皆さま、こんにちは。
北風が吹きつける厳しい寒さが続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
前回に引き続き、今年に還暦を迎えられた鈴木英史さんをテーマに、数ある吹奏楽編曲の作品からオペレッタ(喜歌劇)のジャンルに注目して、吹奏楽コンクールでの名演を通してご紹介します。

INDEX
鈴木英史さんの編曲作品
鈴木英史さんの吹奏楽編曲家としての名前を一躍有名にした作品といえば、喜歌劇「メリー・ウィドウ」セレクション ではないでしょうか。私が中学生の時に編曲されており、最初は支部大会での演奏が1団体のみだったのが翌年は支部大会で20団体以上によって演奏されることになり、4団体が全国大会で演奏したこともあってかその翌年以降に爆発的に流行ることになりました。私は実際に演奏したことはまだないのですが、中高生時代にたくさんの演奏を聴いたこともあってこの編曲版は今も鮮明に覚えています。
その後、オペレッタの知られざる作品やオペラ、オーケストラ作品などたくさんの編曲版が出版されていますが、編曲されるきっかけとして特定の団体や学校の先生による委嘱が何年も続いていることが多く、委嘱者のアイデアを積極的に取り入れながら編曲されていることが大変印象的です。オペレッタの編曲では原曲のオーケストレーションをそのままトランスするのではなく、吹奏楽の編成で演奏しやすく鳴りやすい調性に移調したり、曲がより魅力的に聴こえるようなパッセージを上手に入れていることがたくさんの団体に演奏されている要因だと思うのですが、何よりも曲と曲の繋ぎ方やオープニング・エンディングの作り方が抜群に上手で、セレクションという一つの作品に昇華されているのが素晴らしいと思います。ちなみに、セレクションという曲名の名付け親は作編曲家の森田一浩さんだったとのことです。
喜歌劇「小鳥売り」セレクション
「小鳥売り」は、オーストリアの作曲家のカール・ツェラーが作曲した全3幕のオペレッタで、舞台は18世紀のライン川流域地方、小鳥売りを生業とするアダムと、その恋人クリステルの物語です。
明誠学院高等学校 (2004年)
喜歌劇「小鳥売り」セレクション
第2幕「私は学部長代理」、第1幕 舞曲、第1幕「皆さん今日は」、第3幕「さくらんぼの花がほころぶとき」、第1幕「チロルでの贈り物はばら」、第3幕「女達と争うな」、第3幕「みなさんごきげんよう」
作曲:C.ツェラー 編曲:鈴木 英史
全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 銀賞
演奏:明誠学院高等学校吹奏楽部
指揮:佐藤 堯史
喜歌劇「小鳥売り」セレクション を全国大会で演奏したのは全部で3団体ですが、全国大会初演は2003年中学の部での2校で、2004年の明誠学院高校の演奏も含めて偶然にも全て生で聴くことができました。
ドラムロールから金管楽器のファンファーレが鳴り響いて、私は学部長代理《0:08~》が軽快なテンポで始まります。軽やかに跳ねるリズム感の良さとまとまりのあるトゥッティサウンドが印象的で、勢いがついたまま 舞曲《0:50~》になだれ込み、激しいながらもよく調和のとれた演奏で安心して聴くことができます。さくらんぼの花がほころぶとき《2:10~》ではよくブレンドされた柔らかいサウンドでの優しい歌に癒されていき、皆さん今日は《2:50~》の曲中に現れる鳥のさえずりや鳴き声が聴こえてきて、チロルでの贈り物はばら《3:14~》に繋がっていきます。歌心に溢れた雄大なサウンドがホールに響き渡る感動的な場面から 女達と争うな《5:14~》が勢いよく始まって駆け抜けていき、曲が終わったかと思った直後のホイッスルと金管楽器のファンファーレから みなさんごきげんよう《5:54~》でどんちゃん騒ぎになり、クライマックスまで勢いそのままに曲が終わります。
喜歌劇「こうもり」セレクション
「こうもり」はオーストリアのウィーンを中心に活躍したヨハン・シュトラウスⅡ世が作曲した全3幕のオペレッタで、特に序曲はニューイヤーコンサートや世界各地の演奏会で頻繫に演奏されるほど有名な作品となっています。
安城学園高等学校 (2005年)
喜歌劇「こうもり」セレクション
第2幕への導入「今までになかったような」、第3幕 第15曲「私にはおそろしい」、第1幕 第4曲「では私ひとりで」、 第1幕 第2曲「こんな弁護士では」、(第3幕フィナーレ)、第2幕「兄弟となれ、姉妹となれ」、第2幕フィナーレ「ぶどう酒の燃える流れに」、ポルカ「雷鳴と電光」
作曲:J.シュトラウスⅡ世 編曲:鈴木 英史
全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 銀賞
演奏:安城学園高等学校吹奏楽部
指揮:吉見 光三
喜歌劇「こうもり」の序曲は1960年代から全国大会で演奏されていた歴史がありますが、玉川学園中学部の土屋和彦先生の発案によって鈴木英史さんが序曲以外の曲をセレクションとして2004年に編曲し、2005年の安城学園高校の演奏が 喜歌劇「こうもり」セレクション の全国大会初演となりました。
第2幕への導入《0:00~》で軽快に始まり、テンポアップして活気に満ちた中で 第3幕 第15曲「私にはおそろしい」の終盤《0:52~》のメロディが展開されていきます。金管楽器のファンファーレからテンポがゆっくりになっていって、第1幕 第4曲「では私ひとりで」《1:51~》の有名なメロディが表情豊かに歌われていきます。そこから 第1幕 第2曲「こんな弁護士では」の後半《3:12~》に繋がっていき、美しいレガート奏法での懐の深いサウンドがホールに響き渡ります。(第3幕フィナーレ)《3:42~》がゆっくりなテンポで現れた後に、ハープに導かれて 第2幕「兄弟となれ、姉妹となれ」の後半《4:08~》が一音一音大切に歌いこまれていきます。そこからだんだんとテンポアップしていって 第2幕フィナーレ「ぶどう酒の燃える流れに」《5:08~》が軽快に始まり、ポルカ「雷鳴と電光」《5:19~》に繋がっていきます。喜歌劇は演出によっての音楽のカットや追加が行われるという習わしがあり、鈴木英史さん曰く「指揮者のカルロス・クライバーがこの曲を引用しているのを知って終結部に拝借した」とのことですが、曲のクライマックスに相応しい盛り上がりを見せて華やかに曲が終わります。
喜歌劇「微笑みの国」セレクション
「微笑みの国」はオーストリア=ハンガリー帝国生まれの作曲家フランツ・レハールが作曲した全3幕のオペレッタで、「メリー・ウィドウ」と並ぶレハールの傑作とされています。
津山市立北陵中学校 (2005年)
喜歌劇「微笑みの国」セレクション
序曲、第2幕「蒼い塔のサロンでは」、第2幕 中国風バレエ、第2幕 婚礼の行列の音楽、第2幕「君こそ我が心」
作曲:F.レハール 編曲:鈴木 英史
全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:津山市立北陵中学校吹奏楽部
指揮:稲生 健
喜歌劇「微笑みの国」セレクション は玉川学園中学部の土屋和彦先生の発案によって2005年に編曲され、同年の玉川学園中学部と津山市立北陵中学校の演奏が全国大会での初演となりました。
オーボエとホルンのデュオから 序曲《0:00~》が始まります。フレーズを長く捉えながら雄大なトゥッティサウンドでスケールの大きな世界を描いた後、ウッドブロックの連打から 蒼い塔のサロンでは《1:14~》のコミカルで楽しい音楽に繋がっていきます。中国風バレエ《1:51~》で長いフレーズを流麗かつ優雅に歌いこんだ後、 特徴的なリズムが印象的な 婚礼の行列の音楽《3:02~》を経て、「微笑みの国」で最も有名なアリアの 君こそ我が心《5:02~》を中学生らしい素直な音楽で感動的に歌いこんでいきます。クライマックスでは序曲の終盤のファンファーレが顔を出して、勇壮に曲が終わります。
喜歌劇「ロシアの皇太子」セレクション
「ロシアの皇太子」はオーストリア=ハンガリー帝国生まれの作曲家フランツ・レハールが作曲した全3幕のオペレッタで、レハール晩年のオペレッタにしばしば見られるバッド・エンドのオペレッタとなっています。
津山市立北陵中学校 (2006年)
喜歌劇「ロシアの皇太子」セレクション
ファンファーレ、第2幕「僕のそばにいておくれ」、第2幕「シャンパンは炎のお酒」、第1幕「私を愛し求めてくれる男性にきっと巡り会える」、第1幕「舞曲」、第2幕「もう極秘結婚はイヤ」、ファンファーレ
作曲:F.レハール 編曲:鈴木 英史
全日本吹奏楽コンクール
2006年(第54回大会) 金賞
演奏:津山市立北陵中学校吹奏楽部
指揮:稲生 健
喜歌劇「ロシアの皇太子」セレクション は玉川学園中学部の土屋和彦先生の発案と津山市立北陵中学校の稲生健先生の協力によって2006年に編曲され、同年の津山市立北陵中学校の演奏が全国大会での初演となりました。原曲は悲劇的な物語ですが、このアレンジではそのような部分は感じさせない健康的な部分を扱っており、明るく楽しく演奏することが肝心だと鈴木英史さんは楽曲解説に書いています。
曲はドラムロールから第3幕フィナーレの ファンファーレ《0:00~》で始まります。メロディが美しい 僕のそばにいておくれ《0:23~》に繋がった後、カスタネットが大活躍する シャンパンは炎のお酒《0:50~》ではアルトサクソフォーンソロやサクソフォーン属のソリ、ソプラノサクソフォーンソロなどサクソフォーンパートが情熱的に歌いこんでいきます。カスタネットは原曲にはないパートなのですが、この場面にぴったりで編曲の上手さが際立っています。その後、私を愛し求めてくれる男性にきっと巡り会える《2:43~》で息の長いフレーズを感動的に歌いこんでいき、ピアノの連打とハイハイ!の元気な掛け声に驚かされて 舞曲《4:32~》に突入したかと思えば再びのハイハイ!で もう極秘結婚はイヤ《4:59~》になだれ込みます。その後冒頭と同じ ファンファーレ《5:34~》が演奏されて華やかに曲が終わります。
あとがき
いかがでしたでしょうか。鈴木英史さんの編曲作品の全国大会での名演をご紹介しました。
先日行われた鈴木英史さんの還暦コンサートでオペレッタの編曲作品をプロの演奏で聴くことができましたが、やはりオーケストレーションが素晴らしくてプロやアマチュア問わず音楽に集中できる良質な楽譜であることがよく分かり、改めてプロフェッショナルな仕事ぶりに感動しました。これからも名編曲を生み出し続けてくださることを期待しております。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。