吹奏楽やブラスバンドの指導の方にとって、吹奏楽とは?バンドとは?音楽とは?
全国の指導者の方々、 そして、バンド活動にがんばるメンバーたちへの応援の気持ちをこめて、現場の指導者の方の「声」をご紹介いたします。
※ミュージックエイトHPに掲載のコラム「私と吹奏楽」より引用
京都府 私立洛南高校吹奏楽部・宮本 輝紀 先生にお話を伺いました。
部員数:男子40名 ※部員数は掲載当時のものです。
部のモットー:いつもうしろに感謝の気持
「お母さん」ほど、子どもに大きな影響を及ぼすことのできる教育者はいません。と、これは、昔から言われつづけてきました。私も、全くこれは真実であると、この40年間の教師生活と、私自身の65年の人生で実感しました。「お母さん」がすばらしい人であれば、その子も必ず、すばらしい人に成長していきます。
ヴァイオリンの幼児からの才能教育「スズキ・メソード」で世界的に有名な鈴木鎮一先生は、その著書『ヴァイオリン指導曲集』(全音楽譜出版社)のはじめに、“子供の運命は親の手にあり”と題して、次のように述べておられます。
──教育は、生まれた日から始まっています。ベビーのその肉体が日々刻々育って行くそのことと同じように、その生命の大いなる力は、外部からのすべての刺激を身につけて、能力を獲得しながら育っています。生命体への刺激がないことに対しては、何も育ってはきません。捨てておけば育たぬのです。能力は生まれつきではない…中略…心も能力も育てかたひとつです。…中略…世界中の子供達が皆、それぞれの国の言葉を自由自在に話す高度な能力に育つその事実を、どうぞよく考えてみて下さい。…中略…「能力の法則」に従って育つのです。育て方ひとつです──(原文ママ)
鈴木先生のレッスンでは、その初日に、お母さんが必ず一緒にレッスンを受け、次のレッスン日までの間は、そのレッスンで教わったことを、必ずお母さんが、吾が子である幼児に教えておく。それが、そのレッスンの条件の中に入っている、ということを聞きました。
ところで、我が洛南高校吹奏楽部は、と申しますと、年齢こそ高校生ですが、いつも生徒とお母さまと私が共に活動してきました。いつもいつも、学校は“吾が子を思う母の熱い熱い心”がバックボーンであります。
私たちの場合、後援会(最初の段階では「母の会」)の発足は、1980年頃、本校吹奏楽部が初めて全日本吹奏楽コンクールへの出場を決めたその年。学校としては予期せぬ出来事だったために、費用の捻出ができず、やむなく、生徒のお母さま方に必要経費をすべて出していただくために、会を結成したのがきっかけでした。その「母の会」(現後援会)の初代会長の方の偉大な力とご努力、そして、そのまわりの方々の熱いご支援は、ものすごいパワーとなって、ついに当時ひとりにつき3万円ずつ、全体で約150万円もの資金をあっという間に集金。おかげで、無事あこがれの普門館で精いっぱい演奏することができました。
そのときのお母さま方のものすごいパワーは、まるで神さま・仏さま・お釈迦さま、そして弘法大師さまが一ヵ所にお集まりになって、私たちを応援してくださった……そう思ってしまうほど、大きな大きなパワーで、私たちを包みこんでくださいました。以来20有余年を経過した今も、お母さま方を中心とする後援会はそのときと変わらず、いろいろなお母さま方の、熱い熱い心のこもった応援が続いております。本番の日が近づいてくると、皆に“差し入れ”の弁当を毎夕届けてくださったり、次に出演する行事の段取りや手配も相談しあってみたり、いつも、生徒たちと、お母さま方と、私と(わが妻も)の共同作業で、運営を進めていけるようになっております。一般的に1年生のお母さま方には、我が子の面倒だけを特別に、利己的にみたいという我が子への熱い想い、また我々教師に対しても、我が子だけを特別に大切にしてほしいという強い想いがあります。それは当然のことかもしれませんが、3年間の後援会活動を体験されると、大半のお母さま方は、我が子のことだけでなく、仲間として部全体を応援する方向に少しずつ変化していかれます。この「お母さんの変化」と並行して、利己的だった1年生が、次第に、協調性豊かな2年生、3年生へと成長していくのです。
今の世の中、大学受験だけの高校生活を生徒たちに強要してしまうような傾向が強い受験教育が、自己中心的な考え方から抜け出せない若者を形成してしまっているのではないかと言われています。それを考えると、吹奏楽をする人たちは、聴衆である自分以外の他の人がその演奏を聴いて喜び、拍手をしてくださるその姿を見て、自分の喜びとできる。つまり、吹奏楽は、人間として最も大切な他者の喜びを我が喜びとする『自未得度 先渡他』の心を自然に育てあげてくれる素晴らしさを持っているのです。そのうえ、そのための演奏技術も、高校3年間で立派にできあがっていくものであります。生徒たちとお母さま方と我々教師がひとつになって、「吹奏楽」というすばらしいものを通して、お互いを高めてゆきましょう。お父さまも、ご家族の方々も、ご一緒に吹奏楽活動を応援してください。お願いいたします。
私の師匠、故山下清孟先生は「心は生命の鏡である。磨いて汚れを取らないと、美、醜はわからなくなる」とおっしゃっていました。私たちも一緒に“生命の鏡”をくもらせないように磨きつづけましょう。
お母さん、これからもよろしくお願いいたします。
※自未得度 先渡他:悟りの岸に渡るべき、されど自分だけでは、もったいない。自分以外の人たちにも渡ってほしいと心から思い実行する。