みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
これまでの記事で解説してきた通り、コンテストによる金管バンドの発展は著しいモノがあり、その歴史も150年以上と大変長いものです。前回の記事では英国金管バンドコンテストの組み分けであるチャンピオン・セクションからフォース・セクションまでの5つのセクションについてご紹介をしました。今週からは実際にどのようなコンテストがあるのか、数えきれないほどあるコンテストの中から主要なものを数回に分けてご紹介させていただきます。
コンテスト・シーズン
ざっと有名どころを書いただけですが、これほどたくさんのコンテストがあります。
この他にも地域ごと、協会ごと、またはバンドが主催のコンテストなど本当にたくさんのコンテストが存在します。それでは今回は1月から3月に開催される主要コンテストの特徴をご紹介していきます。
1月バットリンズ・マインワーカーズ・コンテスト
イギリス中東部にあるリンカンシャー、ここにあるバットリンズ・リゾート・スケッグネス(Butlins Resort Skegness)で開催されている金管バンドのコンテストです。 今年2023年は開催を見送られたこのコンテストですが、全英大会やブリティッシュ・オープン同様チャンピオン・セクションからフォース・セクション、さらにはユース・セクションを対象とする大きいコンテストです。
スケッグネスにあるリゾート地で開催されるというスペシャル感もさることながら、1番の魅力はその賞金額の高さです。なんとチャンピオン・セクションの優勝バンドには現金で£10,000、日本円にすると約180万円(2023年6月現在)。多くのコンテストの優勝賞金がだいたいこの半分の£5,000ほどであることと比べると破格の金額であることがわかります。
以下の動画ではこのコンテスト中のバットリンズの様子が見られます。
2月ユニ・ブラス・ユニバーシティ・ブラスバンド・チャンピオンシップス
ユニーバーシティ(University)、つまり英国内の各大学に属する金管バンドのみが参加できるコンテストです。2010年に創設されたこのコンテストは学生たちが主導しており、一般のコンテストとは違い課題曲があるわけではなく、20分間のパフォーマンスの中で音楽性やエンターテイメント性を競います。(後述するBrass in Concertと類似)
このコンテストの面白いところが、専門大学である音楽大学も普通に出場しており、さらに指揮者だけは学生に限定されずにプロの参加が可能というルールです。なので日本の感覚的に言えば、「東京藝術大学の吹奏楽団が、世界の第一線で活躍されている専門の指揮者とともに吹奏楽コンクール・大学の部に出場してくる」、このようなことです。
現在ではコンテストのセクションが2つに分けられ、上位セクションのトロフィーの部、下位セクションのシールドの部と分けられていますので、例えばシールドの部に出場をすれば音大とはぶつかりません。しかし、過去には一般の大学バンドが音大生によって構成されている音大バンドを打ち破った結果も残っており、これがユニブラスの面白いところです。
3月全英大会のための地区予選
9月、10月と開催される全英大会のための地区予選です。英国を8つの地域に振り分け(上記図より、イングランド西部、 ロンドン及び南部地域、中部、 ウェールズ、 北西部、 ヨークシャー、 イングランド北部、スコットランド)開催されるこのコンテストは、通称レジオナル(Regional)やエリア(Area)と呼ばれ、栄誉ある英国金管バンドの最高峰、全英大会に出場するための切符を手にするために各バンドが競い合います。またウェールズ地区、スコットランド地区に関してはこの地区大会で優勝したバンドは後述する欧州選手権への切符も手にします。
8つの地域それぞれに地域性豊かなバンドのサウンドや音楽性が特徴的で、英国金管バンドコンテストの中でも最も伝統的なそれぞれのバンドのサウンドを楽しめるコンテストです。しかし、 全てのバンドが各セクションごとに同じ課題曲だけを演奏するので、このコンテストを初めから最後まで聞き続けるには忍耐も必要かもしれません。
このコンテストの課題曲として選ばれる各楽曲の難易度ももちろん高く、各バンド熾烈に競い合うためその演奏レベルもとても高いものになっています。以下の例は2023年の各セクション課題曲です。2023年現在の英国金管バンド界における全英大会の地区予選で使用される各課題曲がどのようなレベルなのか、ぜひお聴き比べください。
チャンピオン・セクション
Red Priest / Philip Wilby
ファースト・セクション
A Day in the Life of a Knight / Philip Lawrence
セカンド・セクション
The Pilgrim’s Progress / Rodney Newton
サード・セクション
Chorale and Toccata / Stephen Bulla
フォース・セクション
Hungerford Town / Darrol Barry
今週はコンテスト・シーズンと有名コンテスト序盤編ということで3つのコンテストをご紹介しました。各それぞれ音や会場の雰囲気がわかる動画を探してきましたので、ぜひご覧いただき本場の雰囲気をお楽しみいただければと思います。
本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。また来週お会いしましょう。
河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Buffet Crampon Besson並びにMercer & Barker社アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。
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