【金管バンドナビ】#63 フィリップ・スパーク作曲『Music of the Spheres 』前編

  • LINEで送る

みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

新年もあけまして、みなさまどうぞ今年もよろしくお願いいたします。

さて、2026年最初の「金管バンドナビ」では、金管バンド界にとどまらず、吹奏楽界においても広く親しまれている作品 を取り上げていきたいと思います。

なかでも今回は、本来は金管バンドのために作曲されたにもかかわらず、その後吹奏楽編成へと広がり、高い人気を獲得していった作品 に焦点を当てます。
編成の違いを越えて受け継がれてきたこれらの作品が、どのような背景と魅力を持っているのかを紐解きながら、金管バンド作品としての本来の姿にも改めて目を向けていきます。

Music of the Spheres / Philip Sparke

フィリップ・スパークが生み出した《Music of the Spheres》は、世界各地の金管バンドにより数多くのコンテストで取り上げられてきました。実際、これまでに144回にわたり選曲されており、同作品が国際的に高い評価と支持を受けていることがうかがえます。

日本では「宇宙の音楽」という名で親しまれている本作品は、吹奏楽界においても高い人気を誇っています。とりわけ「音楽×日本の夏」の象徴とも言える吹奏楽コンクールにおいては、多くの吹奏楽団体が自由曲として取り上げてきました
吹奏楽データベースの調査によれば、2026年1月現在で通算460回演奏されており、本作が日本の吹奏楽シーンに深く浸透していることがうかがえます。

フィリップ・スパーク(Philip Sparke)

https://www.philipsparke.com/biography

管楽器業界においては知らない者はいないと言っても過言ではないほど、世界的に高い知名度と人気を誇る作曲家、フィリップ・スパーク。
1951年、英国ロンドンに生まれた彼は、王立音楽大学にて作曲、トランペット、ピアノを学び、その後の作曲家としての確固たる基盤を築きました。

在学中、彼は大学吹奏楽団で演奏活動を行う一方、学友たちと金管バンドを結成し、両編成のために積極的に作曲にも取り組みました。この時期に、スパーク氏にとって初の出版作品となる金管バンド作品《Concert Prelude》、および吹奏楽作品《Gaudium》が発表されます。
その後、作曲への意欲と委嘱の機会は次第に高まり、作曲家としての評価を確立していく中で、自身初のコンテスト用委嘱作品《The Land of the Long White Cloud》を発表。同作は、ニュージーランドで開催された金管バンドコンテスト100周年記念のために書かれた作品として、現在も広く演奏されています。

その後、スパーク氏は世界中で演奏される作品を数多く生み出し、国際的に高い評価を受ける作曲家へと成長しました。75歳を迎える2026年現在においても、その創作意欲は衰えることなく、精力的に作曲活動を続けています。
直近では、2025年にスイス金管バンド全国大会2ndセクションの課題曲として委嘱を受け、《Lucerne Dances》を作曲。第一線の作曲家として、現在も金管バンド界を牽引し続けている存在であることが改めて示されています。

また、2026年1月23日から25日までの3日間、英国王立ノーザン音楽大学にて毎年開催されている金管バンドの祭典
「Royal Northern International Brass Festival」 では、スパーク氏の 75歳という節目に敬意を表し、出演するすべてのバンドが彼の作品を演奏する特別企画 が予定されています。
なお余談ではありますが、今年はブラック・ダイク・バンドのステージに日本人打楽器奏者・福原泰明氏も出演予定であり、日本の聴衆にとっても注目すべき公演となりそうです。

イベント詳細(英語)

Music of the Spheres

作曲年2004年
作曲依頼者ヨークシャー・ビルディング・ソサエティ・バンド
Yorkshire Building Society Band現・ハモンズ・バンド[Hammonds Band]
約16分
グレードAnglo Music「Elite Series」より、グレード6
初演2004年 欧州選手権(スコットランド・グラスゴー開催)

作曲者によれば、本作の題名は、紀元前6世紀頃に「サモスの賢人」と称されたピタゴラスが定式化した理論、すなわち宇宙の秩序と音楽的調和を結びつけた思想に由来していると述べられています。

ピタゴラスは、音程を数の比によって説明し、とりわけ完全五度(3:2)を基礎とした音律を理論化することで、その後の西洋音楽理論に決定的な影響を与えた人物として知られています。
こうした思想を背景に生まれた学説の一つが、いわゆる**「天球の音楽(Music of the Spheres)」** です。これは、宇宙全体の秩序は数学的かつ音楽的な調和(harmonia)によって成り立っているとするピタゴラスの考えを象徴的に表した理論であり、古代から中世にかけて、音楽と宇宙観を結びつける重要な概念として受け継がれてきました。

ピタゴラスは、太陽系に存在するそれぞれの惑星が固有の「音」を持ち、それらが集まることで**宇宙全体としての音楽的調和(musica universalis)**を奏でていると考えました。
この「音」とは、私たち人類が実際に耳で聴くことのできる音ではなく、宇宙の構造や秩序そのものを音楽として捉えるための哲学的概念であり、数と比によって支えられた宇宙観を象徴するものとされています。
フィリップ・スパークの《Music of the Spheres》は、こうした古代の宇宙観を現代の音楽語法によって再解釈し、音響として具現化しようとした作品であると言えるでしょう。


作曲者は、古代ギリシアのピタゴラスが想定した太陽系の6天体、すなわち水星、金星、地球、火星、木星、土星に着目しています。ピタゴラスは、これらの天体がそれぞれ固有の「音」を持ち、その距離の比率に応じて音階を形成し、6つの音が連なって「天球の音楽」を織りなすと考えました。
この思想こそが、《Music of the Spheres》という題名、そして作品全体の基本コンセプトの根幹を成しています。

作曲者自身は、「Music of the Spheres」というタイトルが、ピタゴラスに由来する「天球の音楽」という思想に基づいている点を大切にしていると述べています。日本では「宇宙の音楽」という呼び名で広く親しまれていますが、その背後にある古代的な宇宙観や哲学的意味合いにも目を向けることで、本作への理解はより一層深まることでしょう。

最後に

『Music of the Spheres』前編はいかがだったでしょうか。普段何気なく耳にする機会の多いこの作品について、その本来の意味やタイトルに込められた意図を、少しでも感じ取っていただけていれば幸いです。

後編では曲中に挿入されている各テーマや副題、筆者が推す名演などをご紹介します。

次回は2/6(金)12:00の配信です。

それではまた次回お会いしましょう。今回も誠にありがとうございました。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson, B&S並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。

欲しい楽譜がきっと見つかる!

楽譜のことなら
『株式会社ミュージックエイト』

吹奏楽、金管バンド、器楽、ソロからアンサンブルまで
国内楽譜・輸入楽譜ともに豊富に取り揃えております。

ぜひ一度ご覧ください!


ご購入・お問合わせはこちら