【吹奏楽ナビ】#37 全日本吹奏楽コンクール課題曲④ 現代音楽

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皆さま、こんにちは。

桜が咲いたと思ったら夏のような気温の高さに驚く4月となっていますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

2022年度をもってその役割を終えたということで廃止となりました「課題曲Ⅴ」。吹奏楽における現代音楽の開発を目的として前衛的な試みがなされてきた区分ですが、その仕組みが出来る以前から現代音楽と分類されるであろう課題曲は存在しました。本連載での課題曲の名演紹介も4回目となりますが、今回はそういった「現代音楽の課題曲」という点に焦点をあて、私が印象に残っている作品を名演と共にご紹介します。

課題曲Ⅴと全日本吹奏楽連盟作曲コンクールについて

5曲目の課題曲として課題曲Ⅴが初めて登場したのは1996年(それ以前の例外的な課題曲Eは除く) で、この年の朝日作曲賞受賞作品でした。その後、2003年からは大学・職場・一般の部のみが選択できる課題曲区分として存在しますが、2008年に「開発を意図した現代的な傾向の吹奏楽曲を応募規定とする全日本吹奏楽連盟作曲コンクールが開催され、このコンクールの第1位受賞作品が次年度の課題曲Ⅴとして採用されることになり、2009年から2022年まで高校の部でも課題曲Ⅴが選択できるようになりました。

課題曲Ⅴが登場するまでにも「現代音楽の課題曲」はありましたが、2009年以降に課題曲Ⅴを高校生が演奏できるようになってから「現代音楽の課題曲」が身近なものになり、曲に取り組むことも聴くことも増えたことは教育的にもある一定の成果は出たのではないかと思います。

1988年 吹奏楽のための「深層の祭」

課題曲A:吹奏楽のための「深層の祭」
作曲:三善 晃


全日本吹奏楽コンクール
1988年(第36回大会) 金賞
演奏:宝塚市立宝梅中学校吹奏楽部
指揮:渡辺 秀之

現代日本を代表する作曲家である三善晃さんの課題曲デビュー曲で、プロでもアンサンブルが難解でかなりの高難易度の曲にも関わらず全国大会では40.7%の団体によって演奏されました。三善晃さんの課題曲としては1992年の 吹奏楽のための「クロス・バイ・マーチ」があり、この2曲は今でもアマチュアのみならずプロの演奏会で演奏されるほどの名曲となっています。

この曲を中学生が演奏するだけでも物凄いことなのですが、宝塚市立宝梅中学校の演奏は恐ろしく精度の高いアンサンブル能力に各楽器の音色の良さが合わさっていてとてつもない名演となっています。

1994年 饗応夫人 太宰治作「饗応夫人」のための音楽

課題曲Ⅲ:饗応夫人 太宰治作「饗応夫人」のための音楽
作曲:田村 文生


全日本吹奏楽コンクール
1994年(第42回大会) 金賞
演奏:総社市外二箇村中学校組合立総社東中学校吹奏楽部
指揮:熊澤 利紀

1994年は初めてマーチ以外の課題曲のみとなった年ですが、自由曲にマーチを選曲してもらいたいという全日本吹奏楽連盟の意図もあったためか演奏時間が参考演奏で5:30~7:00という4曲とも長い曲ばかりという異例の年となりました。この年に課題曲史上屈指の難曲とされる饗応夫人が入っているのですが、変拍子満載かつファゴットやバスクラリネットの超高音域でのソロまであるという今では考えられない難易度の課題曲で、田村文生さんの名前を日本の吹奏楽界に知らしめた課題曲となっています。

中学生がこの曲を演奏しているだけでも驚愕なのですが、総社東中学校の演奏は指揮者の熊澤先生がクラリネット奏者であるためクラリネットの音色が中学生のレベルを遥かに超えた良い音です。冒頭のクラリネットの約3オクターブの跳躍から良い音なのですが、4:13からのバスクラリネットソロの音色は高校生でも出せないレベルのバスクラリネットの音色です。特に5:27のバスクラリネットの超高音域を木管の音色で普通に出していることが信じられません。完成度が高く全体の音楽表現が素晴らしい演奏は他にもたくさんあるのですが、クラリネット奏者の自分としてはこちらの演奏を紹介したいと思いました。

2005年 リベラメンテ 吹奏楽による

課題曲Ⅴ:リベラメンテ 吹奏楽による
作曲:出塚 健博


全日本吹奏楽コンクール
2005年(第53回大会) 金賞
演奏:川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団
指揮:福本 信太郎

課題曲Ⅴの現代音楽のマーチとしては唯一の作品です。最初から最後まで難解でアンサンブルは想像もつかないほど難しいと思いますが、独特の推進力があって最後まで突き進んでいく作品で私はとても印象に残っている作品です。

川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団の演奏は正確でありながら推進力を失っておらず、コンクールでの演奏としても完成度が高いという恐るべき演奏だと思います。

2010年 吹奏楽のためのスケルツォ第2番《夏》

課題曲Ⅴ:吹奏楽のためのスケルツォ第2番《夏》
作曲:鹿野 草平


全日本吹奏楽コンクール
2010年(第58回大会) 金賞
演奏:ヤマハ吹奏楽団浜松
指揮:須川 展也

ドラムセットが大活躍という課題曲、しかもポップス課題曲のドラムとは一味違うジャンルで、課題曲Ⅴとしても衝撃的で異色な課題曲でした。曲を聴いてスコアを見て思ったのは実際にコンクールで聴くとどんな音がするのだろう?という期待と不安で、初めてコンクール地区大会で聴いた時はなかなか衝撃的だったのを覚えています。支部大会で絶妙にバランスをとりながらもうまくトランスできている演奏を聴いてこの曲が大好きになりました。

ヤマハ吹奏楽団浜松の演奏は高度な技術に正確なアンサンブルと混沌な曲とのバランスがよく、疾走感に溢れていてコンクールとは思えないライブのような熱い演奏だと思います。

2014年 きみは林檎の木を植える

課題曲Ⅴ:きみは林檎の木を植える
作曲:谷地村 博人


全日本吹奏楽コンクール
2014年(第62回大会) 金賞
演奏:名取交響吹奏楽団
指揮:楊 鴻泰

特徴的な曲のタイトルが強く印象に残りますが、これまでの課題曲Ⅴとは一線を画した独特の雰囲気が大変魅力的な作品だと思います。管楽器特有の持続音に特殊奏法や連符が絡んでいき、「騒音のように」などの注釈も書いてあるのですが、緊張感を保ちながらも音色感や空気感を大切にした課題曲Ⅴはどちらかというと連符や強奏のインパクトなどでアピールできる課題曲Ⅴとは対照的で私はとても楽しめた作品でした。

名取交響吹奏楽団の演奏は、コンクール的に減点しにくいタイプの演奏が多い中で会場の響きの良さをうまく使った雰囲気のある演奏がとても印象に残っています。自由曲では正反対のノリノリで猛スピードな曲を演奏していたので、その対比にも驚かされたのをよく覚えています。

あとがき

いかがでしたでしょうか。「現代音楽の課題曲」の中で私が特に印象に残っている作品を5つご紹介しました。

課題曲Ⅴが廃止になり、吹奏楽コンクールで現代音楽の課題曲が聴けなくなったことに少し寂しさがありますが、コンクールに縛られず吹奏楽の編成を生かした現代音楽の名作が生まれていくことを期待しています。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

Musical instrument surrounded by scores

塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。