【吹奏楽ナビ】#44 「カルミナ・ブラーナ」

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皆さま、こんにちは。

私事ですが、先々週に東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の定期演奏会に出演し、「カルミナ・ブラーナ」全曲を演奏する機会がありました。全曲を改めて聴き、本番では作品の壮大な世界観に圧倒されたのですが、前回の記事で紹介した自由曲が「カルミナ・ブラーナ」だったこともあったりとタイミングが良いと思いましたので、今回は「歌曲」と呼ばれるジャンルの作品の第3弾として、「カルミナ・ブラーナ」を取り上げます。

「カルミナ・ブラーナ」

「カルミナ・ブラーナ」とは、1803年にドイツ南部バイエルンのベネディクトボイエルン修道院で発見された詩歌集のことを指します。それをドイツの作曲家であるカール・オルフが題材として取り上げ、春、酒、愛の3つのテーマに沿った24篇を選び、「器楽の伴奏を伴う舞台上演用の世俗カンタータ〜カルミナ・ブラーナ」を作曲しました。

このカンタータは全曲で約1時間に及ぶ作品で、オーケストラ、独唱者、合唱に児童合唱、さらに舞台上演用にバレエダンサーも加わることがあるというかなりの大編成の舞台作品となっています。吹奏楽編曲版としては、ジョン・クランスが全曲から13篇を選んで吹奏楽に編曲したものが日本では一番有名で、吹奏楽コンクール全国大会ではこの編曲版のみが演奏されています。コンクールではもちろん抜粋での演奏ですが、演奏時間の制約によるカットの手法が各団体の個性を表していますので、そういった部分にも触れながらご紹介しようと思います。

近畿大学 (1990年)

「カルミナ・ブラーナ」より 4、6、10、12、13
作曲:.オルフ
 編曲:.クランス

全日本吹奏楽コンクール
1990年(第38回大会) 金賞
演奏:近畿大学吹奏楽部
指揮:藪中 登来夫

「カルミナ・ブラーナ」の全国大会初演は1984年ですが、1990年全国大会での近畿大学の演奏があまりにも素晴らしい名演だったことが翌年に爆発的に流行ることになるきっかけとなりました。

金管楽器の充実した響きと音圧で 4.踊り《0:00~》が始まります。変拍子で同じことを演奏しながら表拍と裏拍が入れ替わっていく曲でアンサンブルが難しいのですが、何の苦もなく演奏するアンサンブル力の高さとダンスのリズムにのりながらの表情豊かな木管楽器が美しく響きます。この曲から綺麗に繋がる 6.たとえこの世界がみな《1:44~》の金管楽器の輝かしい音色と技術的な安定感が素晴らしく、素直にかっこいいと思える演奏です。

一気に雰囲気が変わって木管楽器の美しいハーモニーで 10.心を天秤にかけて《2:38~》が始まり、オーボエソロから始まってイングリッシュホルン・クラリネットのアンサンブルに繋がるメロディが歌のアゴーギグを伴って表情豊かに歌われていきます。12.美しい乙女に幸いあれ《4:51~》で充実したテュッテイサウンドがホールに響き渡り、そこから 13.おお、運命の女神よ、世界の王妃よ《6:04~》に入ります。緊張感のあるフレーズがだんだんクレッシェンドされていき、強奏になっても音色が乱れることなく美しいサウンドを保ちながら、7:36でエネルギが爆発して圧巻のサウンドを聴かせて曲が終わります。

兵庫県立明石北高等学校 (1991年)

「カルミナ・ブラーナ」より 4、6、10、12、13
作曲:.オルフ
 編曲:.クランス


関西吹奏楽コンクール
1991年(第41回大会) 金賞・代表
演奏:兵庫県立明石北高等学校音楽部
指揮:山本 茂之

手前味噌になりますが、私の母校である兵庫県立明石北高校の大先輩方による演奏で、全国大会ではなく関西大会の演奏をご紹介させていただきます。

よく響くホールの特性を味方につけて、音圧充分な金管楽器の響きで 4.踊り《0:00~》が始まり、木管楽器中心の美しい音色を中心としてリズミカルな踊りが繰り広げられていって、1:04のアグレッシブなホルンの音圧に圧倒されます。6.たとえこの世界がみな《1:37~》では歌のフレーズを大切にしながらもアグレッシブに駆け抜けていきます。重厚なハーモニーで 10.心を天秤にかけて《2:26~》が始まり、歌心のある表情豊かなオーボエソロとそこから繋がるフルートの美しい音色が心に残ります。合唱のようなブレンドされたハーモニーを大切にした 12.美しい乙女に幸いあれ《3:27~》から、劇的な 13.おお、運命の女神よ、世界の王妃よ《4:40~》に繋がっていきます。歌の歌詞を意識したメロディのディミニュエンドとメロディがしっかり聴こえるバランス感覚で緊張感を保っていき、銅鑼をはじめとする打楽器の助けを受けながら最後まで駆け抜けていって曲が終わります。

天理高等学校 (1991年)

「カルミナ・ブラーナ」より 1、7、4、6、10、13
作曲:.オルフ
 編曲:.クランス


関西吹奏楽コンクール
1991年(第41回大会) 金賞
演奏:天理高等学校吹奏楽部
指揮:新子 菊雄

1991年の関西大会では、明石北高校と天理高校の自由曲が同じ「カルミナ・ブラーナ」となりました。天理高校のカットは自分達の長所を生かしながらも他ではなかなか聴けないカットになっており、もし全国大会で演奏されていたらこのカットの曲もその後よく演奏されていただろうかと思わせる魅力のある演奏です。

原曲通り、1.おお、運命の女神よ、世界の王妃よ《0:00~》のイントロで衝撃的に始まり、幻想的な 7.愛神はどこもかしこも飛び回る《0:21~》に繋がります。この曲は上手に聴かせるのがかなり難しいですが、アルトサクソフォーンやピッコロのソロをはじめとした木管楽器の音楽的な上手さがよく分かります。4.踊り《2:13~》では高い技術力と緻密なアンサンブルで隙がなく、6.たとえこの世界がみな《3:58~》ではパワフルな金管楽器の音圧に圧倒されます。木管楽器の雰囲気のある美しいハーモニーで始まる 10.心を天秤にかけて《4:55~》では美しいイングリッシュホルンソロとオーボエ・アルトサクソフォーンのデュオが印象的で、13.おお、運命の女神よ、世界の王妃よ《6:56~》のイントロが再び衝撃的に鳴り響くと終曲まで緊張感を保ちながらアグレッシブに駆け抜けていき、金管楽器の音圧を最後まで保ったまま曲が終わります。

西宮市吹奏楽団 (1991年)

「カルミナ・ブラーナ」より 4、6、8、9、10、12、13
作曲:.オルフ
 編曲:.クランス

全日本吹奏楽コンクール
1991年(第39回大会) 金賞
演奏:西宮市吹奏楽団
指揮:楊 鴻泰

1991年は西宮市吹奏楽団と指揮者の楊 鴻泰さんのタッグでの全国大会デビューとなった年でもあります。演奏時間が8:54で約9分という、「カルミナ・ブラーナ」の派手で美味しいところを詰め込んだ、全部のせのような豪華なカットでの演奏となりました。

4.踊り《0:00~》の冒頭の金管楽器のファンファーレを長めの音価でたっぷり響かせて聴かせてから、踊りでは猛スピードで爽快に駆け抜けていきます。6.たとえこの世界がみな《0:44~》冒頭の金管楽器のファンファーレは少し抑えめに始まりますが、0:50のパワフルなホルンから合唱付きのような豊かなトゥッティサウンドを堪能できます。ユーフォニアムの表情豊かなソロが圧巻な 8.わしは僧院長さまだぞ《1:36~》から、9.酒場に私がいるときにゃ《2:19~》に繋がっていき、快速なテンポにのって酒場の陽気で荒々しい雰囲気を爆音ギリギリのところで見事に表現できているのは一般バンドならではでしょう。10.心を天秤にかけて《4:47~》で表情豊かなオーボエソロを聴かせてから、大人数ならではの豊かな響きで壮大な合唱を彷彿とさせる 12.美しい乙女に幸いあれ《5:53~》が感動的に響き渡ります。銅鑼の衝撃的な一発で 13.おお、運命の女神よ、世界の王妃よ《7:20~》の冒頭が強烈なアゴーギグを伴って演奏され、大人数でのpが原曲の合唱のように緊張感をもって響きます。8:15でテンポが速くなった後はパワー全開の金管楽器と共に勢いよく最後まで突き進んでいって曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。「カルミナ・ブラーナ」のコンクールでの名演をご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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