みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
注目のヨーロッパ選手権。筆者の個人的な見解ではありますが、この大会は、金管バンドが最も盛んな地域であるイギリスをはじめ、ヨーロッパ各国のチャンピオンバンドが一堂に会する場であり、現在の“実質的な世界一”を決める大会と言っても過言ではありません。
そして気になる2025年大会の結果。今年、頂点に立ったのはどのバンドだったのでしょう?
欧州選手権2025
まずは、前回・前々回の記事をまだご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、ぜひそちらからお読みください。
簡単に振り返りますと、2025年5月の大会には、欧州各地から計15のバンドが出場しました。
ブラスバンド・オーバーエースタライヒ (Brass Band Oberösterreich) | Günther Reisegger | オーストリア 🇦🇹 | オーストリア全国大会王者 |
ブラスバンド・レーゲンスブルク (Brass Band Regensburg) | Thomas Freiss | ドイツ 🇩🇪 | ドイツ全国大会2位 |
ブラスバンド・トレーズ・エトワーズ (Brass Band Treize Etoiles) | Frédéric Théodoloz | スイス 🇨🇭 | 2024年欧州選手権ならびにブリティッシュ・オープン王者 |
ブラス・リトアニア (Brass LT) | Bjørn Breistein | リトアニア 🇱🇹 | リトアニア・チャンピオンシップス王者 |
ブラスバンド・ラインモント (Brassband Rijnmond) | Paul Holland | オランダ 🇳🇱 | オランダ全国大会2位 |
ブラスバンド・ウィルブローク (Brassband Willebroek) | Frans Violet | ベルギー 🇧🇪 | ベルギー全国大会王者 |
コーリーバンド (Cory Band) | Philip Harper | ウェールズ 🏴 | ブラス・イン・コンサート王者 |
アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグ (Eikanger-Bjørsvik Musikklag) | Florent Didier | ノルウェー 🇳🇴 | シディス・エンターテイメント・コンテスト王者 |
フォーデンス・バンド (Foden’s Band) | Russell Gray | イングランド 🏴 | 全英地区大会北西部王者、現世界ランキング1位(4barsrest調べ) |
ヤータ・ブラスバンド (Göta Brass Band) | Michael Thomsen | スウェーデン 🇸🇪 | スウェーデン全国大会王者 |
オー・ドゥ・フランス・ブラスバンド (Hauts-de-France Brass Band) | Luc Vertommen | フランス 🇫🇷 | 全仏大会王者 |
イタリアン・ブラスバンド (Italian Brass Band) | Giuseppe Saggio | イタリア 🇮🇹 | 2023年欧州選手権14位 |
リュンビ・ターベーク・ブラス・バンド (Lyngby-Taarbæk Brass Band) | Gert Skovlod Hattesen | デンマーク 🇩🇰 | デンマーク全国大会王者 |
ザ・クーオペレーション・バンド (The cooperation band) | Katrina Marzella-Wheeler | スコットランド 🏴 | フィフェ・ブラスバンド・フェスティバル王者(オープン・エンターテイメント部門) |
ヴァレイシア・ブラスバンド (Valaisia Brass Band) | Arsene Duc | スイス 🇨🇭 | スイス全国大会ならびにスイス・オープン両王者 |
結果発表

毎年、司会者や選手権スタッフ、それに各バンドのチェアマン(責任者・代表者)が壇上に並び、いよいよ結果が発表されます。
雰囲気を楽しんでいただければと思い、筆者もコーリーと一緒に出場した2012年のオランダ大会の動画リンクを貼っておきます。
さて、このような雰囲気の中で発表された、2025年ヨーロッパ選手権の結果は以下の通りです。
順位 | バンド名 | 国 |
1位 | ブラスバンド・ウィルブローク (Brassband Willebroek) | ベルギー 🇧🇪 |
2位 | アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグ (Eikanger-Bjørsvik Musikklag) | ノルウェー 🇳🇴 |
3位 | ヴァレイシア・ブラスバンド (Valaisia Brass Band) | スイス 🇨🇭 |
4位 | コーリーバンド (Cory Band) | ウェールズ 🏴 |
5位 | ザ・クーオペレーション・バンド (The cooperation band) | スコットランド 🏴 |
6位 | ブラスバンド・トレーズ・エトワーズ (Brass Band Treize Etoiles) | スイス 🇨🇭 |
7位 | オー・ドゥ・フランス・ブラスバンド (Hauts-de-France Brass Band) | フランス 🇫🇷 |
8位 | ブラスバンド・オーバーエースタライヒ (Brass Band Oberösterreich) | オーストリア 🇦🇹 |
9位 | リュンビ・ターベーク・ブラス・バンド (Lyngby-Taarbæk Brass Band) | デンマーク 🇩🇰 |
10位 | ヤータ・ブラスバンド (Göta Brass Band) | スウェーデン 🇸🇪 |
11位 | ブラスバンド・ラインモント (Brassband Rijnmond) | オランダ 🇳🇱 |
12位 | フォーデンス・バンド (Foden’s Band) | イングランド 🏴 |
13位 | イタリアン・ブラスバンド (Italian Brass Band) | イタリア 🇮🇹 |
14位 | ブラス・リトアニア (Brass LT) | リトアニア 🇱🇹 |
15位 | ブラスバンド・レーゲンスブルク (Brass Band Regensburg) | ドイツ 🇩🇪 |
優勝はオランダ王者『ウィルブローク』

ウィルブロークのメンバー、指揮者、そしてファンにとって、ついに待望の欧州王者のタイトルを手にする瞬間が訪れました。
2007年以来、実に4度目となる今回の戴冠に、ブラスバンド界は大きな話題に包まれました。
筆者もWoB(動画配信サイト)で観戦しましたが、今年のウィルブロークの演奏は圧巻でした。毎年、優勝バンドの演奏は特別な輝きを放つことが多いのですが、まさに今年のウィルブロークの演奏がそれに当てはまり、本当に凄まじく、優勝にふさわしいものでした。
現役バンドメンバーであるウィム・ベックス作曲の自由曲『The Forest for the Trees』では3位にとどまりましたが、今年の課題曲であるフレドリック・シェルデロップ作曲の『エネルギー変換』では見事1位を獲得。さらに、課題曲の得点は脅威の99点という高得点を叩き出し、総合得点195点で18年ぶりの王座奪還に貢献しました。
優勝まであと一歩

2位には、ここ数年2位と3位を行き来しているノルウェーのアイカンガーが入りました。
ノルウェーは長年、英国のライバルとして欧州選手権やブラス・イン・コンサートなどで活躍してきましたが、近年は英国勢の勢いがやや鈍る中、上位に食い込む存在となっています。しかし、2023年に3位、2024年に2位、そして今年の2025年も2位と、なかなか優勝のチャンスには恵まれていません。
辛酸を舐め続けているアイカンガーですが、おそらく来年はさらに気合を入れて挑んでくることでしょう。
絶好調のスイス勢

近年、欧州選手権やブリティッシュ・オープンなどで大活躍しているスイス勢ですが、今年はこれらの大会で優勝や連覇を続けていたトレイズ・エトワーズを退け、スイスの強豪バンドの一角であるヴァレイシアが3位にランクインしました。
過去には、2023年のブリティッシュ・オープンで2位に輝き、2024年にはその勢いのまま、強豪がひしめく全スイス大会とスイス・オープンコンテストの二冠を達成しました。その勢いを保って欧州選手権にも挑みましたが、課題曲では3位、自由曲では4位と健闘したものの、総合では惜しくも3位にとどまりました。
トレイル・エトワーズをはじめ、スイスの金管バンド業界には本当に強豪が多く、今後のスイス勢のさらなる活躍がいっそう楽しみです。
英国勢は4位、5位

欧州選手権では、2022年にコーリーバンド(英国ウェールズ)が優勝して以来、英国勢は優勝はもちろん、3位以内の入賞にも入っていません。
今年(2025年)、コーリーは自由曲で97点を叩き出し2位につけましたが、課題曲では6位にとどまりました。優勝したウィルブロークとは総合得点差が4点と決して大差ではありませんでしたが、その4点が大きく響く結果となりました。
欧州選手権史上初の女性指揮者として参戦したカトリーナ・マルツェラ・ウィーラー率いるザ・クーオペレーション(英国スコットランド)は5位に入りました。ウィーラーは初参戦ながら、強豪スコットランドバンドと共に課題曲で脅威の98点をマークし2位を獲得しましたが、自由曲が伸び悩み91点にとどまり、惜しくも5位となりました。
意外な結果
2025年5月時点で金管バンド最大手ウェブサイト「4barsrest」が発表する世界ランキングで1位だった英国イングランドのフォーデンス・バンドが、まさかの12位に沈みました。自由曲で5位につけたザ・クーオペレーションと同じサイモン・ドブソン作曲の『チベットのキリスト』は決して悪い作品ではなかったはずですが、課題曲で89点、自由曲で90点と伸び悩みました。2021年以降ほぼ全てのコンテストで優勝または上位3位に入っていた好調が、一時的に止まったように見えます。
2023年、2024年と欧州選手権を連覇してきたスイスの強豪トレイル・エトワーズも今年は6位に陥落しました。実力は言うまでもありませんが、勝利の女神に見放されたのか、なんと課題曲・自由曲の両方でくじ引きによる演奏順が1番となってしまいました。
「4barsrest」によると、欧州選手権で記録が残る2003年以降、両日ともにくじ引きで1番を引き当てて優勝したバンドは一度もありません。
2003年 | ブリッグハウス | 4位 |
2013年 | パリ・ブラスバンド | 8位 |
2014年 | コーリーバンド | 5位 |
2017年 | ブラスバンド・ブイジンゲン | 11位 |
2025年 | トレイル・エトワーズ | 6位 |
まだ冬の延長線上のような5月上旬は、ヨーロッパの方々にとって早朝からのリハーサルやコンテストが厳しい時期なのかもしれません。
欧州選手権2025動画視聴
今回ご紹介した欧州選手権の他にもさまざまなコンテストやCDなどが聴き放題のサブスク・サービス『WoB』がこちらのリンクよりお楽しみいただけます。(英語、有料)
2025年6月世界ランキング更新

欧州選手権の結果を受けて、「4barsrest」による世界ランキングが更新されました。
(欧州選手権では、1位に450ポイントが付与され、それ以下の12位までのバンドは徐々に得点が下がる仕組みとなっています。)
順位 | バンド | 国 | 得点 | 上行数 |
1 | アイカンガー・ビョールスヴィック・ムジックラーグ (Eikanger-Bjørsvik Musikklag) | ノルウェー 🇳🇴 | 1,126 | +3 |
2 | コーリーバンド (Cory Band) | ウェールズ 🏴 | 1,032 | +1 |
3 | フォーデンス・バンド (Foden’s Band) | イングランド 🏴 | 1,003 | -2 |
4 | ブラスバンド・トレーズ・エトワーズ (Brass Band Treize Etoiles) | スイス 🇨🇭 | 946 | -2 |
5 | ブラスバンド・ウィルブローク (Brassband Willebroek) | ベルギー 🇧🇪 | 858 | +7 |
6 | フラワーズ・バンド (Flowers Band) | イングランド 🏴 | 739 | -1 |
7 | ブラック・ダイク・バンド (Black Dyke Band) | イングランド 🏴 | 645 | -1 |
8 | ヴァレイシア・ブラスバンド (Valaisia Brass Band) | スイス 🇨🇭 | 618 | +2 |
9 | ブリッグハウス&ラストリック・バンド (Brighouse and Rastrick Band) | イングランド 🏴 | 493 | -2 |
10 | トラディーガー・バンド(Tredegar Band) | ウェールズ 🏴 | 488 | -2 |
1位には、ノルウェー金管バンド史上初めてアイカンガーがランクインしました。そしてコーリーは辛くも2位に浮上。さらに大きな躍進を遂げたのは、前回ランキングから7段階も順位を上げて5位につけた2025年欧州王者のウィルブロークです!
「4barsrest」は英国のサイトであるため、このランキングの性質上、どうしても英国でのコンテストの得点がやや高めに設定されています。しかし、その中でランキング上位5団体のうち3団体が英国以外のバンドであることから、欧州全域のレベルが確実に向上していることがうかがえます。
また、過去10年以上にわたって続いたコーリーバンド一強時代も終わりを迎え、現在では上位3バンドの差が100点未満と非常に接近しています。今後のコンテストの勝敗からも目が離せません。
これ以降のランキングはこちらのリンクよりご覧ください。(英語、外部サイト)
最後に
コーリーバンドの一強時代は終わり、長く続いたフォーデンスやトレイル・エトワーズの常勝も幕を閉じました。一強や連勝の流れが止まった今、どのバンドが頭一つ抜け出し、新たな時代の主導権を握るのか注目されます。
英国金管バンド業界では激戦の5月が終わり、6月にはイングランドで開催されるマーチングコンテスト「ウィット・フライデー(Whit Friday)」が盛り上がりを見せます。また、7月には昨年筆者も参加したニュージーランド・ナショナルが今年も開催されます。
世界中で引っ切りなしに開催される金管バンドのコンテストですが、日本でも近い将来開催されることを夢見て、本日はここで締めくくりたいと思います。
今回もありがとうございます。またお会いしましょう!
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。