皆さま、こんにちは。
梅雨が明けて猛暑日が続いていますが、この時期になると中学・高校時代に吹奏楽コンクールに向けて練習していた日々を思い出します。
今回は、吹奏楽コンクールの自由曲として全部門合わせて最も演奏回数が多い、レスピーギ作曲の「ローマの祭り」をご紹介します。
以前にも同曲を取り上げた、こちらの記事もご一緒にご覧いただけると幸いです。
・名演紹介 #1 「ローマの祭り」/東海大四高(92年)
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名曲紹介 #13 交響詩「ローマの祭り」
イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギが1928年に作曲した交響詩「ローマの祭り」ですが、この曲より前に作曲された「ローマの噴水」「ローマの松」の2曲と合わせて「ローマ三部作」と呼ばれています。「ローマの祭り」は古代から現代までの時代に行われていた実際の祭りを描いたものになっていて、それぞれの祭りを簡単に説明しておきましょう。
Ⅰ.チルチェンセス 古代ローマのネロ皇帝の時代、円形劇場でキリスト教徒たちが衆人環視の中で猛獣と闘って喰い殺されてしまう残酷な祭り。
Ⅱ.五十年祭 ロマネスク時代、50年ごとに行われているカトリックの祭りで、世界中の巡礼者たちがモンテ・マリオの丘を登り、頂点へたどり着き、その嬉しさのあまりローマを讃えて讃歌を歌う。それに答えて教会の鐘が鳴り響く。
Ⅲ.十月祭 ルネサンス時代、ローマ郊外にあるカステッリ・ロマーニという地域で、秋のぶどうの収穫を祝って開催される祭り。狩りの合図、鐘の音、愛の歌に続き、穏やかな夕暮れのロマンティックなセレナーデが聴こえてくる。
Ⅳ.主顕祭 20世紀の時代、ナヴォーナ広場で行われる三賢人がキリストを礼拝した主顕祭の前夜の祭り。お祭り騒ぎの中ラッパの独特なリズムが絶え間なく聴こえて、時にはサルタレッロの旋律、屋台の手回しオルガンの旋律、物売りの声、酔っ払いの耳障りな歌などが聞こえてくる。
この曲はオーケストラで演奏するとなると3管編成より少し大きい編成に打楽器奏者が最低9人必要で、オルガンやピアノに加えてマンドリン奏者も必要だったりするので、なかなか演奏機会が少ない曲です。曲が派手で通俗性が高い音楽であることから、吹奏楽の編成のほうがこの曲の魅力は出しやすいのではないかと思います。
吹奏楽コンクールでは、チルチェンセスと主顕祭、または、十月祭と主顕祭のどちらかを選曲することがほとんどです。今回は、数多ある演奏から4つをご紹介します。
川越市立野田中学校 (1991年)
1991年(第39回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:川越市立野田中学校吹奏楽部
指揮:佐藤 正人
編曲:佐藤 正人
この演奏では十月祭と主顕祭を選曲していますが、おそらく初めて全国大会で五十年祭の後半部分から演奏した学校だと思います。この部分はオーケストラでの演奏だと十月祭への経過部分のような感じであまり印象に残らないのですが、この部分から始めると美しい中低音の旋律から鐘の音がとても印象的に響くので、このカットを考えた人はすごいと思いました。
野田中学校の演奏は特に金管楽器が中学生とは思えないレベルの高さで、この曲をただ演奏するだけでなく曲に合った音色と音圧で演奏できているのは衝撃的でした。今の時代でも間違いなく通用するレベルだと思います。
十月祭に入る直前のホルンセクションの充実したサウンドから、十月祭《0:54~》の明るくて力強いホルンセクションのサウンドに耳を奪われます。1:13からのトランペットセクションの音圧とアンサンブルにも圧倒されますが、十月祭の木管楽器での弦楽器の弓の圧力をかけた表現がとても上手で驚かされます。主顕祭《1:46~》冒頭のエスクラとB♭クラリネットのリズムが完璧な一糸乱れぬアンサンブルや、1:50からのトランペットのフラッターの音圧はとても中学生とは思えません。3:25のB♭クラリネットとエスクラのメロディの明るい音色と溌剌とした表現や、4:29の木管楽器のスピード感溢れる連符に圧倒されます。ラストに向かう盛り上がりの高揚感も素晴らしいです。
愛知工業大学名電高等学校 (1993年)
1993年(第41回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:愛知工業大学名電高等学校吹奏楽部
指揮:松井 郁雄
編曲:磯崎 敦博
東海支部の名門校で現在も全国大会に出場し続けている愛知工業大学名電高校ですが、松井先生の時代は金管楽器が圧倒的に上手で有名でした。
この演奏ではチルチェンセスと主顕祭を選曲していますが、チルチェンセス《0:00~》の冒頭から金管楽器の強烈すぎる音圧を味わうことができます。伸ばしの音のクレシェンドでの音圧が恐怖を感じさせ、1:18からはバストロンボーン中心のサウンドで音の割り方が素晴らしいです。主顕祭《1:43~》は冒頭からアクセル全開でスネアドラムが更に煽るので崩壊寸前ですが祭りの喧騒の表現としてはぴったりだと思います。ひたすら前に突き進んでいく疾走感は圧巻ですが、3:34からはゆったりとしたテンポで聴かせることで場面転換もバッチリです。5:12のトランペットソロは勢いがありながらハイHの音を完璧に当てており、各ソロの実力も申し分ない出来です。
愛知県立幸田高等学校 (1998年)
1998年(第46回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:愛知県立幸田高等学校吹奏楽部
指揮:鈴木 孝育
編曲:磯崎 敦博
この年に全国大会初出場の県立幸田高校の演奏は、とにかくソロトランペット奏者のあまりに大きい存在感と演奏全体に与える影響の大きさに驚かされます。
チルチェンセス《0:00~》の0:06のバンダトランペットからこの曲にぴったりのもの凄い音圧でバンドを引っ張っていきます。主顕祭《1:47~》の2:22からのトランペットソロでは伸ばしの音でヴィブラートを思いっきりかけていて存在感たっぷり、4:32からのメロディはヴィブラートをかけながら朗々と歌いこみ、5:12の大ソロはもの凄い音圧でハイHを吹き切るという、正にソロトランペットに相応しい実力でこれがトランペットだと納得させられます。
ソロトランペットだけが上手なのかと言われるとそうではなく、チルチェンセスでの木管楽器の音圧は金管楽器に負けていないですしバンダトランペット以外のトランペットがハイCをしっかりと当てています。主顕祭での冒頭のエスクラや3:08のクラリネットの明るくてよく通る音色も曲にぴったりで、4:10からの連符も疾走感があり鮮やかに吹けています。曲とこの年のメンバーがぴったりとはまったことによって生まれた名演でしょう。
横浜ブラスオルケスター (1999年)
1999年(第47回) 全日本吹奏楽コンクール 金賞
演奏:横浜ブラスオルケスター
指揮:中村 睦郎
編曲:佐藤 正人
五十年祭の後半部分から十月祭と主顕祭を選曲した演奏の中では、この横浜ブラスオルケスターの演奏が頭一つ抜けて上手だと思います。
曲冒頭の金管中低音を中心としたハーモニーの美しさに心を奪われます。十月祭《0:57~》ではホルンセクションの一糸乱れぬアンサンブルやミュートトランペットのぴったり揃ったアンサンブルが印象的で、主顕祭《1:50~》では場面の転換があまりにも素晴らしくて様々な景色を見せてくれながらしっかりと整えられたアンサンブルに支えられていて文句の付け所がない名演だと思います。
あとがき
いかがでしたでしょう?「ローマの祭り」の魅力が伝わる4つの演奏をご紹介しました。
私が実際に「ローマの祭り」を演奏したことがあるため、コンクールの演奏を聴くと求めるレベルがかなり高くなってしまうのですが、その中でも特に素晴らしいと思った演奏になります。
次回は、オーケストラよりも吹奏楽の編成でよく演奏されている、レスピーギ作曲の「シバの女王ベルキス」をご紹介します。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回お会いしましょう。
塚本 啓理(つかもと けいすけ)
兵庫県出身。12歳より吹奏楽部でクラリネットを始める。
明石市立朝霧中学校、兵庫県立明石北高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科クラリネット専攻を経て、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程を修了。
在学中に東京藝術大学室内楽定期演奏会に出演。
小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩ「ヘンゼルとグレーテル」、Ⅺ「蝶々夫人」に出演。
これまでにクラリネットを藤井一男、村井祐児、山本正治、伊藤圭の各氏に、室内楽を四戸世紀、三界秀実の各氏に師事。
現在は、フリーランスのクラリネット奏者としてオーケストラや吹奏楽、室内楽の演奏活動をすると共に、後進の指導も精力的に行っている。