【金管バンドナビ】#42 コンテストシーズン2024開幕その③

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

早くも2024年も10月に入り、世界中はもとより金管バンドの本場英国のコンテストシーズンも益々の盛り上がりを見せています。本日は英国中のバンドが凌ぎを削る大激闘2024年全英大会特集です!

全英大会2024

Albert Hall, London

ファースト・セクション

チャンピオン・セクションからフォース・セクションまで5つあるセクションの中、今年のファースト・セクションの課題曲は日本でも大変人気の作曲家ヤン・ヴァン デル ロースト(Jan van der Roost)作曲のエクスカリバー(Excalibur)でした。

3月に開催された地区予選を突破し、決勝戦に出場したバンドは以下の通りです。

ファースト・セクション2024結果

今回審査員には洗足学園音楽大学ブリティッシュ・ブラスでも指揮を振るロバート・ボブ・チャイルズ博士(Dr. Robert Childs)ロジャー・エージェント(Roger Agent)、そしてグライムソープやブリッグハウスなど素晴らしいバンドのプリンシパル・コルネット奏者を歴任したアラン・モリソン(Alan Morrison)と錚々(そうそう)たるメンバーによって審査をされました。

結果は4barsrest(金管バンド最大手ウェブサイト)より以下の順位が発表されました。
(左から:順位、バンド名、指揮者、演奏順、得点(記載なし))

優勝はウェールズ地区のバンドであるノーソップ・シルバー・バンド(Northop Silver Band)、ベスト奏者には同バンドのアレッド・ウィリアムス(Aled Williams)が選出されました。

ノーソップは今秋、ブリティッシュ・オープン(最上級クラス)にも出場し、さらに全英大会ファースト・セクションでの優勝ということで来年の全英大会は2022年以来の最上級クラスであるチャンピオン・セクションへの復帰となります。(2025年の地区大会よりチャンピオン・セクションでの出場)

セカンド・セクション

3番目のランクであるセカンド・セクションには、英国全土より以下のバンドが選出されました。

課題曲にはスイス人作曲家のエティエンヌ・クロサス(Etienne Crausaz 1981-)によるアルビヌス変奏曲(Albinus Variations)が選ばれました。この曲はもともとオランダのカークレイドで開催されるワールド・ミュージック・コンテストにおいて金管バンド部門サード・セクションのために作曲された曲です。後に2022年全オランダ大会のサード・セクション課題曲としても使用されました。

作曲者であるクロサスは金管バンドの他にも吹奏楽や室内楽(小編成アンサンブル)、そして合唱のための作品などを作曲しており、作曲者自身も指揮やチューバ奏者としての演奏など幅広い活動をしている方です。

クロサスはこの変奏曲にバッハやタリス、チャイコフスキーにコープランドなどさまざまなクラシック作曲家たちへのオマージュに加え、金管バンド業界の巨匠作曲家であるスパークやウィルビーなどの影響を受けているとのことです。

親子対決

日本でも歌舞伎や相撲などそれぞれの業界で親子代々、家族ぐるみでの活動が行なわれていますが、金管バンド業界でも英国金管バンド・ファミリー名家の一つサイクス家(Sykes family)が今年のセカンド・セクション界隈を賑わせています。

今回奇遇なことにサイクス家の父であるスティーヴ(英国金管バンド業界のチューバ・レジェンド)は聖アウステル・タウン・バンド(St Austell Town Band)での指揮を行いました。

そしてアバティラリー・タウン・バンド(Abertillery Town Band)ではスティーヴの長男でもあり、現コーリーバンド首席トロンボーン奏者のステファンが指揮をするということで、サイクス家の父と長男が同日同じセクションで指揮者としてバンドを率いて激突するというまるでドラマのような展開が起きました。

(余談ですが、現コーリーバンドのバリトン奏者であるジェイミー・ジョーンズ(Jamie Jones)も同じセクションで指揮を振ったということで、所属バンドが同じもの同士が指揮者としても競い合うこととなりました。)

全英大会決勝セカンド・セクションは、以下のリンクから全バンドを聴くことができます。(有料、英語)

WoB Play

親子対決、同バンド対決と狭い世界ゆえ激アツな展開となりました今年のセカンド・セクションでした。

【親子対決の結果】

注目の親子対決の結果は父であるスティーブ・サイクスの圧勝そして優勝で幕を閉じました。得点差は公表されていませんが、優勝した聖オーステル・バンドと13位となった長男ステファン率いるアバティラリーバンドの順位から見ても大きく差が開いたのは一目瞭然です。父親の意地を見せたと言って良いのではないでしょうか。

【上位のポイント差はひっ迫】

審査員にはブラック・ダイク・バンド(Black Dyke Band)の打楽器奏者、来日ツアー経験もあるアンドレア・プライス(Andrea Price)、ダイクの元首席トロンボーン奏者も務め、数々のブラスバンドの音楽監督を務めるブレット・べイカー(Brett Baker)、そしてトラディーガー・バンド(Tredegar Band)の音楽監督でもあり東京シティコンサートブラスの音楽監督も務めたイアン・ポートハウス(Ian Porthouse)が審査を務めましたが、審査員の一人プライス女史がコンテスト後、結果発表前に行った発言曰く「上位数バンドはとても近いポイント差で、非常に審査が難しかった。」とのことです。

今年の結果は以下の通りです。

優勝した聖オーステル・バンドの様子は以下リンクよりご覧いただけます。

4barsrest記事

また今年のベストソリスト賞は4位となったオーデレィ・バンド(Audley Band)より首席コルネット奏者のジョン・ギブス(John Gibbs)が受賞しました。

最後に

日本でも歌舞伎や能などもそうですが、200年以上続く英国の金管バンド業界では親類みな金管バンド奏者や愛好家というのも決して珍しくなく、今回の全英大会の様な大きなコンテストでは至る所で一家揃って出場をしていたり、子どもの応援に自らが所属しているバンドのポロシャツのまま客席で座って聞いている親も当たり前にいて、英国人たちの生活に深く根付いている素晴らしい音楽ということが知れます。

日本でも本格的に金管バンドが始まって半世紀、徐々に家族ぐるみでの親子共演なども増えてきているのを目にしていますので今後がますます楽しみです。

サードやフォース・セクションも追ってご紹介をさせていただきますが、次回は10/5(土)に開催された全英大会の最上級セクションであるチャンピオン・セクションの特集です。英国1の座をかけた熱戦をお楽しみに。

今回も誠にありがとうございました。またお会いしましょう。


河野一之(Kazuyuki Kouno)

https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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