【吹奏楽ナビ】#80 作曲家 保科 洋②

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皆さま、こんにちは。

前回に引き続き、今年で生誕90年を迎えられる保科洋さんをテーマに、吹奏楽コンクール全国大会の自由曲として演奏されたことのある作品を、コンクールでの名演を通してご紹介します。

古祀

古祀(こし) は、1980年にヤマハ吹奏楽団浜松創立20周年記念の委嘱作品として、保科先生ご自身の管弦楽作品「祀(まつり)」を吹奏楽編成に作り直す形で作曲されました。「曲は題名が示すごとく、古い祀のイメージを作品にしたもので、厳かな祈りの部分に始まり、狂信的な踊りへと続く。一転して、艶やかな女性の踊りが始まり、儀式はたけなわとなる。やがて女性が退場し、又もや全員の踊りが始まる。踊りはますます激しさを増し、クライマックスへとなだれこむ。踊りつかれた人々は最後の祈りを捧げ、儀式は静かに終わる。以上の様な想定のもとに、曲は進行して行く。」とスコアのプログラムノートで作曲者が語っています。

東海大学第四高等学校 (1983年)

古祀
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
1983年(第31回大会) 金賞
演奏:東海大学第四高等学校吹奏楽部
指揮:井田 重芳

昨年までで42回全国大会出場という北海道を代表する名門校である東海大学第四高校の1983年の演奏です。現在も受け継がれている雄大で大らかなサウンドはこの頃から健在ですが、高校生特有の若々しさが随所に見られ、特にテンポの速い部分でのアグレッシブな演奏が大変魅力的な名演だと思います。

ヤマハ吹奏楽団浜松 (1984年)

古祀
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
1984年(第32回大会) 金賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団浜松
指揮:原田 元吉

古祀の委嘱団体であるヤマハ吹奏楽団浜松は、1980年の全国大会五金達成による全国大会での特別演奏でこの曲を演奏していますが、吹奏楽コンクールでの演奏は1984年となっており、初代常任指揮者の原田元吉さんがこの年で最後の指揮となったこともあってか独特の緊張感が感じられる演奏です。技術的にはほとんど完璧ではと思われるほど正確無比で、委嘱団体として曲を知り尽くしていて音楽的にも素晴らしく、コンクールとしても全く隙がない名演だと思います。
余談ですが、2:58の低音からのフルートの連符の部分はまるで「風紋」の冒頭のようで、古祀を聴いていた人達が初めて風紋を聴いた時の驚きが想像できます。

愁映

愁映
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
1984年(第32回大会) 金賞
演奏:関西学院大学応援団総部吹奏楽部
指揮:田中 良紀

愁映 は、1984年に関西学院大学応援団総部吹奏楽部創立30周年記念の委嘱作品として作曲され、同年7月に開催された第23回定期演奏会で初演されました。冒頭は重々しいリズムで憂いに満ちた旋律がトランペットのミュートで奏され、全体を通してゆったりとした音楽が展開されていく哀愁漂う作品です。

愁映の委嘱団体である関西学院大学は、さすが曲を知り尽くしていると感じられる熟練の演奏で、保科作品によく合うサウンドと音楽性が光る名演だと思います。決して派手な曲ではないのでコンクール向きの曲ではないと思うのですが、中間部の1:59からのゆっくりな部分でのしみじみとした寂寥感のある音楽が大変素晴らしく、この曲をコンクール自由曲に選んでくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

祝典舞曲

祝典舞曲
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 銀賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団東京
指揮:高倉 正巳

祝典舞曲 は、1983年に岡山大学交響楽団第30回定期演奏会記念の委嘱作品として作曲された管弦楽作品が原曲で、1985年に関西学院大学応援団総部吹奏楽部の委嘱によって吹奏楽編成に編曲されました。5つのパートと壮麗なファンファーレからなる祝典の舞曲で、演奏される機会があまりないと思われるのですが私は個人的にとても好きな作品です。

委嘱団体の関西学院大学の演奏も素晴らしいのですが、今回はこの曲がもつ高貴で爽やかな曲想をより表現していると思われるヤマハ吹奏楽団東京の演奏をご紹介します。冒頭から無理のない美しいトゥッティサウンドが響き渡り、テンポが速い部分でも理性と音色を保っていて、この曲の良さが伝わる演奏だと思います。

復興

復興 は、2009年にヤマハ吹奏楽団創立50周年記念の委嘱作品として作曲され、2010年1月にサントリーホールにて須川展也さんの指揮で初演されました。タイトルの「復興」“The rebirth”とは、ヤマハ吹奏楽団がたどった50年の歴史に思いを馳せつつ、未来の更なる飛躍への期待をイメージして命名されたとのことです。その後、2011年の東日本大震災以降にコンクール自由曲として盛んに演奏されるようになり、震災からの復興という願いや希望が込められたタイトルの意味をもつようにもなりました。これは、保科先生ご自身が、「タイトルは演奏する人によってその意味が変わることがある。2013年に仙台で行われた一般団体の吹奏楽フェスティバルの最後、各団体から選ばれた合同バンドの皆さんが『復興』を演奏してくれた。その時の鬼気迫るようなものすごい演奏は今でも忘れられない!その2年前におきた、2011年東日本大震災からの『復興』への演奏者の思いが、曲に乗り移ったからに違いない。作品は、作曲家のもとを離れ、演奏者一人一人の曲へと広がっていく。」という内容をインタビューで語られています。

ヤマハ吹奏楽団浜松 (2010年)

復興
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
2010年(第58回大会) 金賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団浜松
指揮:須川 展也

吹奏楽コンクール全国大会で職場の部が一般の部と統合されたのが2009年からですが、この年のヤマハ吹奏楽団浜松は三出制度により不出場となっており、統合後の職場・一般の部に初めて出場したのは2010年でした。2009年は職場団体から金賞受賞団体がなかったこともあってか、2010年はこれまでのヤマハ吹奏楽団浜松の演奏とは気合いの入り方が違ってギアが上がりまくっていたのがCDでも分かったほどの演奏だったのをよく覚えています。さすが委嘱団体と言えるほどの曲の仕上がりにプロ顔負けの技術力を見せつけてくれますが、冒頭のクラリネットの弱音の美しさはもちろんのこと、テンポが速い部分のアグレッシブな表現があまりにも素晴らしくてこの曲のかっこよさを存分に伝えてくれる名演だと思います。

柏市立酒井根中学校 (2011年)

復興
作曲:保科 洋


全日本吹奏楽コンクール
2011年(第59回大会) 金賞
演奏:柏市立酒井根中学校吹奏楽部
指揮:犬塚 禎浩

復興 の全国大会初演は2010年のヤマハ吹奏楽団浜松ですが、中学校の部での全国大会初演団体はその翌年の、東関東支部を代表する強豪校の柏市立酒井根中学校でした。中学生とは思えない桁違いの合奏力と技術力を併せ持ち、この曲がそんなに難しくないのではと思わせてしまうような圧倒的な名演によって、翌年以降に復興が大流行するきっかけとなった演奏だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょうか。吹奏楽コンクール全国大会の自由曲として演奏されたことのある保科洋さんの作品を、全国大会での名演を通してご紹介しました。

今月末に90歳の卒寿を迎えられる保科洋先生の益々のご活躍と、先生の作品がこれからもたくさんの団体によって演奏されていくことを願っています。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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