【吹奏楽ナビ】#83 作曲家 J.ヴァンデルロースト①

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皆さま、こんにちは。

2026年がメモリアルイヤーとなる作曲家に、生誕70年を迎えたヤン・ヴァンデルローストがいます。吹奏楽の海外オリジナル作品のジャンルで大人気の作曲家で、日本でもコンクールや演奏会で広く演奏されています。今回は、私が吹奏楽部に入った頃のエピソードを始めとして、吹奏楽コンクール全国大会では演奏回数の少ない作品をご紹介していきましょう。

プロフィール

ヤン・フランス・ヨーゼフ・ヴァンデルロースト氏は、ベルギーに生まれ、少年時代は父親が指揮者を務めていた吹奏楽団でフリューゲルホルンを始め、14歳でトロンボーンに転向しました。18歳で レメンス音楽院に入学して教育学・トロンボーン・音楽史を学び、続いて王立ヘント音楽学校でフーガを学びました。その後アントウェルペン王立音楽院で合唱指揮をロジャー・レーンスに、作曲をウィレム・ケルステルスに師事します。現在はレメンス音楽院で教鞭を執り、同じくベルギー出身の作曲家であるベルト・アッペルモントはレメンス音楽院でのヴァンデルローストの教え子になります。

フラッシング・ウィンズ

フラッシング・ウィンズ Flashing Winds
作曲:J.ヴァンデルロースト


演奏:東京佼成ウインドオーケストラ
指揮:J.ヴァンデルロースト

フラッシング・ウィンズ は、ベルギーのアーレキーノ青少年バンドの委嘱によって1988年に作曲されました。タイトルを日本語に訳すと「きらめく管楽器」となるこの作品は演奏会のオープニングにぴったりで、吹奏楽の純粋なかっこよさを感じられる作品です。

私が中学生となって吹奏楽部に入部した頃、校長先生が市内で行われるアマチュアの吹奏楽団の演奏会のチケットを新入部員に配ってくださりました。まだ吹奏楽というものがどんなものか分かっていなくてワクワクしながら聴きに行った演奏会の、プログラム1曲目に演奏されたのがフラッシング・ウィンズだったのですが、あまりにもかっこいいオープニングに心を掴まれて吹奏楽って良いなと思ったことが記憶に残っています。私が吹奏楽に興味を持つきっかけとなった作品です。

カンタベリー・コラール

カンタベリー・コラール
作曲:.ヴァンデルロースト


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第32回大会) 金賞
演奏:関東第一高等学校吹奏楽部
指揮:塩谷 晋平

カンタベリー・コラール は、ベルギーのブラスバンド・ミッデン・ブラバントの委嘱によって1990年に作曲されました。原曲はブラスバンドの編成によって作曲されましたが、その後出版社からの依頼で吹奏楽版とファンファーレバンド版が作曲者自身によって作られました。作曲者がイングランド南東部ケント州にあるイングランド国教会の総本山であるカンタベリー大聖堂を訪れた際に得たインスピレーションを基に作曲されました。
私がこの曲を知ったのは、吹奏楽版でも原曲のブラスバンド版でもなく、東京クラリネットアンサンブルのCDに収録されていたクラリネット8重奏版でした。編曲者はその後私の師匠となる藤井一男先生でしたが、教会のオルガンのようなサウンドのクラリネットアンサンブルはこの曲の美しさをより伝えてくれるもので、そのCDの収録曲の中でも特に印象に残っていました。その後、過去の吹奏楽コンクールの実況録音版のCDで初めて吹奏楽版を聴くことになります。

課題曲が初めてマーチ以外の曲のみとなり、課題曲の演奏時間が概ね6分以上となったことで全国のバンドが自由曲の選曲に頭を悩ませた1994年、東京支部を代表する強豪校の関東第一高校は、課題曲Ⅲの饗応夫人に続いて自由曲にカンタベリー・コラールを演奏しました。自由曲にコラール!?と当時も驚かせたと想像できますが、コンクールという枠を超えた名演となり、後日、日本滞在中のホテルの部屋のラジオで偶然この演奏を耳にした作曲者のヴァンデルロースト氏がいたく感動したというエピソードがあります。
男子校特有の懐の深いサウンドによって演奏されるコラールは、メロディ先行でなく低音や中声部が音楽を語るというコンクールとしては類い稀なる特徴があります。少しミスがあるのもかえって人間味を感じさせてくれますし、現代はもちろん当時のコンクールでの演奏としても革新的で唯一無二であり、たくさんの人々の記憶に残る名演となりました。

なお、原曲となるブラスバンド版については、本連載と同じくエムハチポータルで連載中の金管バンドナビにて河野一之さんが詳細に解説をしてくださっていますので、興味のある方はぜひご一読ください。

プスタ

プスタ ~4つのロマの舞曲 より
パートⅠ、パートⅣ
作曲:.ヴァンデルロースト


東関東吹奏楽コンクール
1998年(第4回大会) 金賞
演奏:神奈川県立野庭高等学校吹奏楽部
指揮:平島 嵩大

プスタ は、ヨーロッパで放浪生活をしている「ロマ」の伝統的な舞曲をテーマに書かれた作品で、「プスタ」とは、ハンガリーを中心に東ヨーロッパから中央ヨーロッパ西部に広がる大きな平原の名称です。もともとは十数名の室内アンサンブル編成で作曲されたものに現在のパートⅠの部分を新たに書き加えて、吹奏楽の編成にオーケストレーションされました。吹奏楽版の初演は、1987年にノルベール・ノジが指揮するベルギー・ギィデ交響吹奏楽団の演奏で行われました。

神奈川県立野庭高校といえば中澤忠雄先生が指揮をされていた時代が圧倒的に有名で伝説となっている学校ですが、今回は平島嵩大先生時代の東関東大会での演奏をご紹介します。全員で27名の演奏とはとても思えない音圧で、クラリネットは4人でバンドのサウンドの芯をしっかり作っています。トランペットをはじめとしてどの楽器も上手でアンサンブルも隙がなく、A部門の小編成での演奏として一つの理想系だと思います。

エト・イン・テラ・パクス

エト・イン・テラ・パクス ~そして大地に平和を~
作曲:.ヴァンデルロースト


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 銀賞
演奏:宝塚市立中山五月台中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之

エト・イン・テラ・パクス は、ベルギーのフラーメルティンゲ吹奏楽団の委嘱によって1997年に作曲されました。タイトルを日本語に訳すと「地球に平和を」となり、平和への訴えを歌った作品で、ヴァンデルロースト氏の作品の中では特にメッセージ性の強いものとなっており、ナレーターが詩を朗読する部分があるという珍しいタイプの作品となっています。

2003年のコンクール全国大会中学の部で、宝塚市立中山五月台中学校の演奏を聴いた時のことは鮮明に覚えています。中学生にはかなりの難曲となる課題曲Ⅰのウィナーズをほとんど完璧なバランスで見事に演奏し、自由曲冒頭のD音が鳴り響いた瞬間に一気に空気が変わってこの曲の世界観に惹き込まれました。決して派手な曲ではなくコンクール向きではないのですが、約7分間の最後まで緊張感を切らさず最後の長調のハーモニーで希望へと変わる流れが中学生離れしていて大変素晴らしく、この年のコンクールの演奏の中でも特に記憶に残っている演奏です。

あとがき

いかがでしたでしょうか。J.ヴァンデルロースト氏の、吹奏楽コンクール全国大会では演奏回数の少ない作品を中心にご紹介しました。

次回は、J.ヴァンデルロースト氏の、吹奏楽コンクール全国大会で演奏回数の多い作品をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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