【吹奏楽ナビ】#48 「第六の幸福をもたらす宿」

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皆さま、こんにちは。

先月の記事でご紹介した、ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲や、バレエ音楽「ガイーヌ」など、日本国内では吹奏楽コンクールを始めとする、吹奏楽業界がきっかけとなって広く認知をされていったクラシック作品が意外に多くあります。今回は同じくそういった例に当てはまるであろう、「第六の幸福をもたらす宿」を取り上げようと思います。

「第六の幸福をもたらす宿」

「第六の幸福をもたらす宿」は、1958年に制作された同名ハリウッド映画(映画の原タイトルは「The Inn of the Sixth Happiness」で、邦題は「六番目の幸福」)の劇中音楽として、イギリスの作曲家であるマルコム・アーノルドによって作曲されました。映画は、第二次世界大戦下、日本軍に侵攻される中国の小さな村カンチェンを舞台に、宣教師として赴任した英国人女性グラディス・エイルワードが多くの困難に立ち向かっていく実話に基づいています。楽曲は劇中音楽として作曲されましたが、演奏会用管弦楽版の組曲はアーノルド自身ではなく、弟子のクリストファー・パルマーによって編曲されました。

文教大学 (1996年)

管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」より
Ⅲ. ハッピー・エンディング
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
1996年(第44回大会) 銀賞
演奏:文教大学吹奏楽部
指揮:佐川 聖二

「第六の幸福をもたらす宿」のコンクール全国大会での初演は1996年の文教大学で、3楽章のハッピー・エンディングのみというカットでした。

冒頭のホルン中心の勇壮なメロディから迫力充分な演奏で、弦楽器の感じを出すためのエスクラリネットやピッコロなどの高音楽器の効果が抜群です。2:19からの「This Old Man」の部分はメロディのピッコロを始めとして曲想をよく捉えた軽快な演奏で、3:53からの情感溢れるメロディもとても感動的です。惜しくも銀賞という結果になりましたが、後にこの曲の魅力を伝えるきっかけとなった演奏だと思います。

狭山ヶ丘高等学校 (1999年)

管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」より
Ⅰ. ロンドン・プレリュード Ⅱ. ロマンティック・インタリュード Ⅲ. ハッピー・エンディング
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


全日本吹奏楽コンクール
1999年(第47回大会) 金賞
演奏:狭山ヶ丘高等学校吹奏楽部
指揮:佐々木 隆信

1996年に全国大会初出場での金賞受賞のデビューを果たした狭山ヶ丘高校による、1999年の「第六の幸福をもたらす宿」の演奏です。

冒頭の木管楽器の鮮やかなハーモニーで一気にアーノルドの世界が広がる1楽章のロンドン・プレリュードから、懐かしさが感じられるような音楽表現で2楽章のロマンティック・インタリュードをしっとりと美しく聴かせてくれます。そこからなだれ込むように3楽章のハッピー・エンディングに突入し、4:39からの「This Old Man」の部分は落ち着き目のテンポでありながら軽さと楽しさを兼ね備えていて、終盤の美しいメロディのフレーズも申し分なく上手です。全曲を通して隙のない演奏で、狭山ヶ丘高校の魅力に溢れた名演だと思います。

春日部共栄高等学校 (2001年)

管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」より
Ⅰ. ロンドン・プレリュード Ⅱ. ロマンティック・インタリュード Ⅲ. ハッピー・エンディング
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


西関東吹奏楽コンクール
2001年(第49回大会) 金賞
演奏:春日部共栄高等学校吹奏楽部
指揮:都賀 城太郎

2000年に全国大会初出場にして金賞受賞のデビューを果たした春日部共栄高校が、翌年の自由曲で演奏したのが「第六の幸福をもたらす宿」でした。

冒頭の衝撃的なティンパニがとても印象的で、華やかな幕開けを彷彿とさせる1楽章のロンドン・プレリュード、美しい音色で表情豊かなフルートソロとイングリッシュホルンソロに導かれて歌心に溢れた2楽章のロマンティック・インタリュード、パワフルな音圧とアンサンブル能力のバランスがとても良くて音楽的でありながらも安心して聴くことができる3楽章のハッピー・エンディングと、全曲を通してとても完成度が高い名演です。

高音楽器が弦楽器の感じを出そうと攻めた結果リードミスが少し出てしまったことなどの細かいミスが減点の対象となってしまったのか、惜しくも支部代表とはなりませんでしたが、支部大会においての名演の1つだと思います。

宝塚市立中山五月台中学校 (2010年)

管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」より
Ⅰ. ロンドン・プレリュード Ⅱ. ロマンティック・インタリュード Ⅲ. ハッピー・エンディング
作曲:M.アーノルド 編曲:瀬尾 宗利


関西吹奏楽コンクール
2010年(第49回大会) 金賞
演奏:宝塚市立中山五月台中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之

かつて宝塚市立宝梅中学校の指揮者として全国大会に出場していた渡辺秀之先生の新たな赴任先である、宝塚市立中山五月台中学校の2010年の演奏です。

1楽章のロンドン・プレリュード冒頭のハーモニーが音圧充分でありながらここまでピッタリとハマっているのは今まで聴いたことがなく、とても衝撃的でした。2楽章のロマンティック・インタリュードは渡辺先生らしい柔らかで溶け合うサウンドがこの曲にピッタリでとても美しく、3楽章のハッピー・エンディングは安定感抜群でありながら軽快さも持ち合わせていて、全曲を通して中学校らしい素直な音楽がこの曲にとてもマッチしていて素晴らしいです。

渡辺先生と中山五月台中学校の演奏としては大変アグレッシブなのが珍しく、私はこの演奏をCDの録音で初めて聴いたのですが課題曲の端正なマーチの演奏と合わせてこれで支部代表になれないのかと驚いた記憶があります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。管弦楽組曲「第六の幸福をもたらす宿」の、コンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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