【吹奏楽ナビ】#27 作曲家 樽屋 雅徳②

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皆さま、こんにちは。

急激に気温が下がり、秋を越えて冬を感じる気候になりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

今回も作曲家の樽屋雅徳さんをテーマにして、その作品と吹奏楽コンクールでの名演をご紹介します。

樽屋さん作品と演奏団体

私が初めて聴いた樽屋さんの曲は「絵のない絵本」ですが、この曲が収録されていたCDの演奏団体が土気シビックウインドオーケストラでした。この団体は20年以上に渡りセッションレコーディングによるオリジナルCD制作をしており、その活動やコンクールでの意欲的な選曲に惹かれた一ファンとして特に学生時代は毎年CDを楽しみにしていました。私自身、「絵のない絵本」をはじめ、「マゼランの未知なる大陸への挑戦」「マリアの7つの悲しみ」などの樽屋さんの初期の作品を土気シビックのCDで聴いて知りましたので、土気シビックの演奏が樽屋さんの作品が世に広まるきっかけの一つだったのだと思います。土気シビックの指揮者の加養浩幸さんは吹奏楽作品選曲CDなどでも樽屋さんの作品を指揮して収録されていますが、どの曲でも樽屋さんの曲の演奏のツボを押さえていて素晴らしいです。

樽屋さんの作曲の師事歴には過去に幕張総合高校の指揮者をされていた佐藤博先生が入っていますので、樽屋さんの出身校である銚子市立銚子高校で佐藤先生が指揮をされていた頃の生徒さんだったのではないかと推測しています。2013年に幕張総合高校の佐藤先生が樽屋さんに委嘱をして生まれたのが「白磁の月の輝宮夜」という曲です。この曲は幕張総合高校のバンドの実力を想定しているためにフルートをはじめとした木管楽器のソロが詰まっていて、連符をはじめとした技術的な難しさが樽屋さんの作品の中でも特に際立っています。私がこの曲を最初に聴いた時は幕張総合高校以外では演奏不可能な難易度の曲だと思いましたが、翌年には兵庫県の中学校が全国大会でこの曲を演奏し、これ以降毎年支部大会以上で演奏されている曲となっています。

【名演紹介】土気シビックウインドオーケストラ(04年)

ラザロの復活
作曲:樽屋 雅徳


全日本吹奏楽コンクール
2004年(第52回大会) 金賞
演奏:土気シビックウインドオーケストラ
指揮:加養 浩幸

この曲と同名の絵画「ラザロの復活」は、病死したラザロという青年をキリストが生き返らせる場面を描いており、この曲もその物語に合わせて作られています。

一番最初のテューバの重厚過ぎる低音のGesと、その上のDesとの5度の分厚いハーモニーで曲が始まりますが、この曲で終始大活躍するテューバをはじめとした低音群の充実ぶりが大変素晴らしいです。0:06からのメロディでホルンとアルトサクソフォーンに全く引けをとらずに豊かな響きで存在感を示すクラリネットセクションが凄まじい鳴りで、0:39からのクラリネットセクションの豊かな鳴りからもその存在感の凄さがよく分かります。全体的に地に足がどっしりつきすぎたぐらいの安定感と金管セクションの迫力が共存していて、樽屋さんの曲で特徴的なピアノソロ(2:25~)からの中間部(2:41~)のメロディの濃い歌いこみも樽屋さんの曲にぴったりで感動的です。グロッケンのような高音の打楽器による効果的なパッセージも樽屋さんの曲の特徴ですが、5:57からのグロッケンも含めて演奏効果が抜群で曲の良さを最大限に引き出していると思います。

曲の作りはシンプルなものですが、豊か過ぎるサウンドと歌いこみに溢れた音楽性によって、点数としてはこの年の一般の部の1位となりました。

【名演紹介】千葉県立幕張総合高等学校(13年)

白磁の月の輝宮夜
作曲:樽屋 雅徳


全日本吹奏楽コンクール
2013年(第61回大会) 金賞
演奏:千葉県立幕張総合高等学校シンフォニックオーケストラ部
指揮:佐藤 博

この曲は、「和風の作品を」との依頼を受けた樽屋さんが、「かぐや姫」の伝説を題材として作曲した曲になっています。

冒頭からいきなり和を感じられる太鼓の打ち込みと、篠笛や筝をイメージしたフルートとハープで一気にかぐや姫の世界観が広がります。和の空気感に溢れた圧巻のフルートソロの素晴らしさはもちろんですが、特筆すべきはバックのアルトフルートとバスフルートの音色の美しさと存在感です。アゴーギグを伴った木管楽器の歌いこみと豊かな音楽性が中心となって、オーボエやソプラノサクソフォーンの美しいソロに耳を奪われます。かなり高度なテクニックを要求される金管楽器と、和太鼓セクションのソリもある打楽器のレベルもかなり高く、木管楽器を中心とした凄まじい連符の精度の高さも際立っていて、樽屋さんの作品・幕張総合高校・佐藤博先生のタッグによる名演となりました。

あとがき

いかがでしたでしょうか。樽屋さんの曲が全国大会金賞受賞曲となる始まりの名演をご紹介しました。

これらの演奏がきっかけの1つとなり、コンクール自由曲として樽屋さんの曲が多く取り上げられるようになって、全国大会でもたくさん演奏されるようになったのだろうと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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