皆さま、こんにちは。
2026年の午年を迎えました。本年も、何卒よろしくお願い致します。
今年最初の記事ということで、2026年がメモリアルイヤーとなる作曲家を調べていたところ、保科洋さんがこの1月で生誕90年を迎えられることを知りました。ちょうど昨年の12月に行われた東京佼成ウインドオーケストラの演奏会で、日本のクラシック音楽界での年末の風物詩となっているベートーヴェン作曲の交響曲第9番「合唱付き」を、保科先生の新編曲で演奏するという機会に恵まれたのですが、保科先生にしかできない素晴らしすぎる名編曲によって「第九」の新たな魅力と吹奏楽の更なる可能性を感じることができました。リハーサル中に楽譜に書かれている音についてのやり取りで保科先生とお話をすることができたのですが、年齢を感じさせない受け答えからまだまだ良い作品を作られるだろうと思い嬉しい気持ちになりました。
今回は、保科洋さんが作曲した全日本吹奏楽コンクールの課題曲を、コンクールでの名演を中心にご紹介します。

プロフィール
保科洋さんは東京都のご出身で、1960年に東京藝術大学の作曲科を卒業されています。藝大の同期には兼田敏さんがおり、二人は生涯の親友となりました。藝大の卒業作品にて第29回毎日音楽コンクール作曲・管弦楽部門第1位を受賞し、以後本格的に作曲活動を始めるかたわら、東京音楽大学、愛知県立芸術大学、兵庫教育大学で教鞭をとり、作陽音楽大学客員教授、浜松アクト音楽院音楽監督を歴任されました。現在は兵庫教育大学名誉教授、浜松市アクトシティ音楽院吹奏楽部門音楽監督、フィルハーモニックウインズ浜松音楽監督・常任指揮者として、作曲・編曲だけでなく指揮も幅広く行われており精力的に活動されています。
1976年 カンティレーナ
課題曲B:カンティレーナ
作曲:保科 洋
全日本吹奏楽コンクール
1976年(第24回大会) 金賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団浜松
指揮:原田 元吉
カンティレーナは、1976年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。この曲は中学生向けのマーチをという依頼を受けて作曲されたそうですが、上手に演奏するには難易度が高く音楽的な成熟度も考えると大人向けの課題曲といえるような作品だと思います。
曲はリズミックな主部と幻想的な中間部による3部形式で、6/8拍子の軽快かつシンフォニックなコンサートマーチになっています。ヤマハ吹奏楽団浜松の演奏は明瞭で美しい発音による軽快な可愛らしさとシンフォニックなサウンドを併せ持った、コンクールとしても隙がない見事な演奏だと思います。
1987年 風紋
課題曲A:風紋
作曲:保科 洋
関西吹奏楽コンクール
1987年(第37回大会) 金賞
演奏:兵庫県立明石北高等学校音楽部
指揮:山本 茂之
風紋は、1987年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。寄せては返す波のように始まる序奏の美しく切ないメロディとファンファーレ風モティーフが、主部のVivaceで鮮やかに織り上げられていく薫り高い作品となっており、課題曲という枠を超えて絶大な人気を誇っている作品です。その後、課題曲として短縮される前の形が「原典版」として1999年に出版されましたが、私が初めて演奏したのが課題曲版ということもあって当初の形のほうが私には馴染みがあります。
私が中学生の頃、「保科洋ディレクターズバンド」という学校の先生方が所属するバンドが私の地元の明石市で定期的に演奏会を行っており、中学校の顧問の先生が出演されていたこともあって演奏会を聴きにいっておりました。保科先生が明石市の先生方とご縁があったことから保科作品の解釈には定評があると思いますので、今回は私の母校である兵庫県立明石北高校の関西大会での演奏をご紹介させていただきます。木管楽器を中心とした美しくはっきりとしたサウンドと誠実なフレージングが印象的な演奏で、明石北高校の歴代の演奏の中でも特に上手で記憶に残っている演奏です。
1998年 アルビレオ
課題曲Ⅲ:アルビレオ
作曲:保科 洋
全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:山崎町立山崎西中学校吹奏楽部
指揮:尾川 祐之
アルビレオは、1998年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。アルビレオとは白鳥座のくちばし部分にあたる星の名前で、この星は全天空で最も美しい二重星と言われており、性格の異なる2つのモティーフが絡み合って進行していく構成からこの星の名前をつけたそうで、毎回曲名の命名に苦労する作曲者自身が気に入っているタイトルでもあるそうです。
曲はシンプルな3部形式で、保科先生らしいリズミックなモティーフに叙情的なメロディや美しい対旋律が特徴的な曲になっています。全曲を通して明るさが前面に出ていて、中学生にも親しみやすい曲想で課題曲としても申し分ない曲だと思います。山崎町立山崎西中学校の演奏は良い意味でストレートなサウンドと純粋で真っ当な音楽性が素晴らしく、この曲の楽しさや吹奏楽の魅力を伝えてくれる演奏だと思います。
2017年 インテルメッツォ
課題曲Ⅲ:インテルメッツォ
作曲:保科 洋
なにわ《オーケストラル》ウィンズ 2017
演奏:なにわ《オーケストラル》ウィンズ
指揮:中川 重則
インテルメッツォは、2017年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲として全日本吹奏楽連盟より委嘱を受けて作曲されました。インテルメッツォとは「間奏曲」という意味ですが、この曲は「歌のある曲」を意図して作られたとのことで、美しいポリフォニックな曲となっています。それぞれのパートの技術的な難易度はそれほど難しくはないですが、アンサンブルには工夫が必要となるように書かれていて、課題曲として相応しい曲だと思います。
この曲は東京佼成ウインドオーケストラの参考演奏が4分30秒を超える演奏時間となっており、実際の吹奏楽コンクールでの演奏では自由曲の演奏時間のこともあってか4分台前半に収めようとして落ち着きがない演奏になってしまったり、それぞれの楽器の発音が荒くなってしまったりと曲のあるべき姿がなかなか表現されていなかった記憶が残っていますので、プロのオーケストラ奏者とオーケストラに客演している奏者で構成されている なにわ《オーケストラル》ウィンズ の演奏をご紹介します。繊細で美しい音色で紡がれるハーモニーや軽快かつはっきりとした美しい発音はさすがプロのオーケストラ奏者といえる見事な演奏で、約5分という演奏時間からも分かる落ち着いたテンポでの演奏はこの曲の理想的な姿だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょうか。保科洋さんが作曲した全日本吹奏楽コンクールの課題曲を、全国大会での名演を中心にご紹介しました。
次回は、コンクールの自由曲で演奏されたことがある保科洋さんの作品を、全国大会での名演を通してご紹介しようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

