みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
みなさまのおかげで、『金管バンドナビ』も50回目を迎えることができました。いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
さて、10月に開催される「全英大会」に向けて、地区予選の前半戦が終了しました。今年も波乱の展開が続き、昨年の全国大会王者が敗退したり、ダークホースのバンドが優勝をさらったりと、見どころ満載の結果となっています。まもなく始まる後半戦にも注目です。
また、来月4月には、英国ウェールズのチャンピオンシップ・セクションのバンド、『トングウィンライス・テンペランス・バンド』の日本ツアーが控えています。今回は、その特集もお届けします。
全英大会地区予選2025前半戦結果

イングランド北西部

北西地区の予選は、地区予選の中でも最も早い2月23日に開催されました。この地域は、歴史的にヨークシャー地区や南ウェールズ地区と同様に炭鉱業が栄えた背景を持ち、伝統と実力を兼ね備えたバンドが多く、激戦区の一つとなっています。それでは、結果を見ていきましょう。
1位 : Foden’s (指揮 : Russell Gray)
2位 : Layland (指揮 : Daniel Brooks)
3位 : Oldham (Lees) (指揮 : John Collins)
4位 : Pemberton Old Wigan DW (指揮 : Ryan Watkins)
5位 : Milnrow (指揮 : Christopher Binns)
これ以降の結果はこちらよりご覧ください
北西地区全予選結果(英語)
ベスト・プリンシパル・コルネット賞 : Mark Wilkinson (Foden’s)
優勝は、2021年のコロナ禍による中止を除き、2016年から9年連続で頂点に立つFoden’sが優勝。指揮者はFoden’sを常勝バンドにしているプロフェッショナル・コンダクターのRussell Grayでした。また2位には日本ツアーを2度行った経験をもつLayland、そして3位にはOldham (Lees)が入りました。
なお、Foden’sは2024年の全英大会決勝で2位の成績を収めているため、すでに2025年の決勝戦への出場権を獲得済みです。このことから2位のLayland、そして3位のOldham (Lees)を含めた3団体が北西地区代表として10月の決勝戦へ進出することになりました。
また惜しくも4位となったPemberton Old Wigan DWでは、現在英国王立ノーザン音楽大学でユーフォニアム奏者、バリトン・ホーン奏者として在籍中の『西澤くるみさん』がバリトン・ホーン奏者として参加しております。その貴重な現地での様子をVlogとして紹介してくださっていますので、ぜひご覧ください。
ヨークシャー地区

先ほどご紹介した北西地区と同様に、この地域も産業革命期から炭鉱や紡績業で栄えた背景を持ち、金管バンド文化が根付いています。そのため、実力と人気を兼ね備えたバンドが数多く存在する激戦区の一つです。
1位 : Black Dyke (指揮 : Nicholas Childs)
2位 : Hepworth (指揮 : Ryan Watkins)
3位 : Brighouse & Rastrick (指揮 : David King)
4位 : Hammonds (指揮 : Morgan Griffiths)
5位 : Carton Main Frickley Colliery (Allan Withington)
ヨークシャー地区全予選結果(英語)
ベスト・ソリスト賞 : Alan Morrison (Soprano Cornet, Hammonds)
ベスト・プリンシパル・コルネット賞 : Richard Marshall (Black Dyke)
ベスト・インストゥルメンタリスト賞 : Georgia Woodhead (Hepworth)
最年少奏者賞 : Ada Swithenbank (Yorkshire Imperial)
昨年日本ツアーも行ったBlack Dykeがヨークシャー地区王者、この記録は2021年を除き、2020年から続いています。Hepworthは世界ランキング36位ながら現在7位であるBrighouse & Rastrickを押しのけてランクイン、3位だったBrighouse & Rastrickは2022年のBritish OpenやBrass in Concertで優勝して以来、主要大会で2位が続いており、10月の決勝戦での健闘が期待されます。
Black Dykeは2024年全英大会決勝にて3位ということからもともと2025年全英大会決勝への切符は持っており、2位Hepworthと3位Brighouse & Rastrick、計3団体がヨークシャー地区よりロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで10月に開催される決勝戦へ駒を進めました。
『トングウィンライス・テンペランス・バンド』日本ツアー

英国西部にあるウェールズのチャンピオンシップ・セクション・バンド『トングウィンライス・テンペランス・バンド(Tongwynlais Temperance Band)』(以後トン)が来月4月に日本でのツアーを行います。
このツアーは英国ウェールズ政府主導のもと、日本とウェールズ両国の新たな経済的および文化的パートナーシップを促進し、長期的な利益をもたらすことを目的とした『日本におけるウェールズ年2025』の一環(Taith Program)として開催されます。
トンはウェールズの首都カーディフ郊外にある村『トングウィンライス』にて1888年に結成され、現在では英国金管バンド業界の最上級セクションであるチャンピオンシップ・セクションのバンドとしてコンテストへの出場やコンサート活動を行っています。また地域の子供たちへ音楽教育を提供するため『トングウィンライス・ミュージック・アカデミー』を主催し、地域における音楽文化の継承に尽力しています。
過去の指揮者には、現コーリー・バンド音楽監督のフィリップ・ハーパーや、チューバ奏者のスティーヴ・サイクスなどが名を連ねています。
現在は、テナー・ホーン奏者でありベッソン・アーティストでもあるオーウェン・ファーが音楽監督を務め、その手腕を発揮しています。今回のツアーでは、ファー自身がソリストとして演奏する予定であり、世界トップクラスのテナー・ホーンの演奏にも注目が集まります。
日本ツアー日程
日程 | 共演バンド | 場所 | 詳細 |
4/15(火) | 明治小学校マーチングバンド | ティアラこうとう | ティアラこうとうHP |
4/19(土) | 埼玉プレミアブラス | 草加市文化会館 | バンドHP |
4/20(日) | 宇都宮ブラスソサエティ | 宇都宮市立陽東中学校 | バンドSNS |
昨年のBlack Dyke Bandの来日も記憶に新しいですが、今回はウェールズのチャンピオンシップ・セクション・バンドの演奏を楽しむ貴重な機会となります。イングランドのバンドとウェールズのバンドを聴き比べるのも、今回の聴きどころの一つです。
また、今回のツアーはウェールズ政府主導のイベントの一環として開催されるため、トンに所属する日本人バリトン・ホーン奏者『祥子・ドヘティさん』が、フィリップ・ハーパーに委嘱した『ウェールズの歌』も演奏される予定です。ケルト文化が色濃く残るウェールズの雰囲気を存分に楽しめるプログラムとなっています。
筆者自身も、かつてコーリー・バンドに所属する前にトンに所属し、英国の金管バンドのイロハを学ばせていただきました。大恩あるバンドの日本ツアーが成功することを心から願っておりますし、日本の皆さまにも、トンの温かく素晴らしい演奏を存分に楽しんでいただければと思います。
最後に
日本では4月にトンのツアーが開催され、英国では全英地区予選が引き続き熱戦を繰り広げています。次回は、地区予選の中盤戦の結果を中心にご紹介したいと思います。
今回もお読みいただき、誠にありがとうございました。それでは、また次回お会いしましょう!
河野一之(Kazuyuki Kouno)
https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。