【吹奏楽ナビ】#65 ミュージカル① ミス・サイゴン

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皆さま、こんにちは。

6月になって梅雨の時期がやってきましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

私事ですが、4月にとあるミュージカルのオーケストラメンバーのエキストラとして出演しておりました。話の内容が重く演奏するのもシビアな作品でしたので気が抜けない期間が続いたのですが、オペラとはまた違った歌の魅力を味わえる本番を通して、ミュージカルの魅力を再認識することができました。そんな出来事をきっかけに、今回から吹奏楽コンクールで取り上げられる「ミュージカル」のジャンルの作品を取り上げようと思います。第1弾は、私が吹奏楽コンクールでミュージカルというものを初めて知った曲であり、初めて生で観劇したミュージカルでもある「ミス・サイゴン」の、吹奏楽コンクールでの名演をご紹介しようと思います。

ミス・サイゴン

「ミス・サイゴン」は、クロード=ミシェル・シェーンベルクとアラン・ブーブリルの脚本、アラン・ブーブリルとリチャード・モリトビー・ジュニアの作詞、クロード=ミシェル・シェーンベルクの作曲によるミュージカルで、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」が原作になっており、ストーリーは1970年代のベトナム戦争を背景にベトナム人女性とアメリカ兵の引き裂かれた運命のロマンスを描いています。1989年にロンドンで初演され、1991年にはブロードウェイで開幕し、日本初演は1992年の帝国劇場での公演でした。来年2026年には4年ぶりに日本での公演が開催されることになっています。

埼玉栄高等学校 (2002年)

ミュージカル「ミス・サイゴン」より
序曲、我が心の夢、サイゴン陥落、今がこのとき
作曲:C.M.シェーンベルク 編曲:宍倉 晃


全日本吹奏楽コンクール
2002年(第50回大会) 金賞
演奏:埼玉栄高等学校吹奏楽部
指揮:大滝 実

私が通っていた学校が全日本吹奏楽コンクールに出場できた2002年高校の部、自分達が出演したのは後半の部でしたが、前半の部で金賞が6団体出ていたことに興味をもって聴いたCDの演奏のかっこよさに度肝を抜かれて、一気に曲のファンになったのが埼玉栄高校が演奏する「ミス・サイゴン」でした。後にミュージカルを観劇した時にはこの演奏の曲たちがどの場面で演奏されるかを探すことになるのですが、意外にもストーリー上の大事な場面で演奏される曲が少なくて驚いたと同時に、宍倉晃さんの編曲の素晴らしさを思い知らされることとなりました。

チェレスタの16分音符から始まり、ソプラノサクソフォーンのソロをはじめとする東洋的なメロディが印象的でパワフルな 序曲《0:00~》、オーボエソロの切ないメロディから木管楽器全体の歌い込みが美しい 我が心の夢《1:16~》、打楽器セクションのヘリコプターの音が迫ってきてスピード感溢れる サイゴン陥落《2:55~》、C-durになって希望に満ちたメロディが感動的な 今がこのとき《4:21~》と、約6分という演奏時間でミス・サイゴンの魅力を味わえる名演・名編曲となっています。

札幌白石高等学校 (2003年)

ミュージカル「ミス・サイゴン」より
序曲、プリーズ、今も信じてるわ
作曲:C.M.シェーンベルク 編曲:J.デ=メイ


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:札幌白石高等学校吹奏楽部
指揮:渋川 誠人

交響曲第1番「指輪物語」で有名なオランダの作曲家のヨハン・デ=メイですが、ミュージカル作品の吹奏楽編曲版も有名で、「ミス・サイゴン」だけでなく「オペラ座の怪人」「キャッツ」「エリザベート」などの作品の吹奏楽編曲版が出版されています。札幌白石高校の2003年の演奏はデ=メイ編曲版の全国大会初演となり、指揮者の渋川誠人先生と同校にとって初の全国大会金賞受賞となりました。

打楽器セクションのヘリコプターの音から金管楽器のファンファーレで 序曲《0:00~》が始まり、エキゾチックなメロディが大迫力の音圧で奏でられます。美しいメロディと木管楽器中心の表情豊かな歌が心に沁みる プリーズ《1:30~》の世界が繰り広げられた後、序曲のパッセージを挟んで 今も信じてるわ《4:30~》が始まります。物語の中でも印象的な楽曲が哀愁をおびたフリューゲルホルンのソロで奏でられ、ソロに寄り添うフルートが美しく響きます。このメロディが木管楽器全体のアゴーギグを伴った大きなうねりに繋がっていき、最後は圧巻のトゥッティサウンドを聴かせて感動的に終わります。

兵庫県立西宮高等学校 (2005年)

ミュージカル「ミス・サイゴン」より
序曲、モーニング・オブ・ドラゴン、今も信じてるわ
作曲:.M.シェーンベルク 編曲:J.デ=メイ


関西吹奏楽コンクール
2005年(第55回大会) 金賞
演奏:兵庫県立西宮高等学校吹奏楽部
指揮:吉永 陽一

私が「ミス・サイゴン」のミュージカルを初めて観劇したのは2004年の帝国劇場での公演なのですが、この時に一番印象に残った曲が 今も信じてるわ でした。その他にも モーニング・オブ・ドラゴン という曲の迫力に圧倒されたこともよく覚えており、そのどちらの曲も採用している演奏をご紹介します。兵庫県の名門校で私の母校と親交がありライバル校でもあった兵庫県立西宮高校の、2005年の関西支部大会での演奏になります。

ヘリコプターの効果音などを入れず、硬派に金管楽器のファンファーレから 序曲《0:00~》がパワフルなサウンドで繰り広げられていきます。低音の表打ちとファゴットのデュオから モーニング・オブ・ドラゴン《2:12~》の行進が始まり、淡々としたリズムが独特の緊張感を醸し出していて恐怖を感じさせます。アルトサクソフォーンのソロで少し早めのテンポで始まる 今も信じてるわ《5:19~》は伴奏パートの充実した響きでの表情豊かな演奏が素晴らしく、熱くなりすぎないながらも楽曲の世界観を表出していて、重厚に曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。シェーンベルク作曲「ミス・サイゴン」のコンクールでの名演をご紹介しました。

次回は、「ミス・サイゴン」と同じクロード=ミシェル・シェーンベルクとアラン・ブーブリルのコンビによる名作「レ・ミゼラブル」の、吹奏楽コンクールでの名演をご紹介します。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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