皆さま、こんにちは。
5月になって初夏の陽気となりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
2025年がメモリアルイヤーとなる作曲家に、生誕150年を迎えたレインゴリト・グリエールがいます。グリエールの作品といわれて、吹奏楽関係者が真っ先に思い浮かべる作品といえば、バレエ音楽「青銅の騎士」となる方が多いかと思いますが、実はこの作品、オーケストラが原曲であるにも関わらず、原曲は吹奏楽編曲版の認知度の高さとは裏腹に実演をめったに聴くことができない秘曲のように扱われています。吹奏楽では馴染みが深い作品なだけに、その差に驚く方もいらっしゃるかと思いますが、そこには吹奏楽版としての名編曲と、吹奏楽コンクールでの名演による影響が大きいと私は思います。ですので今回は、この作品の認知に大きな影響を与えたであろう吹奏楽コンクールでの演奏をご紹介しようと思います。

バレエ音楽「青銅の騎士」
「青銅の騎士」は、ロシアの詩人プーシキンによって1832年に書かれた長編叙情詩「青銅の騎士」を原作に作られた全4幕13曲からなるバレエ音楽として、ロシアの作曲家レインゴリト・グリエールによって1949年に作曲されました。
「青銅の騎士」の物語を簡単にご紹介しておきます。
サンクトぺテルブルクの町を開いたピョートル大帝をモデルにした「青銅の騎士」像の前で出会ったパラーシャとエフゲニーは恋人同士。ある日、嵐でネヴァ川が氾濫を起こす。川に囲まれたワシリエフスキー島にはパラーシャが母親とともに住んでいた。彼女のもとへ急ごうとするエフゲニーだったが、道はすでに寸断。嵐が過ぎ去った後、パラーシャの住む家の辺りまでたどり着いたエフゲニーは、大水に流され何も残っていない惨状を目にする。パラーシャを失い絶望のあまり気がふれてしまうエフゲニー。彼は、この地に町を作ったピョートルに恨みを抱くようになる。そして、青銅の騎士に戦いを挑んだ彼は、命が吹き込まれた像の攻撃で死んでしまう。
WOWWOW ホームページ マリインスキー・バレエ団「青銅の騎士」 放送内容【ストーリー】より引用
中央大学 (1997年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
序奏、元老院広場にて、広場での踊り、踊りの風景、偉大な都市への賛歌
作曲:R.グリエール 編曲:林 紀人
全日本吹奏楽コンクール
1997年(第45回大会) 金賞
演奏:中央大学学友会文化連盟音楽研究会吹奏楽部
指揮:林 紀人
「ガイーヌ」「ライモンダ」などのロシアのバレエ作品を吹奏楽界に広めた林紀人さんと中央大学のタッグによって、「青銅の騎士」の名編曲である林紀人さん編曲版が生まれました。この編曲の特に素晴らしいところは取り上げられている曲の選曲と順番で、序奏と偉大な都市への賛歌は原曲と調性が違うにも関わらず全く違和感がないぐらいに吹奏楽に馴染んでおり、曲の良さも相まって「青銅の騎士」といえば私の中ではこの2曲が真っ先に浮かぶぐらい印象が強い曲です。私が中高生の時代に「青銅の騎士」がとても流行った時は全て林紀人さん編曲版での演奏だったというぐらいの演奏回数の多さで、この曲が広く知られるきっかけとなった名編曲と言えると思います。
壮大な物語の始まりを予感させる 序奏《0:00~》、軽快なスタッカートの部分からの流れるようなワルツが印象的な 元老院広場にて《0:57~》、雰囲気が変わってポルカのテンポでの 広場での踊り《2:24~》、激しいテンポでの情熱的な 踊りの風景《3:30~》、サンクトペテルブルクの市歌にもなっている美しくて雄大なメロディが心に残る 偉大な都市への賛歌《5:53~》の5曲で構成されており、各楽曲の良さと作品の魅力を存分に伝えてくれる演奏となっています。
札幌白石高等学校 (1998年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
序奏、元老院広場にて、踊りの風景、偉大な都市への賛歌
作曲:R.グリエール 編曲:林 紀人
全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:札幌白石高等学校吹奏楽部
指揮:米谷 久男
札幌白石高校を名実ともに北海道を代表する名門校として育て上げた米谷久男先生が、同校をコンクールで指揮する最後の年となった1998年に全国大会で演奏した「青銅の騎士」は、札幌白石高校の歴代の演奏の中でも特に印象深い名演となりました。
重厚なサウンドでのはっきりしたテヌート奏法が印象的な 序奏《0:00~》で始まり、爽快に駆け抜けていくスピード感と正確なスタッカート奏法が美しい 元老院広場にて《0:58~》、少しゆっくりめのテンポで曲の魅力を存分に引き出した 踊りの風景《2:24~》を経て、美しいハーモニーと歌心に溢れたメロディが感動的な 偉大な都市への賛歌《5:53~》で壮大に曲が終わります。
安城学園高等学校 (1999年)
バレエ音楽「青銅の騎士」より
序奏、元老院広場にて、広場での踊り、踊りの風景、偉大な都市への賛歌
作曲:R.グリエール 編曲:林 紀人
全日本吹奏楽コンクール
1999年(第47回大会) 金賞
演奏:安城学園高等学校吹奏楽部
指揮:吉見 光三
当時は名門校への道を駆け上がっていた安城学園高校の1999年の演奏で、「青銅の騎士」の新たなアプローチによる名演となりました。
透明感のあるブレンドされたサウンドが美しい 序奏《0:00~》から、少し落ち着いたテンポで爽やかな風のように感じられる 元老院広場にて《1:06~》、木管楽器の軽快なスタッカートが美しい 広場での踊り《2:43~》と続いていきます。テンポが上がり力強さと繊細さを兼ね備えた 踊りの風景《3:44~》から、pで始まる穏やかなメロディが徐々に花開いていきバンド全体の雄大な歌となる 偉大な都市への賛歌《6:02~》で美しくも感動的に曲が終わります。
あとがき
いかがでしたでしょうか。グリエール作曲「青銅の騎士」の、林紀人さん編曲版によるコンクールでの名演をご紹介しました。
次回は、林紀人さん編曲版以外のアレンジの楽譜による演奏の団体をご紹介します。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。