに5回、自由曲として選曲されています。そのうち1回は一般の部での演奏であり、残る4回は小学校の部によるものです。これらについては、編成上、金管バンドもしくはそれに近い編成で演奏された可能性が考えられます。
エクスカリバー

もともと本作の題材であるエクスカリバーは、英国やフランスをはじめとする西ヨーロッパのケルト文化圏に由来するアーサー王伝説に登場する聖剣です。この伝承は中世のイングランドやフランスにおいて発展し、最終的にはフランスにおいて騎士物語として広く知られるようになりました。
大陸からグレート・ブリテン島(英国を構成する島)へサクソン人が侵攻し、5世紀末ごろ、それを撃退した英雄アーサーの物語が生まれました。この物語はケルト人(ブリトン人=ウェールズ人)の間で伝説として語り継がれてきました。
このアーサーの直系の子孫とされるウェールズ人たちが残した資料『マビノギオン』によって、アーサー王伝説は現代まで伝えられています。
さて、このエクスカリバーですが、本来は「カリバーン(Caliburn)」と呼ばれていたとされ、口承や創作の過程で徐々に名称が変化していったと考えられています。なお、この呼称は英語圏での読み方であり、原典の一つである『マビノギオン』に記されるウェールズ語では「Caledfwlch(カラドヴルフ)」とされています。
この剣には魔法の力が宿るとされ、ブリテン島における正統な王の象徴として描かれています。
エクスカリバーにまつわる物語は大きく二つに分けられるとされます。まず一つ目は、有名な「石に刺さった剣」をアーサー王が引き抜く逸話です。この剣はブリテン島の正統な後継者にしか抜くことができないとされ、それを見事に成し遂げたのがアーサーでした。現在でも多くのアニメや物語においてオマージュとして描かれる、非常に象徴的なエピソードです。
もう一つの説では、円卓の騎士の一人であるペリノア王との戦いで剣を折られたアーサーのために、湖の乙女が新たに授けた剣こそがエクスカリバーであるとされています。
この剣を収める鞘にも魔法の力が宿るとされ、どれほど傷を負っても血を失わないという加護が与えられると伝えられています。しかし、数々の戦いで傷ついたアーサーは、最終的にエクスカリバーを部下に託し、湖へ返還させたとされています。
修正箇所
この作品のスコアおよびパート譜をご覧になった方であればお気づきかと思いますが、本作の楽譜には多数の誤植が見受けられます。実際に、筆者がImmortal Brass Eternallyと本作品に取り組んだ際には、バンドとともに修正を施した箇所が約250箇所に及びました。
音の誤り、アーティキュレーション、スラー、強弱記号、指示表記など、多岐にわたる誤植が確認されています。そのため、本作品に取り組む際には、少なくとも各パートごとにスコアと照合しながら、相違点を修正していくことを強く推奨します。
例
| 8小節目 | 1st & 2nd Horns | 2拍目裏3連符 実音CではなくF(3拍目と同じ音) |
| 10小節目 | Solo Horn & 1st Horn | 3拍目のスラーは3拍目内の最後の16分音符まで(4拍目にはかけない) |
| 30小節目 | Euphonium | 上パート、3拍目頭は実音E |
最後に
こうした伝説を題材にした本作『エクスカリバー』は、ドラマティックな序奏に始まり、勇壮な主題と叙情的な場面を対比させながら展開していきます。アーサー王の威厳や戦いの緊張感、そして神秘的な世界観が巧みに描かれており、金管バンドの持つ豊かな響きと表現力が存分に活かされた作品です。
日本においてはブリーズ・ブラス・バンドによる名演の影響も大きく、現在に至るまで多くのバンドに取り上げられ続けています。コンサートのみならずコンテストにおいても高い人気を誇る、重要なレパートリーの一つです。
前回ご紹介した『いにしえの時から』をはじめ、ローストの作品には歴史や太古の物語を題材としたものが多く見られます。本作『エクスカリバー』(1987)、『ストーンヘンジ』(1992)、『アルビオン』(2001)は、いずれも英国中世を舞台とした三部作として知られています。
また、『The Lost Circle』(2024)もストーンヘンジに連なる英国を舞台とした作品で、2024年のブリティッシュ・オープンの課題曲として採用されました。さらに、『プスタ〜4つのジプシー・ダンス』(1988)などは、吹奏楽界においても広く知られています。
このように、『エクスカリバー』をはじめ、現在の作品へとつながる優れた作品が数多く存在します。いずれも完成度の高い楽曲ばかりですので、ぜひ幅広く触れてみてください。
それではまた次回お会いしましょう。今回も誠にありがとうございました。
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協
