【吹奏楽ナビ】#57 作曲家 鈴木 英史

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皆さま、こんにちは。

2月になって急に寒さが厳しくなりましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

本連載執筆の切り口として、2025年がメモリアルイヤーとなる作曲家を調べていたところ、国内では鈴木英史さんがこの2月に還暦を迎えられることを知りました。近年では、2022年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲Ⅲ「ジェネシス」の作曲者として広く知られ、日本の吹奏楽界に多大な影響を与え続けている偉大な作・編曲家です。今月末には東京と大阪の2箇所で還暦を祝うコンサートも催されるとのことなので、その予習も兼ねて鈴木英史さんの作品を吹奏楽コンクールでの名演を通してご紹介します。

プロフィール

鈴木英史さんの経歴ですが、東京藝術大学音楽学部の作曲科を経て東京藝術大学大学院音楽研究科作曲専攻を修了されています。在学中から作曲活動を始められて、東京佼成ウインドオーケストラをはじめとするプロ吹奏楽団やアマチュアの吹奏楽団からの委嘱を数多く受け続けており、プロ・アマチュア共にたくさんの楽団によって作品が演奏されています。

私の出身大学・大学院の大先輩にあたる方ですが、直接お話ししたことはまだないものの、ニュー・サウンズ・イン・ブラスのレコーディングや演奏会のリハーサルの現場で何度かお見かけしたことはあります。とにかくお仕事ができる方という印象が強く、短い時間で的確なアドバイスをされている姿が印象に残っています。

カントゥス・ソナーレ

鈴木英史さんによる曲目解説から抜粋してご紹介します。

創価学会音楽隊結成50周年も兼ねて、創価グロリア吹奏楽団からの委嘱により作曲。2004年2月22日に東京芸術劇場大ホールにおいて、佐川聖ニの指揮、同楽団の演奏により初演されました。題名の「カントゥス」は「歌(うた)」、「ソナーレ」は「響き(ひびき)」の意味です。この曲は題名通り、響きが歌になり、共に進んでいく様を描いています。一本の旋律が響きに取り込まれ大きな響きになる。また、その逆、響きそのものが旋律になり進んでゆく。

創価グロリア吹奏楽団 第18回定期演奏会 プログラムノートより引用

創価グロリア吹奏楽団 (2004年)

カントゥス・ソナーレ
作曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:創価グロリア吹奏楽団
指揮:佐川 聖二

「カントゥス・ソナーレ」の初演団体である創価グロリア吹奏楽団の、コンクール全国大会での初演になります。

冒頭からパワー全開の重厚でゴージャスなサウンドが圧巻で、全編にわたって「カントゥス」の名の通り歌に溢れた演奏です。金管楽器の音圧が凄まじいのは言うまでもありませんが、この音圧に負けていない木管楽器の力強さがこの曲には必要で、お互いに響きあう「ソナーレ」の要素が存分に発揮されています。3:29からの繊細ながらも充実した響きが美しく、フリューゲルホルンやオーボエのソロも美しい音色で歌いこまれていきます。5:04からテンポアップして終盤に向けて疾走していき、堂々としたサウンドが豪華絢爛に鳴り響いて曲が終わります。

土気シビックウインドオーケストラ (2008年)

カントゥス・ソナーレ
作曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2008年(第56回大会) 金賞
演奏:土気シビックウインドオーケストラ
指揮:加養 浩幸

東関東支部を代表する一般バンドである土気シビックウインドオーケストラの、結果的に吹奏楽コンクールでの最後の演奏となってしまった全国大会での演奏です。

冒頭からゴージャスなトゥッティサウンドがホールに響き渡りますが、創価グロリア吹奏楽団が「剛」の魅力に溢れた演奏だとしたら土気シビックウインドオーケストラは「柔」の魅力に溢れた演奏だと思います。「ソナーレ」がそれぞれのセクションで響き合いながら音楽が変幻自在に形を変えていき、一音一音の表情やフレーズの起伏が見事に表現されていて「カントゥス」を感じることができます。声部が多いこの曲のバランスのとり方も素晴らしく、最後まで隙のない圧巻の演奏となりました。

「鳳凰」 ~仁愛鳥譜

鈴木英史さんによる曲目解説から抜粋してご紹介します。

大津シンフォニックバンドの委嘱により2004年に作曲。同団と指揮者の森島洋一氏に献呈されている。この作品は、「愛」をテーマとした連作【1/「ライフ・ヴァリエーションズ~生命と愛の歌」(浜松交響吹奏楽団委嘱)、2/「カントゥス・ソナーレ」(創価グロリア吹奏楽団委嘱)】の第3作目として書かれ、この3曲で『愛の3部作』を形成する。そもそも「鳳凰」とは、中国で生まれ我が国でも吉兆的なシンボルとして飛鳥・白鳳時代から文様などで定着した架空の鳥である。また古代エジプトが発祥だと言われるフェニックスは500年ごとに自らを焼き、その都度よみがえる「不死鳥」として知られている。これらと手塚治虫氏の「火の鳥」(未来編)のイメージか重なり、作品のテーマが構想された。

ブレーンオンラインショップ ホームページ 「鳳凰」 ~仁愛鳥譜 楽曲解説より引用

大津シンフォニックバンド (2004年)

「鳳凰」 ~仁愛鳥譜
作曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:大津シンフォニックバンド
指揮:森島 洋一

「鳳凰」 ~仁愛鳥譜 の初演団体である大津シンフォニックバンドの、コンクール全国大会での初演になります。

冒頭の打楽器の強烈な打ち込みから、空気を切り裂くピッコロ・フルートに締太鼓の連打が絡んでいき、雄大な世界が広がっていきます。全編を通して和のテイストが色濃く感じられる曲ですが、和の世界観の表出が抜群に上手くて曲の世界に惹き込まれていきます。金管楽器のパワフルで余裕のある音圧とそれに負けない木管楽器の音圧がせめぎ合い、男声の掛け声やチャンチキをはじめとする打楽器セクションが印象的で、5:52のトランペットの痺れる音圧のハイトーンからそれぞれの楽器が咆哮していき、圧巻のクライマックスで曲が終わります。

大いなる約束の大地 ~チンギス・ハーン

この作品は、佐川聖二氏発案の「英雄の悲劇」シリーズ第2作目にあたり、リヴィエール吹奏楽団と三重県立上野高等学校吹奏楽部の共同委嘱により2007年に作曲されました。日本の追分の祖先とも言われている、モンゴルの民謡オルティンドー(長い歌の意味)と西洋4声体音楽を西洋と東洋にまたがる大きな大陸を制覇したチンギス・ハーンになぞらえ、音楽上で出会わせようとしたのがこの曲であるとのことです。

境町立境第一中学校 (2011年)

大いなる約束の大地 ~チンギス・ハーン
作曲:鈴木 英史


全日本吹奏楽コンクール
2011年(第59回大会) 金賞
演奏:境町立境第一中学校吹奏楽部
指揮:鈴木 勉

2011年の境町立境第一中学校の演奏は中学の部での全国大会初演となり、その後この曲がたくさん演奏されるきっかけとなった演奏だと思います。

冒頭の表情豊かなフルートソロで一気にこの曲の世界に惹き込まれます。それぞれの楽器のパッセージが絡み合いながら曲が進んでいき、ミュート付きトランペットやトロンボーンの豊かな音圧が印象に残ります。2:18からのスネアドラムのリズムにのってピッコロから始まる木管楽器のプラルトリラーを伴った民族調のメロディが可愛らしくも印象的に響き、勇壮な金管楽器との対比も見事です。雄大なメロディを聴かせた後の、4:54から始まる木管楽器の郷愁を感じるメロディの歌が心に沁みます。そこからクライマックスに向けて盛り上がり、荘厳なトゥッティサウンドが響き渡って曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。鈴木英史さんのオリジナル作品の全国大会での名演をご紹介しました。

次回は、鈴木英史さんの編曲作品の全国大会での名演をご紹介しようと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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