皆さま、こんにちは。
前回に引き続き、今年で生誕150年を迎えたレインゴリト・グリエールの作品である、バレエ音楽「青銅の騎士」を取り上げます。前回は林紀人さんの編曲版による演奏をご紹介しましたが、今回はそれ以外の方の編曲版による演奏をご紹介します。それぞれの編曲者のこだわりや、バンドの個性と合わさることで生まれる演奏の違いを感じていただけると幸いです。

福岡第一高等学校 (1997年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
序奏、元老院広場にて、広場での踊り、踊りの風景
作曲:R.グリエール 編曲:仲田 守
全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 銀賞
演奏:福岡第一高等学校吹奏楽部
指揮:松澤 洋
バレエ音楽「青銅の騎士」は1997年に初めて全国大会で演奏されましたが、全国大会初演は前回の記事で紹介した林紀人さん編曲版の中央大学ではなく、仲田守さん編曲版の福岡第一高校になります。仲田守さんの編曲版の大きな特徴としては原曲と同じ調性であることで、序奏がシャープ系のE-durとなっていて吹奏楽ではハモリにくく演奏が難しいのですが、E-durでしか出せない色彩感や空気感を感じることができる貴重な編曲版となっています。
静かなティンパニのロールから 序奏《0:00~》が始まり、テヌート奏法による重厚な響きと共にE-durの高貴さが感じられます。活気に溢れた 元老院広場にて《1:37~》の優雅なワルツから、フルートなどの木管高音域の軽快でコミカルなメロディが印象的な 広場での踊り《3:34~》を経て、エネルギッシュな音楽が展開される 踊りの風景《5:03~》をたっぷりと聴かせて鮮やかに曲が終わります。
ウィンドアンサンブル ドゥ・ノール (2003年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
叙情的情景第弐(逢瀬)、円舞曲、嵐、終曲
作曲:R.グリエール 編曲:仲田 守
全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 金賞
演奏:ウィンドアンサンブル ドゥ・ノール
指揮:仲田 守
北海道の札幌を拠点として活動されている一般バンドである ウィンドアンサンブル ドゥ・ノール は、仲田守さんの指揮で2002年に全国大会に初出場し、翌年の2003年は仲田守さん編曲版のバレエ音楽「青銅の騎士」を自由曲に選び全国大会で初の金賞受賞となりました。2003年は私が初めて聴いた全国大会なのですが、当時はほとんど演奏されていなかった2幕の曲を中心とした「青銅の騎士」の演奏は、編曲の良さと相まって鮮烈な印象として残っています。
曲は 叙情的情景第弐(逢瀬)《0:00~》でアグレッシブかつ劇的に始まり、アゴーギグを上手く使った感情の爆発が音楽的に展開されていきます。重厚な響きでの音楽的で見事なワルツの 円舞曲《2:55~》から、不穏な空気が漂って荒れ狂う 嵐《3:54~》が過ぎ去り、一筋の光が差し込むように 終曲《6:15~》が始まります。原曲通りのE-durの調性で、イングリッシュホルンのソロが美しく響き、壮大なトゥッティサウンドがホールに響き渡って曲が終わります。
習志野市立習志野高等学校 (2009年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
元老院広場にて、エフゲニーとパラーシャ、踊りの風景、偉大な都市への賛歌
作曲:R.グリエール 編曲:石津谷 治法
全日本吹奏楽コンクール
2009年(第57回大会) 金賞
演奏:習志野市立習志野高等学校吹奏楽部
指揮:石津谷 治法
バレエ音楽「青銅の騎士」の支部大会での初演は1996年で、石津谷治法先生が指揮する習志野市立第五中学校の石津谷先生ご自身の編曲版での演奏でした。この時の演奏曲は踊りの風景と偉大な都市への賛歌の2曲だったようですが、2009年に習志野市立習志野高校での演奏の際に編曲したものが石津谷治法先生の編曲版となり、後に広く演奏されるようになりました。
冷静で美しいサウンドでありながらも躍動的な 元老院広場にて《0:00~》から、重厚なサウンドでよく歌いこまれている エフゲニーとパラーシャ《1:24~》に繋がっていきます。ロシアものらしい官能的な音楽を堪能し、若々しいエネルギーが爆発する鮮やかな 踊りの風景《3:16~》をじっくりと聴かせてから、Es-durに転調した 偉大な都市への賛歌《5:21~》が柔らかくブレンドされたサウンドで昔を懐かしむように演奏されていきます。音楽的なクレッシェンドで雄大な世界が広がっていき、感動的に曲が終わります。
あとがき
いかがでしたでしょうか。グリエール作曲「青銅の騎士」の、さまざまな編曲版による演奏のコンクールでの名演をご紹介しました。
それぞれの編曲版による違いとバンドの個性が合わさり唯一無二の演奏が生み出される、その懐の深さに驚かされる作品です。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。