【吹奏楽ナビ】#33 全国大会 2003年高校前半の部②

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皆さま、こんにちは。

前回に引き続き今回も2003年全国大会高校前半の部から、私が印象に残っている演奏を2つご紹介します。吹奏楽コンクールでは、各団体の演奏が審査によって優劣をつけられます。この仕組みはコンクールという性質上どうしても必要な事なのですが、少しだけ視点を変えて「好きな演奏」や「印象に残った演奏」として考えた時には、必ずしも審査結果と紐づくわけではないと私は考えています。もちろん金賞を受賞した演奏が素晴らしいことは揺るがないのですが、中には銀賞や銅賞という奏者にとっては悔しい結果となったかもしれない演奏にも、しっかりとその曲、その本番に対する熱意の籠もった名演が間違いなく存在します。今回はそんな”銀賞名演”の中から私の印象に残っている演奏を2つご紹介します。

【名演紹介】富山県立富山商業高等学校(03年)

「翠風の光」より Ⅰ、Ⅲ、Ⅳ
作曲:長生 淳


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 銀賞
演奏:富山県立富山商業高等学校吹奏楽部
指揮:鍛冶 伸也

長生淳さん「翠風(すいふう)の光」は、四季を題材にした四部作「四季連禱(しきれんとう)」の3曲目「夏(初夏)」の曲にあたり、2002年にヤマハ吹奏楽団浜松の委嘱作品として作曲されました。全国大会での初演は2002年のヤマハ吹奏楽団浜松ですが、CDで初めて聴いた時の印象はあまりにも繊細な曲だなと思ったことを覚えています。そして、2003年の全国大会高校の部で富山商業高校の演奏で「翠風の光」を生で初めて聴けることになるのですが、CDで聴いた曲とは全く違う華やかな曲で始まったことにかなり驚きました。後で曲について調べると「翠風の光」は4つの楽章からなることを知り、ヤマハ吹奏楽団浜松は第2、4楽章を演奏していて富山商業高校は第1、3、4楽章を演奏していたことが分かったのです。高校生の頃の感性には第1、3、4楽章のカットがとても魅力的に思えたのと、全曲を聴きたくなってCDを購入したことが懐かしく思い出されます。

Ⅰ.Dolente《0:00~》は重厚かつ雄大なサウンドで始まり、テンポが速くなった1:00からはトランペットセクションを中心としたかなりの高速タンギングとホルンの強烈なグリッサンドからの高速パッセージの音圧に圧倒されます。

マリンバの音色から始まるⅢ.Moderato《1:30~》は木管楽器主体の楽章で、各楽器ごとのパッセージの移り変わりが長生さんの曲の特徴ですが、それぞれの楽器の音色の美しさと音楽的表現のアピールのバランスが素晴らしくて長生さんの曲の世界観を存分に表現できていると思います。曲はだんだんと活気を増していき、Ⅳ.Vivo《4:48~》につながっていきます。初夏の爽やかな空気感が伝わるようなスピード感溢れる演奏で、金管楽器は技術的に難しいパッセージが続きますが最後までスタミナが切れることなく見事に吹き切り、鮮やかに曲が終わります。

【名演紹介】精華女子高等学校(03年)

ダンス・ムーブメント
作曲:P.スパーク


全日本吹奏楽コンクール
2003年(第51回大会) 銀賞
演奏:精華女子高等学校吹奏楽部
指揮:藤重 佳久

フィリップ・スパーク「ダンス・ムーブメント」はワシントンのアメリカ空軍バンドの委嘱で作曲され、1997年に新しい吹奏楽曲に対する権威のある「サドラー国際吹奏楽作曲賞」を受賞した作品です。4つの楽章からできている組曲で、曲の難易度がグレード6となっていることからも分かりますが技術的な難易度がかなり高いことで有名な曲で、これまでに全国大会では2回しか演奏されたことがありません。全国大会での初演はこちらの2003年の精華女子高校になります。

Ⅰ.Ritmico《0:00~》は速めのテンポでスピード感に溢れていて、高校生ならではの若々しい表現がとても魅力的です。金管楽器のパワー溢れる音圧はもちろん素晴らしいですが木管楽器の音色も美しく、かなり難しい木管楽器のパッセージもスピード感を失わずに演奏できているのは練習量の賜物でしょう。

Ⅱ.Molto vivo《1:33~》冒頭の木管楽器のハーモニーからバスクラリネットに導かれて、Ⅲ.Lento《1:40~》がミュート付きトランペットとハープの美しい音色で幻想的に始まります。この楽章は楽譜に(for the Brass)と書かれているように金管楽器だけの楽章で、金管セクションの充実したサウンドによるフレーズの長いコラールを存分に堪能することができます(途中から木管楽器の音が聴こえるのはサウンドの補強や音色を変化させるためでしょうか?)。

打楽器の強烈な一撃とリズムが印象的なアンサンブルで始まるⅣ.Molto ritmico《4:10~》は、1楽章よりも更に勢いが増してジェットコースターのようなスピード感と様々なパッセージが駆け抜けていくのが圧巻です。私はこの楽章を藤重先生の指揮で演奏したことがありますが高速での連符は相当難しく、このテンポで吹けるのにどれほど練習したのだろうと驚かされます。6:44のパワー全開の金管楽器のファンファーレから終曲まで金管楽器のスタミナが落ちることなく、圧倒的なサウンドを保ったまま曲が終わります。

あとがき

いかがでしたでしょうか。それぞれの学校と作品の魅力が存分に伝わる、銀賞名演と言える演奏を2つご紹介しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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