【吹奏楽ナビ】名曲・名演紹介#14

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皆さま、こんにちは。

各地では地区大会が終わった頃でしょうか。この時期は、私が高校生の時は合宿があったりで毎日練習に励んでいましたが、中学生の時は午前中に練習が終わることが多くて夏休みを満喫していた記憶があります。

今回は、レスピーギ作曲の「シバの女王ベルキス」をご紹介します。

名曲紹介 #14 バレエ組曲「シバの女王ベルキス」

オットリーノ・レスピーギが最後に作曲したバレエ音楽「シバの女王ベルキス」は、「ローマ三部作」以上に大きな編成が要求される大規模の楽曲です。バレエは全7幕で上演に80分かかる大曲で、3管編成よりも少し大きな編成の管楽器群にサクソフォーン・ハープ2台・チェレスタ・オルガンが入り、バンダやオフステージの楽器群に加えて独唱と合唱やナレーターまで必要というとんでもなく大がかりな編成になっています。

バレエの全曲は初演時に十数回の公演が行われて以降はほとんど演奏されることはなく、作曲者自身によって1934年に4曲からなる組曲が編まれました。この組曲版も私が中高生の頃は録音がほとんどなく実演の機会もありませんでしたが、近年では録音がだいぶ増えていて国内でも東京フィルハーモニー交響楽団や読売日本交響楽団の演奏会のプログラムに取り上げられるほどになりました。それでも、オーケストラの編成よりは吹奏楽の編成のほうが演奏機会が多く、特に吹奏楽コンクールでは一時期に爆発的に演奏されていた人気曲です。

組曲は、全曲の中から物語の時間軸通りに4曲にまとめたものですが、演奏効果を考えて第2曲と第3曲を入れ替えて演奏されることが多いです。各曲について簡単に説明しておきましょう。

Ⅰ.ソロモン王の夢 バレエ原曲の第2幕「ソロモン王の寝室」の音楽で始まり、オーケストラの全員合奏の部分は第2幕の「ソロモン王の入場」の音楽で、音楽がやがて静まった後につづくオーケストラ全員合奏は第5幕の「ベルキスとソロモン王の面会」の場面での音楽が使われています。
Ⅱ.夜明けのベルキスの舞い 第3幕「シバの空中庭園」の音楽が使われていて、イングリッシュホルンが登場したところからが、ベルキスの「夜明けの舞い」の場面となっています
Ⅲ.戦いの踊り 冒頭の金管楽器の雄叫びの後、第7幕「太鼓の踊り」が始まります。一区切りつくと戦闘太鼓が叩かれ、エスクラリネットが高らかに戦いのテーマを奏でます。嵐のような急速なテンポとなり、第5幕の「戦いの野蛮な踊り」となります。
Ⅳ.饗宴の踊り 原曲のフィナーレとなる、第7幕「饗宴の踊り」がそのまま使われています。ソロモン王とベルキスの結婚を祝うとともに、イスラエルとシバの連合をも祝す音楽です。狂乱状態が一瞬静まり、舞台裏のバンダがメロディを歌います。その後、打楽器の強打もあって音楽は乱痴気騒ぎへと発展していき、金管楽器のファンファーレの後に組曲第1曲「ソロモン王の夢」の行進曲が全員合奏で再現され、バンダも加わって大団円のなか幕を閉じます。

吹奏楽コンクールでは、「ソロモン王の夢」と「饗宴の踊り」、もしくは、「戦いの踊り」と「夜明けのベルキスの舞い」と「饗宴の踊り」のカットが多いですが、全楽章から抜粋するカットやそれ以外の組み合わせのカットもたびたび演奏されるので、カットの選択肢が多い曲だと思います。今回は、3つの演奏をご紹介します。

福岡工業大学附属高等学校 (1989年)

1989年(第37回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:福岡工業大学附属高等学校吹奏楽部
指揮:鈴木 孝佳
編曲:小長谷 宗一

この演奏のカットは「戦いの踊り」「夜明けのベルキスの舞い」「饗宴の踊り」になっていますが、初めて全国大会でこのカットで演奏した学校が福岡工業大学附属高校で、この曲が爆発的に流行ることになった伝説の名演となっています。特に「戦いの踊り」のかっこよさは衝撃的で、私が高校3年生の時の自由曲が「シバの女王ベルキス」だったのですが中学生の時にこの演奏を聴きすぎていて「戦いの踊り」のエスクラリネットのソロを楽譜をもらう前からほとんど暗譜できていたほどでした。今でもこの演奏のどこでリードミスが鳴ってしまうか覚えているぐらいに大好きな演奏で、当時は聴きまくっていました。

鈴木孝佳先生時代の福岡工業大学附属高校は硬派な演奏が痺れるぐらいかっこよくて、「戦いの踊り」《0:00~》はこのバンドのサウンドにぴったりで冒頭からの金管楽器の音圧に圧倒されます。0:36のエスクラソロは余計なことを何もしない実直な表現での美しい音色が憧れでした。この楽章では金管楽器が大活躍なのですが、1:12のクラリネットの芯があって輪郭がくっきりとしたサウンドはなかなか出せるものではなく素晴らしいです。「夜明けのベルキスの舞い」《2:37~》では雰囲気たっぷりのフルートソロがとても美しく印象的で、クラリネットソロの音色も美しく響きます。「饗宴の踊り」《4:40~》では細部まで聴きとれる木管楽器の連符が凄まじいですが、やはり5:39からの金管楽器のファンファーレが最大の見せ場となっていて、どの楽器ももの凄い音圧で伸ばしの音をしっかり張ったサウンドに心を奪われます。最後まで金管楽器のパワーが衰えることなくラストのB-durのハーモニーが朗々と鳴り響くのが圧巻です。

創価学会関西吹奏楽団 (1993年)

1993年(第41回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:創価学会関西吹奏楽団
指揮:磯貝 富治男
編曲:小長谷 宗一

この演奏のカットは「ソロモン王の夢」「戦いの踊り」「夜明けのベルキスの舞い」「饗宴の踊り」全楽章から抜粋した、正にいいとこどりのカットです。

「ソロモン王の夢」《0:00~》ではフルートなどの各ソロと木管楽器の表情豊かなメロディが美しいですが、やはり「戦いの踊り」《1:11~》の金管楽器の最初のCの音の圧倒的すぎる音圧に全ての印象をもっていかれます。特にこの楽章でのホルンセクションの鳴りと音圧の凄さは唯一無二で、この演奏を超えるホルンセクションのサウンドには出会っていません。1:47のエスクラソロは野蛮な表現が上手で印象的ですが、その直後からの金管楽器のギアの上がり方と金管楽器に負けない木管楽器の音圧がもの凄いことになっています。「夜明けのベルキスの舞い」《3:22~》ではフルートソロの堂々とした吹きっぷりに心を奪われます。「饗宴の踊り」《5:40~》は荒々しい表現で突き進む木管楽器に金管楽器がこたえて、6:41のファンファーレから終曲までが恐ろしく凄まじいものになっていて圧巻です。トランペット・トロンボーンの直管楽器も凄いのですが、それを支えるホルンやテューバの充実度がこの名演を生み出したのだと思います。

神奈川県立野庭高等学校 (1995年)

1995年(第37回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:神奈川県立野庭高等学校吹奏楽部
指揮:中澤 忠雄
編曲:小長谷 宗一

この演奏のカットは「ソロモン王の夢」「饗宴の踊り」の2曲ですが、この時代の野庭高校の特徴であるよくブレンドされたオーケストラサウンドに豊かな表現が合わさり、更に特別な集中力があったことによって他に比類のない名演となりました。

「ソロモン王の夢」《0:00~》の冒頭のハーモニーがぴったりと決まり、0:08の木管楽器のメロディの表情豊かな歌いこみから、0:21のトランペットセクションのファンファーレの美しい音色でのテヌート表現が王様の威厳を感じさせます。音色は美しいのに何とも言えない迫力があって惹きつけられる魅力に溢れています。2:32のアルトサクソフォーンソロの表現に引き込まれますが、何と言ってもこの演奏の最大の見せ場は3:30からのテュッティでの演奏です。アゴーギグとデュナーミクを自在に使ってのテュッティでの歌いこみに心を奪われ、琴線に触れる表現がとても素晴らしくて感動的です。ソプラノサクソフォーンの美しいソロからこの曲の終わりに向けてだんだんディミニュエンドしていき、クラリネットソロのディミニュエンドが特に印象的で見事です。「饗宴の踊り」《5:54~》ではあまりにも冷静でトリルの数まで揃っている木管楽器が逆に恐怖を感じさせ、6:20のピッコロとエスクラのソリは驚くほどぴったりで素晴らしいのですが、6:55からの金管楽器のあまりにも美しい音色でテヌート表現のファンファーレがこの曲の固定観念を覆すもの凄い衝撃でした。7:33からの木管楽器のメロディは涙を誘うほど美しく表情豊かで、7:52からの最後のファンファーレは理知的でありながらも最後までパワーが衰えることなく、ラストのB-durのハーモニーが合ってからの急激なクレシェンドで曲は終わります。ブラボーの声まで美しいというおまけつきで、このカットでの演奏では歴史に残る名演だと思います。

あとがき

いかがでしたでしょう?オーケストラ曲としては知られざる名曲「シバの女王ベルキス」の魅力が最大限伝わる3つの演奏をご紹介しました。

私が高校3年生の時の自由曲だったので思い入れが相当強いのですが、今でも記憶に鮮明に残っている演奏になります。

最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。

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塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。