【金管バンドナビ】#12 金管バンドの楽器 ベース

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

金管バンドで使われる楽器シリーズも5回目、今週はソプラノ、アルト、テナーときてベース音域のEbベース、Bbベースのご紹介です。

オーケストラや吹奏楽ではチューバと呼ばれるこのパートは、金管バンドでは実音のミbを主音に持つEbベースと実音シbを主音に持つBbベースによって構成されています。オーケストラや吹奏楽と違い金管楽器のみで構成されるアンサンブルで使われるこのベースたちは、時に物凄い高音域から低音域までと幅広い音域の演奏を求められたり、まるでフルートやクラリネット、ヴァイオリンのような細かい連符があったりとオーケストラや吹奏楽におけるチューバとはその役割が全く異なります。

それでは実際にどのような違いがあるのか、一緒に見ていきましょう!

ベース音域

アドルフ・サックスが発明したサクソルン金管楽器における音域ではコントラバス(ダブル・ベース)の音域で、金管バンドの中での最低音域を担当しています。

基本的にはEbベース、Bbベースの2種類の楽器(パート)を2人ずつで演奏されるパートですが、作曲者や編曲者によって、またコンテストで使用されるような難易度の高い曲によっては4人それぞれに独立したパートを与えられ、他の楽器と同様に奏者の役割を細分化することにより複雑で緻密な表現を求められます。

また「歩くパイプオルガン」と称される金管バンドにおいてそのパイプオルガン・サウンドの根幹を成すものとして美しいサウンドと安定した音程を求められます。さらにコルネット同様に、ミュート(消音器)も利用され、音量を下げる役割から音色の変化にも使われます。

Ebベース(Eb Bass)

約10kgあり、移動用のハードケースという頑丈なケースに入れると20kgにもなる見た目通りとても重い楽器です。実音のミbを基準に作られ、低音域から高音域まで幅広い音域を持つベースパートの中でも万能パートです。

通常2人で演奏されるこのパートも1st、2ndに分かれており、1stは主にソロパートや他楽器との協奏、そして吹奏楽でいうユーフォニアムと同じくらいの高音域から低音域まで幅広い音域と表現力を求められるベースパートのリーダーです。

また2ndパートは後述するBbベースとの架け橋となったり、バリトン・ホーン、ユーフォニアム、トロンボーンといったテナー音域の楽器との調和をとったりとバランサー的役割を持っています。また1st Bbベースと同じ音域を演奏することで、ベースパートの音の芯となったりと多くの役割を持つ重要なパートでもあります。

Bbベース(Bb Bass)

写真左の2本がBbベースです。

重さ11~12kgほどになる金管バンド最重量、そしてベースの中でも最も低い音域を担当する楽器がこのBbベースです。上記写真右手のEbベースとの大きさの違いがわかると思います。

Bbコルネットの1オクターブ下がユーフォニアム、そしてユーフォニアムの1オクターブ下の楽器がこのBbベースとなっています。管楽器というのは管の長さが長くなればなるほど低い音が出やすくなりますが、このBbベースはなんと全長約10mもの管の長さを持っており、それゆえとても低い音域を縦横無尽に演奏するパートとなっています。

主にオーケストラで言えばダブル・ベース(Double Bass)のパートを担当し、その管の長さと太さを利用した美しくダークな低音サウンドでのロングトーンは、金管バンドにおけるハーモニーの要となっています。このBbベースもEbベースと同様に1stと2ndで分かれており、1st Bbは2nd Ebと同様の音域を演奏し、低音パートの芯となる楽器となります。

基本的にはEbを主管とする楽器よりもBbを主管とする楽器の方が音程が安定し、音色もより太くまろやかになることから、この1st Bbを音程と音色の主体とし他3本のベースをまとめることで低音パートとしてまとまった音色を作ることができます。(もちろん曲やスタイル、奏者の実力にもよります。)

2nd Bbベースは主にバンドの中でも最低音域を担当します。バランスの観点からこの2ndパートの音量の幅でバンドの最大最小音量も決まると言っても過言ではありません。またこれは全てのベースパートがそうですが、テンポや音色の決定など、曲を俯瞰して理解し、スタイルやテンポ、音色、音量、さまざまなことを理解して演奏をする技量が求められます。

また超絶技巧であるペダル・トーン(Pedal Tone)というものがあり、通常楽譜に書いてあるベースパートの1オクターブ下の音域を演奏することでバンド全体の音域を一段階広げ、より多くの響きを生み出す奏法です。(ソプラノから始まる先述した4つの音域のさらに下であるダブル・ベースの1オクターブ下の音域)

この場合のペダルという言葉の意味はパイプオルガンの足でペダルを踏んで演奏する最低音域のことを指します。まずは下の動画を見てみてください。パタパタと音の周波数が耳で感じられるほどの低音域が聞こえるはずです。

このペダル・トーンはさきほど超絶技巧と書きましたが、とても難易度が高い奏法です。しかし、バンドの演奏のアクセントしてはとても有効的な音です。

ですが、アクセントというのはラーメンに入れる胡椒、煮物に入れる味の素などと同じように隠し味的なちょっとした味変のためのスパイス的な量や頻度が大切です。

近年の難曲の中には作曲者自身が意図してペダル・トーンを書くこともありますが、そうではない場合ペダルの入れどころは英国で200年続く伝統的な慣例や、奏者のセンスを問われるところであり、さらに言えば完璧な音量+音程で入れなくてはただの雑音となりバンドの演奏を邪魔してしまいます(ペダルについて詳しく書いた筆者ブログ)。なので、使用には長年の練習と経験が必要なまさしく超絶技巧なのです、ぜひ練習を続け挑戦してみてください。

オーケストラや吹奏楽といったたくさんの種類の楽器で構成されているアンサンブルの中のチューバと違い、金管バンドのベース(チューバ)は他の楽器同様に様々な役割を与えられ、さらにパートも細分化されています。こうすることでバンド全体の表現の幅を広げる役目を担っているのです。

時にベースだけで3オクターブの音域を同時に演奏したり、ユーフォニアムと同様に速く細かいフレーズを演奏したり、超絶技巧であるペダルトーンの演奏などなど本当に素晴らしいパートとなっています。

さて、次週はギネス記録にも登録されている世界で最も種類の多い楽器であり、リズムの王様金管バンドにおける打楽器のご紹介です。オーケストラや吹奏楽とは一味違う金管バンドの打楽器、ぜひお楽しみに!

本日も最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。


河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Besson アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。