【金管バンドナビ】#49 全英大会地区予選

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

前回ご紹介しましたユニ・ブラス2025が終わり、英国金管バンド業界は10月に開催される全英大会の予選『全英大会地区予選』が始まります。

今年も、個性あふれる課題曲とともに各バンドが熱い戦いを繰り広げます。英国には5つのセクションがあり、それぞれのバンドが全国大会への切符をつかむため、8つの地域で熾烈なコンテストに挑みます。今回は、その地区予選を特集します!

まずは、先日開催されたユニ・ブラス2025の結果から見ていきましょう。

ユニ・ブラス2025結果

下位セクション『シールド』

以下の点数は、演奏点とエンターテインメント点の合計による順位です。総合点が同じ場合は、演奏点が高い方が上位となります。(例:以下の2位と3位)

審査員:クリス・ボンド(作編曲家、指揮者)、エミリー・エヴァンス(テナーホーン奏者)

1位: Universities of Sheffield & Sheffield Hallam (指揮: Christopher Oddy) 94 + 48 = 142
2位: Cardiff University (指揮: Ianto Williams & Lia Teague) 92 + 45 = 137
3位: University of Bristol (指揮: Jake Wingfield) 91 + 46 = 137
4位: University of Nottingham (指揮: Pawel Nieweglowski & Becky Brundett-Hall) 89 + 47 = 136
5位: King’s College London (指揮: Alex Baker) 88 + 43 = 131

特別賞受賞バンド・個人一覧

最優秀エンターテインメントバンド: Universities of Sheffield & Sheffield Hallam
ベスト・イノベーティブ・プログラム賞(斬新・革新的なプログラム): University of Bristol
最優秀学生指揮者賞: Jake Wingfield (University of Bristol)
ベスト・マーチ賞: University of Nottingham
最優秀ソリスト賞: Charlie Coldwell
最優秀打楽器セクション賞: University of Bath
観客賞: Cardiff University

5位以下は以下のリンクよりご覧ください。

4barsrest(外部リンク、英語)

上位セクション『トロフィー』

審査員:マーク・ウィルキンソン(コルネット奏者)、エルサ・ラッセル(テナーホーン奏者)

1位: University of Birmingham (指揮: Stephen Kane) 96 + 45 = 141
2位: University of Huddersfield (指揮: Jonathan Beatty) 92 + 46 = 138
3位: Universities of Manchester & Salford (指揮: Harry Bennett) 90 + 44 = 134
4位: Oxford University (指揮: Esme Harper & Joe Sollis) 86 + 47 = 133
5位: University of Warwick (指揮: Tom Stoneman) 83 + 41 = 124

最優秀エンターテインメントバンド: Oxford University
ベスト・イノベーティブ・プログラム賞(斬新・革新的なプログラム): Royal Holloway University of London
最優秀学生指揮者賞: Esme Harper (Oxford University)
ベスト・マーチ賞: University of Birmingham
最優秀ソリスト賞: Jacob Hickman
最優秀打楽器セクション賞: Royal Holloway University of London
観客賞: University of York

5位以下は以下のリンクよりご覧ください。

4barsrest(外部リンク、英語)

前回の記事で筆者が注目バンドとして挙げていた「University of West of England」は、シールドセクションで6位という結果となりました。創団したばかりで初出場ながら、11団体中6位という成績は大健闘と言えるでしょう。指揮者のアンリ・アダチもSNS上でバンドの健闘を讃え、満足のいく結果だったことを報告していました。

また、指揮者のアンリ・アダチと、コーリーバンド音楽監督フィリップ・ハーパー氏の娘であるエスメ・ハーパーが、なんと最優秀学生指揮者賞を受賞しました。バンドとしても12団体中4位という素晴らしい成績を収め、大健闘を果たしました。

ウェールズの首都カーディフで初めて開催されたユニ・ブラス2025は、今年も大変盛り上がりを見せ、無事に幕を閉じました。

(下の映像は出場バンドであったダラム大学のバンドによるパフォーマンスです。)

全英大会地区予選2025

10月に開催される、その年の各セクションの王者を決めるコンテスト『全英大会』。その地区予選が今年も2月から3月にかけて、英国を8つの地域に分けて開催されます。

8つの地域

地区大会の開催日順に各エリアをご紹介します。

地域日程
北西部(North West)2/23
ヨークシャー(Yorkshire)3/1, 2
中部地方(Midlands)3/8, 9 & 15
スコットランド(Scotland)3/8, 9
イングランド西部(West of England)黄色3/8, 9
ロンドン&南部州(London and Southern Counties)3/15, 16
ウェールズ(Wales)黄緑3/15, 16
イングランド北部ピンク3/22, 23
詳細はこちらから(外部リンク、英語)

大まかに言うと、それぞれの地域には専用の金管バンド協会があり、各地区大会を取り仕切っています。そのため、順位をつけるという点では共通していますが、ソリスト賞セクション賞などは、各地区大会によって独自に設定されている場合があります。

2025課題曲

今年も、新進気鋭の作曲家の作品から往年の作曲家まで、幅広い作品が選ばれました。まずは、最も下のセクションである4thセクションの課題曲からご紹介していきます。

4thセクション

ダイダロス / アンドレア・プライス (Daedalus / Andrea Price)

過去にはあの有名なヨークシャー・ビルディング・ソサエティにも在籍し、現在はブラック・ダイク所属の打楽器奏者でもあるプライスによって作曲されました。日本にもダイクとのツアーや、ソリストとしての来日経験があり、マルチ・アーティストとしても知られています。

ダイダロスは、ギリシャ神話に登場する発明家、工芸家、そして建築家です。ダイダロスの物語では、彼がミノス王の迷宮を設計し、その後、ギリシャのクレタ島で息子イカロスとともに投獄されます。彼らは羽毛と蝋で作った翼を使って牢獄から脱出するという壮大な冒険を繰り広げます。この曲は、その物語を五つのセクションに分けて作曲されています。

3rdセクション

アーカンソー / ヤコブ・デ ハーン (Arkansas /Jacob de Haan)

オランダ出身の作編曲家であるデ・ハーンが、アメリカの州の一つであるアーカンソーを題材に作曲した作品です。アーカンソーは、デ・ハーンが用いたモチーフであり、別名『自然の州』や『チャンスの州』とも呼ばれています。またこの作品は、作曲者がこれまで作曲してきたアメリカの州シリーズ作品であるダコタ、オレゴン、ヴァージニアといった作品群に属しています。

三つに分かれた楽章では、ネイティブ・アメリカンの有名な民謡が取り入れられ、さらにバラード、変奏曲、ジャズ・スタイルなども使用されています。

2ndセクション

フレンドリー・テイクオーヴァー / オリヴァー・ヴェスピ (Friendly Takeover / Oliver Waespi)

ヴェスピによって2016年にスイス吹奏楽大会のために作曲された作品です。三楽章から成るこの作品では、各楽章の中でリリカルなメロディの背後に、リズミカルでパルスのようなリズムが流れるという実験的な要素が施されています。英国におけるコンテストでは、過去に自由曲として選曲されたことはありましたが、今回始めて課題曲として採用されました。

1stセクション

序奏と哀歌と奇想曲 / モーレイ・カルヴァート (Introduction, Elegy & Caprice / Morley Calvert)

カナダ人作曲家カルヴァートによって、1978年に初開催された欧州選手権の課題曲として作曲された作品です。コントラスト豊かな三楽章形式で構成され、第1楽章『Introduction』ではファンファーレの後にミステリアスでゆっくりとしたテーマが始まり、その後、速い1拍子の場面が現れます。第2楽章『Elegy』はユーフォニアムの独奏から始まり、さまざまなソロに展開していきます。そして、前の楽章で感じられた不安感を払拭するかのように、第3楽章ではリズミカルなダンスで幕を閉じます。

チャンピオンシップ・セクション

ディヴァージョンズ / ダレク・ブージュワー (Diversions / Derek Bourgeois)

1985年にニュージーランドのバンド、スケラーアップ・ブラスバンドの委嘱により作曲されました。作曲者は、前作の『ブリッツ(Blitz)』とは全く異なる作風にしたいという思いから、テクニック的には非常に難易度の高い作品でありながらも、軽快で聴きやすいように作曲がなされました。以下が3つの楽章の副題です。

・アレグロ・ヴィヴァーチェ
・アンダンテ・コン・モート・モルト・エスプレッシーヴォ
・アレグロ・ヴィヴァーチェ

これまで、英国のコンテストでは『全英大会決勝(1986)』『ブリティッシュ・オープン(1989)』の課題曲としても使用された名作であり、その難易度の高さから、今年のチャンピオンシップ・セクション地区予選も激戦が予想されます。

地区予選はライヴ配信などはなく、おもに金管バンド最大手ウェブサイトの『4barsrest』による実況やニュースが主な最新情報の入手先になりますが、運良くいくつかのバンドなどがYoutubeに自身の演奏を載せた場合などは見られますので探してみるも一興です。

全英地区予選が始まって今年で80周年、どのバンドが各地域の王者となるのかも見ものですし、各地域ごとに決められた賞にも要注目です。また強豪バンドの多いヨークシャー地区やイングランド北西地区、ウェールズ地区なども要注目ですし、さらに昨年王者のFlowersがいるイングランド西部地区も激アツです。

今年地区予選を制し10月のFinalsにコマを進めるのはどのバンドなのか、要注目です!

最後に

英国ならびにフランスやノルウェーなどヨーロッパでは、シリアスなコンテストからエンターテイメント系のコンテストまで、すでに幅広くコンテストシーズンに入っています。逐一さまざまな名演が披露されていますので、ぜひYoutubeをはじめFacebookなどでも検索してみてください。素晴らしい演奏がたくさんみられると思います。まずは全英大会地区予選、筆者も楽しみです。

今回も誠にありがとうございました。それでは、また次回お会いしましょう!


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスブラスバンド指導者協会理事。

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