みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
大波乱の全英大会地区予選、今回地区予選終盤戦の結果の数々をご紹介します。10月にロンドンで開催される全英ブラスバンド選手権の決勝に駒を進めたのは、果たしてどのバンドか? 熱戦の末に決まった注目の結果を一挙にご紹介します!
全英大会地区予選2025終盤戦結果

ウェールズ地区

英国南西部に位置するウェールズ。この地域のチャンピオンシップ・セクション王者を決める地区予選が、3月16日(日)に開催されました。
筆者自身も過去に2度、名門コーリーバンドの一員としてこの大会に出場した経験があり、喜びと悔しさがひとつずつ刻まれた、特別な思い出のあるコンテストです。
それでは結果を見ていきましょう。
1位 : Tredegar (指揮 : Ian Porthouse)
2位 : Ebbw Valley (指揮 : Matthew Rowe)
3位 : Cory Band (指揮 : Philip Harper)
4位 : Northop Silver (指揮 : Thomas Wyss)
5位 : City of Cardiff (Melingriffith) (指揮 : David Hamilton)
優勝はTredegar Band!
2025年のウェールズ地区チャンピオンの座を勝ち取ったのは、イアン・ポートハウス(Ian Porthouse)率いるトラディーガー・バンド(Tredegar Band)。
同氏は、イングランド中部地区でもデスフォード・コリアリー・バンド(Desford Colliery Band)を堂々の2位へと導いた名指揮者であり、今回の勝利もその手腕の確かさを物語っています。
2位に輝いたのは、ウェールズの炭鉱で知られる村の名前を冠したエブゥ・ヴァレィ・バンド(Ebbw Valley Band)。名前の発音は少し想像しにくいかもしれませんね。
このバンドは、昨年のブリティッシュ・オープンの下位大会「シニア・トロフィー」での優勝を皮切りに、全ウェールズ・アイステッドホッド・コンテストやウェルシュ・オープンでも優勝するなど、まさに勢いに乗っている注目の存在です。
とはいえ、現世界ランキング3位で昨年の優勝バンドであるコーリーを抑えての2位獲得は、まさに予想外の大波乱。多くのファンにとっても驚きの結果となりました。
筆者個人的には、古巣バンドということもあり、どうしても個人的な思いを隠しきれませんが、コーリーバンド(Cory Band)は3位にランクインしました。しかし、驚くべきことに、1999年以来26年連続で出場していた全英大会決勝に今年は出場できず、歴史的な大敗を喫することとなりました。
現在、バンドメンバーの入れ替えに関する情報が多く流れており、新体制での再スタートに対する期待が高まっています。
全英大会決勝2025と欧州選手権への切符
この結果、トラディーガーとエブゥ・ヴァレーが今年の全英大会決勝へ進出。そして、1位となったトラディーガーは、翌年の2026年欧州選手権への出場権を手にしました。
ロンドン&南部地区

ヨーロッパの玄関口としても知られるロンドン。この地は紀元前1世紀、ローマ軍によって「ロンディニウム」という名が付けられた歴史的な都でもあります。現在、ロンドンには素晴らしいバンドが数多く存在し、そこで繰り広げられる熱戦は見逃せません。
1位 : East London Brass (指揮 : Jayne Murrill)
2位 : Zone One Brass (指揮 : Richard Ward)
3位 : Redbridge Brass (指揮 : Chris Bearman)
4位 : Haverhill Silver (指揮 : Paul Filby)
5位 : Wantage Silver (指揮 : Chris King)
イースト・ロンドン・ブラスの優勝!
長らく優勝圏内どころか入賞圏内にも入っていなかったイースト・ロンドン・ブラス(East London Brass)が、ついに初優勝を果たしました!
このバンドは、2010年に全英大会の地区予選セカンド・セクションで優勝し、2012年にチャンピオンシップ・セクションに昇格。その後10年以上を要しましたが、今回が初のチャンピオンシップ・セクションでの優勝となり、その喜びもひとしおです。
1982年からイースト・ロンドンに関わり、2008年から指揮者を務めているジャイン・マリル(Jayne Murrill)氏も、この喜びをさまざまなメディアで爆発させていました。
防衛戦となったゾーン・ワン・ブラス(Zone One Brass)は健闘したものの、惜しくも2位となり、長年ゾーン・ワンと優勝争いを繰り広げてきたレッドブリッジ・ブラス(Redbridge Brass)は3位に終わりました。しかし、まさかまさかのイースト・ロンドン・ブラスの優勝に、この地区大会も大いに盛り上がったことでしょう。
この地区では、順位通りイースト・ロンドンとゾーン・ワンの上位2団体が、10月の決勝戦へ進出することとなりました。
イングランド北部

スコットランドに近いイングランド北部では、イングランド他の地域と同様に、炭鉱由来の「コリアリー・バンド(Colliery Band)」が多く存在しています。その中で、今回は優勝バンドと共に歴史的な記録が打ち立てられました。
1位 : NASUWT Riverside (指揮 : Nicholas Childs)
2位 : City of Hull (指揮 : Jonathan Beatty)
3位 : Easington Colliery (指揮 : Alan Withington)
4位 : EverReady (指揮 : Stephen Roberts)
5位 : Shepherd Brass (指揮 : Richard Wilton)
ダイク音楽監督ニコラス・チャイルズ率いるナスウット・リヴァーサイド・バンドが優勝
長年、この地区予選でチャイルズ・ブラザーズ(兄:ロバート、弟:ニコラス)を指揮者として迎え、勝ち進んできたナスウット・リヴァーサイドが優勝しました。昨年は2位に終わっただけに、その喜びはひとしおでしょう。ナスウット・リヴァーサイドは、5月10日に開催されるブリティッシュ・オープンの下位大会「グランド・シールド」にも、ニコラス・チャイルズ博士(以後、チャイルズ博士)と共に出場予定です。
ニコラス・チャイルズ博士の記録
今年2025年は、チャイルズ博士にとっても特別な年となり、なんと地区予選において自身が指揮したブラック・ダイク、ウィットバーン、そして先述のナスウット・リヴァーサイドの3バンドを優勝に導きました。さらに、全英地区予選においての優勝回数は英国金管バンド史上最多の45回となり、自身の記録を大きく更新することになりました。(以下が上位5名の記録です。)
45回: ニコラス・チャイルズ博士
30回: メイジャー・ピーター・パークス
20回: ラッセル・グレイ
17回: ハリー・モーティマー
16回: ウォルター・ハーグリーヴェス
10月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催される全英大会決勝では、自身が音楽監督を務めるブラック・ダイクのみ指揮を振りますが、全国大会に出場する19バンドのうち、3バンドを決勝に導いたというのは素晴らしい成績です。
全出場バンド決定
イングランド北部地区予選を最後に約1ヶ月にわたって英国全土で開催された全予選が終了し、ついに2025年チャンピオンシップ・セクションの決勝に出場する全てのバンドが出揃いました。
【イングランド北西部】
・フォーデンズ・バンド(前年度上位三団体枠)
・レイランド・バンド
・オールダム・バンド(リーズ)
【イングランド北部】
・ナスウット・リヴァーサイド・バンド
【ヨークシャー】
・ブラック・ダイク・バンド(前年度上位三団体枠)
・ブリッグハウス&ラストリック・バンド
・シティ・オブ・ハル・バンド
・ヘップワース・バンド
【イングランド中部】
・デスフォード・コリアリー・バンド
・GUSバンド
【イングランド西部】
・アルドボーン・バンド
・フラワーズ・バンド(ディフェンディング・チャンピオン)
・セント・デニス・バンド
【ロンドン&イングランド南部】
・イースト・ロンドン・ブラス
・ゾーン・ワン・ブラス
【ウェールズ】
・エブ・ヴァレー・バンド
・トラディーガー・バンド
【スコットランド】
・ザ・クーオペレーション・バンド
・ウィットバーン・バンド
1stセクション以降の結果はこちらからご覧ください。(外部リンク、英語)
ロンドンで開催されるチャンピオンシップ・セクション決勝は10月11日に、英国で最も偉大なホールの一つである、6,000席を誇るロイヤル・アルバート・ホールで開催されます。
最後に
今年も大波乱がたくさん起きた全英大会地区予選でしたが、皆様の予想と結果はいかがだったでしょうか?筆者としては、さまざまなバンドの躍進だけでなく、レジェンド指揮者たちが英国各地で大活躍した大会でもあったと思います。また新進気鋭の指揮者たちの活躍もあり、このように英国金管バンドの伝統は引き継がれているのだなと勉強になりました。
さて、次回は4月開催の全豪選手権や欧州選手権を特集したいと思います。また、日本でも面白いイベントがあれば、ご紹介させていただきますので、ぜひお楽しみにしておいてください。
今回もお読みいただき、誠にありがとうございました。それでは、また次回お会いしましょう!
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。