【吹奏楽ナビ】#45 ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲

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皆さま、こんにちは。

8月になっても猛暑の毎日が続いていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

吹奏楽コンクールA部門の地区・県大会が全て終了し、今年のコンクールシーズンが一段落した頃ですが、私は7月末から8月にかけては演奏や指導で吹奏楽に浸る毎日を過ごしていました。今年の指導先の学校の自由曲に、ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲があったのですが、指導校とは別で今年唯一聴くことができた県大会でもこの曲を自由曲に選んでいた学校がありまして、最近は全国大会では演奏されていない中でこの曲に珍しく縁があると思いましたので、今回は、ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲を取り上げます。

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲は、ハンガリーの作曲家、ゾルターン・コダーイがアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の創立50周年記念の委嘱作品として1939年に作曲した作品です。ハンガリーの民謡「飛べよ、くじゃく」の断片を主題として、そこから変化に富んだ16の変奏曲と終曲が切れ目なく紡がれていく約25分の作品となっていますが、オーケストラでの実演の機会はとても少なく私もまだ実演では聴いたことがないぐらいです。作曲家・編曲家の森田一浩さんの吹奏楽編曲版が1993年に全国大会で初演されると翌年から大人気の曲となり、特に私の中高生時代と重なる1990年代~2000年代にコンクールでよく演奏されていました。日本では吹奏楽編曲版のコンクールでの人気から原曲のオーケストラ曲の良さが認知されていった作品だと言えるでしょう。

千葉市立土気中学校 (1993年)

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
主題、第1・2・3・4・6・15・16変奏、終曲
作曲:Z.コダーイ 編曲:森田 一浩


全日本吹奏楽コンクール
1993年(第41回大会) 金賞
演奏:千葉市立土気中学校吹奏楽部
指揮:加養 浩幸

1992年の秋に次年度の吹奏楽コンクールの自由曲にしたいということで、ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲 の吹奏楽編曲を森田一浩さんに依頼したのが、当時千葉市立土気中学校吹奏楽部の顧問だった加養浩幸先生です。加養先生が「くじゃく」の吹奏楽編曲版の生みの親と言っても過言ではありません。

中学生とは思えない技術力の高さに、主体性のある若々しくてエネルギーに溢れた表現力の高さがとても魅力的な演奏です。第1変奏の弾けるエネルギー、第2変奏の見事なフレージング、第4変奏の切なくも表情豊かな歌心が印象に残り、加養先生時代の土気中学校の特徴であるパワフルな金管楽器のサウンドを存分に堪能することができます。

神奈川県立野庭高等学校 (1993年)

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
主題、第1・2・3・14・15・16変奏、終曲
作曲:Z.コダーイ 編曲:森田 一浩


全日本吹奏楽コンクール
1993年(第41回大会) 金賞
演奏:神奈川県立野庭高等学校吹奏楽部
指揮:中澤 忠雄

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲 の吹奏楽編曲を森田一浩さんに依頼したのは土気中学校の加養先生なのですが、森田さんが実際に編曲するにあたって幾度となく相談をしたのが、当時神奈川県立野庭高校の指揮者だった中澤忠雄先生で、森田さんは「くじゃく」は中澤先生とのコラボレーションで作ったと言っても過言ではないと語っています。フルートとピッコロのソロが有名な第14変奏は、中澤先生が当初は難しくて危ないからコンクールではカットする予定だったのを森田さんが絶対に入れてくださいと進言したエピソードもあり、野庭高校が第14変奏を演奏していなかったらその後コンクールで演奏されていなかったかもしれません。

1993年の野庭高校はバンド全体の技術力が高くて音楽的な表現力も素晴らしいのですが、特筆すべきはやはり木管楽器の音色の良さと技術力・表現力の高さでしょう。主題の音色感と音程の良さ、第2変奏の軽快で美しいスタッカート、第3変奏のクラリネット・サクソフォーンの一糸乱れぬメロディラインが印象的ですが、第14変奏のフルート・ピッコロソロの美しさと伴奏の繊細さは群を抜いています。クラリネットの連符では終曲の5:38と7:24の完成度が恐ろしくて音の粒が聴こえるのが物凄いことだと思います。

六角橋吹奏楽団 (1998年)

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
主題、第1・2・3・14・15変奏、終曲
作曲:Z.コダーイ 編曲:森田 一浩


全日本吹奏楽コンクール
1998年(第46回大会) 金賞
演奏:六角橋吹奏楽団
指揮:中村 睦郎

六角橋吹奏楽団は神奈川大学吹奏楽部のOB・OGの継続的な活動の場として1995年に設立され、全てのメンバーが神奈川大学吹奏楽部のOB・OGで構成されている一般バンドですが、全国大会に出場したのは1998年の一度だけとなっています。私が吹奏楽コンクールの演奏で初めて聴いた「くじゃく」は課題曲が長い年の演奏でこのカットと同じだったので、私にとっては一番馴染みがあるカットになっています。

六角橋吹奏楽団の演奏はコンクールとして全く隙がないのにも関わらず大人ならではの表情豊かな演奏で、第14変奏のアゴーギグを伴ったソロパートの美しさや第15変奏のリズム感の良さとスタッカートの処理の美しさが流石だなと思わせてくれます。響きの良いホールを味方につけて、パワーがありながらもブレンドされたサウンドがホールに響き渡り、最後まで集中力が切れることがない見事な演奏です。

岡山学芸館高等学校 (2008年)

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
主題、第1・2・3・4・6・8・15・16変奏、終曲
作曲:Z.コダーイ 編曲:森田 一浩


全日本吹奏楽コンクール
2008年(第56回大会) 金賞
演奏:岡山学芸館高等学校吹奏楽部
指揮:中川 重則

岡山学芸館高校の演奏は珍しい第8変奏が入っているのが特徴の一つですが、コンクールでのいろいろな演奏の中でも原曲のオーケストラらしさを強く感じる演奏だと思います。

主題では弦楽器のフレージングを意識したと思われる音楽の流れがとても素晴らしく、第4・6変奏の切なさを感じるメロディの音楽的な演奏も心に残ります。スピード感に溢れた第8変奏の勢いからそのまま第15変奏に突入するカットは斬新でありながらもありだなと思わせる説得力があり、全曲を通して若々しいエネルギーに溢れていて音楽的な魅力が詰まった演奏です。

駒澤大学高等学校 (2009年)

ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲
主題、第1・2・3・14・15・16変奏、終曲
作曲:Z.コダーイ 編曲:森田 一浩


全日本吹奏楽コンクール
2009年(第57回大会) 金賞
演奏:駒澤大学高等学校吹奏楽部
指揮:吉野 信行

駒澤大学高校は「くじゃく」を自由曲で演奏した年に2回全国大会に出場していて2回とも金賞受賞しており、十八番と言える曲だと思います。

主題の冒頭で懐が深いサウンドでありながら音程がぴったり合っているところに駒澤大学高校らしさを一番感じますが、第1変奏のパワフルなサウンドでの圧倒的な安定感、第3変奏の重厚なサウンドでのスピード感溢れる演奏、第16変奏でのホルンとトランペットの凄まじい音圧が印象に残ります。コダーイの曲に必要な金管楽器のパワーをこれでもかと聴かせながら突き進んでいき、最後まで勢いが落ちることのない圧巻の演奏となっています。

あとがき

いかがでしたでしょうか。ハンガリー民謡「くじゃく」による変奏曲の、コンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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