【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#19

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皆さま、こんにちは。

厳しい残暑に加えて大雨にも悩まされる9月になっていますが、いかがお過ごしでしょうか。

今回は、シュミット作曲の「ディオニソスの祭り」をご紹介します。

名曲紹介 #19 ディオニソスの祭り

フローラン・シュミットが1913年に作曲した「ディオニソスの祭り」は、吹奏楽オリジナル作品の最高傑作の一つと称され、いろいろなことが規格外な作品となっています。

この曲はフランスのギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団のために作曲されましたが、作曲者によって野外での演奏を想定されていることもあって吹奏楽の編成としてはかなりの大規模となっており、また当時のギャルドが充実した編成を誇っていたことから現代の吹奏楽では指定通りの楽器編成で演奏することがとても難しいです。具体的には、演奏に必要な人数が最低でも98名でオプション楽器も全て含めると完全な演奏には123名もの人数が必要となっており、オプション楽器にはサクソルン属という金管楽器群やコントラバスサリュソフォーンというダブルリードの楽器が含まれています。

曲名のディオニソスとは、ギリシャ神話における豊穣・酒・酩酊をつかさどる神のことですが、この曲で描かれているディオニソスは古代エーゲ海文明における、狂乱と陶酔を象徴する神というイメージのほうがより近いと思われます。

私はこの曲を大学1年生に吹奏楽の学内演奏会で演奏しましたが、高校生の時にこの曲の存在を知っていたとはいえ楽譜を見てあまりの難しさに驚愕したことが忘れられません。特にほとんどのパッセージがタンギングの嵐になっていて難しすぎるので少しはスラーを付けて演奏するのだろうと淡い期待をもっていたら、上級生の先輩方がダブルタンギングで普通に演奏しているのを聴いてとんでもなく上手な方々の集まりなんだと思い知らされたことが懐かしく思い出されます。

今回は、個性的な4つの演奏をご紹介します。

千葉県立銚子商業高等学校(1977年)

1977年(第25回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:千葉県立銚子商業高等学校吹奏楽部
指揮:小澤 俊朗

現在は神奈川大学で指揮をされている小澤俊朗先生が、銚子商業高校で全国大会五金を達成した時の演奏です。「ディオニソスの祭り」の全国大会高校の部での初演でもあるのですが、この難曲をものともせずに演奏してしまう相当に高い技術力と、どの声部もきちんと聴きとれるバランスの良さは特筆すべきものです。1977年の演奏とはとても思えない、今の時代でも十二分に通用する名演だと思います。

千葉市立土気中学校(1984年)

1984年(第32回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:千葉市立土気中学校吹奏楽部
指揮:広沢 昭博

土気中学校は全国大会五金を達成するなど一時代を築いた千葉県の強豪校ですが、この演奏は土気中学校が全国大会に初出場した年であると同時に、「ディオニソスの祭り」の全国大会中学の部での初演でもあります。まずこの曲が中学生によって演奏されていることが驚くべきことですが、ただ演奏しているだけでなくこの曲想を表現していることが信じられないほどの技術力の高さで、一体どのような練習をしたらこんなに吹けるようになるんだと思ってしまいます。この翌年から「ディオニソスの祭り」が全国大会中学の部で演奏されるようになったことを考えても、全国のバンドに多大な影響を与えた名演だと思います。

兵庫県立御影高等学校(1985年)

1985年(第33回) 全日本吹奏楽コンクール 銀賞
演奏:兵庫県立御影高等学校吹奏楽部
指揮:楊 鴻泰

指揮者の楊 鴻泰(よう こうたい)さんは御影高校で全国大会に初出場しましたが、その後に西宮市吹奏楽団、関西大学、名取交響吹奏楽団の3団体で全国大会金賞受賞という輝かしい経歴があります。私は名取交響吹奏楽団の全国大会での演奏を生で聴いたことがありますが、とにかく曲の魅せ方がとても上手で演奏に引き込まれてしまった記憶が鮮明に残っています。御影高校の「ディオニソスの祭り」は独特の解釈に溢れていて、特に3:46の豪快過ぎる溜めがもの凄く、7:03から終曲にむけての超高速の追い込みも凄まじいです。正に怪演の代表格で、指揮者の音楽性とそれに応える生徒たちの実力が噛み合った個性豊かな演奏だと思います。

乗泉寺吹奏楽団(1993年)

1993年(第41回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:乗泉寺吹奏楽団
指揮:時任 康文

演奏動画はこちら(Youtube)

「ディオニソスの祭り」は大人数での演奏を想定されているため、一般の部での大人数の演奏が一番原曲に近い雰囲気が出せるであろうと思われますが、乗泉寺吹奏楽団の演奏はその期待にしっかりとこたえてくれています。現在もプロの指揮者として活躍されている時任康文さんの情熱的な指揮に団員さんが応えており、とにかく重厚かつ熱狂的で荒れ狂う演奏は大人にしか出せない魅力で溢れています。ラストの猛スピードでの追い込みも素晴らしく、「ディオニソスの祭り」の代表的な名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょう?フローラン・シュミットの超特大編成の吹奏楽オリジナル作品の名曲「ディオニソスの祭り」の吹奏楽コンクールでの名演を4つご紹介しました。

格段に技術力が発展した現在こそ、この超難曲の音楽的かつ圧倒的な名演を聴きたいと思ってしまいますので、実力のあるバンドに取り上げてほしいと願っております。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。


塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。

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