【金管バンドナビ】#6 令和五年 金管バンドの今

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みなさん、こんにちは。金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。

これまでの5回にわたる金管バンドの歴史をお楽しみいただけていますでしょうか?さて、#5では戦中戦後という激動の時代に翻弄された英国金管バンド。現在ではかの黄金時代に比べ英国内でのバンド数自体は減らしましたが、その演奏レベルの高さや金管バンドを用いた多種多様な演奏が英国のみならず欧州、豪州、北アメリカ、そしてアジア圏とほぼ世界の半分以上にまで広がっています。そんな英国生まれの金管バンド史の現在、本日はその最終章です。

21世紀の金管バンド
2000年(平成12年)~

2度の世界大戦、サッチャー政権による大規模な炭鉱の閉鎖により、金管バンド人口はこの音楽が生まれた英国でも大幅に減少しました。その数はこれまで述べてきた通り甚大で、最盛期10,000団体以上あったバンド数は1,000団体以下まで減少しました。

しかし、それでも金管バンドは根強く英国の各地域で愛され、日本でいう全日本吹奏楽コンクールのような全英ブラスバンド選手権(The National Brass Band Championships of Great Britain) に登録され、出場するバンド数は現在でも500団体以上に達します。これらのバンドはチャンピオン・セクションと、第1から第4セクションまでの5つのランクに分けられ、英国の8つの地域より集まり、その年最も素晴らしいバンドを決めます。
(各コンテストについてはまた別の機会にまとめます。)

欧州の金管バンド

英国以外のヨーロッパ圏でも金管バンドは発展していきました。とりわけノルウェー、フランス、オランダ、ベルギー、デンマークなど英国に隣接する国々は古くから金管バンドのためのコンテストを開催し、1978年には欧州ブラスバンド選手権(The European Brass Band Championships)という欧州全土の金管バンドによるコンテストが開催されました。筆者が個人的に一番好きなコンテストであり、毎年GW周辺で開催されますので、機会があればぜひ渡欧して参加することをお勧めします。

以下は各国の全国ブラスバンド選手権の開催初年度です。

  • 1945年(現在の形態) イギリス
  • 1968年(不確定) アイルランド
  • 1972年 スイス
  • 1976年 デンマーク
  • 1978年 ベルギー
  • 1978年 欧州ブラスバンド選手権
  • 1981年 オランダ
  • 1982年 スウェーデン
  • 1993年 ノルウェー
  • 2004年 フランス
  • 2014年 オーストリア
  • 2016年 イタリア
  • 2018年 ドイツ

欧州ブラスバンド選手権についても、いずれ詳しく取り上げていきます。

ユース・バンドの設立

21世紀に入りバンド数も奏者人口も大きく減らし、金管バンド存続の危機を感じ取ったたくさんのバンドが、その対策としてユース・バンドの設立を始めました。

ユース・バンドとは主に10代から成人(英国では18歳)や20代前半までの若年層の金管バンド奏者によって構成されるバンドです。多くの場合、バンドの母体となる地域のコミュニティや、親バンド的役割のバンドをもち、大人や引退後の奏者たちによって運営や指導をされます。

例えば筆者が在籍していた英国ウェールズCory Bandでも2013年からCory Academyの名の下、次世代のバンド奏者の育成のみならず、ウェールズの子供達により多くの素晴らしい音楽体験をしてほしいという願いからユースバンドや金管楽器体験教室が作られました。(写真左が当時のCory bandメンバー)

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炭鉱閉鎖の回でもご紹介したGrimethorp Colliery band、日本人奏者も在籍したイングランドの名門バンドFoden’s Band、そして4度の来日公演を行っているBlack Dyke Bandを母体とするYorkshire Youth Band、これらイングランドのバンドも、それぞれユース・バンドを設立し後進の育成や地域の音楽教育に寄与しています。

また各バンドごとは元より、イギリス(=グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国)に属する三つの国それぞれにもユース・バンドが設立されました。(北アイルランドは無し)

そしてイングランドだけのユース・バンドがない代わりに

National Youth Brass Band of Great Britain

という全英ユース・ブラスバンドも設立されました。

さらに前述した欧州ブラスバンド選手権ではEuropean Youth Brass Bandも設立され、欧州各国から集められた青少年たちの同世代の交流の場や演奏の場となっています。

金管バンドの多様性

もともとは軍人や炭鉱夫などの重労働者によって演奏されていた金管バンドですが、200年の歴史をかけさまざまな年代、性別、ジャンルの人々が金管バンドを楽しむようになりました。

ジャンルで言えば、讃美歌、行進曲、オーケストラやオペラの編曲作品が主流であった金管バンドですが、現在ではオリジナル作品やクラシック作品の他にもジャズやロック、ビッグバンド、ポップス、フュージョン、ファンクなどクラシックとは遠い位置にあるジャンルの曲も演奏されたりもしています。

またそうした多様性を広げるために金管バンドオリジナル作品でのコンテストのみならず、エンターテイメント形式のステージ・ショーを競い合うBrass in Concertも1977年から開催され、欧州各地におけるエンターテイメントの選択肢の一つとして成り立っています。

金管バンド出身奏者がプロオーケストラへ

金管バンドの歴史が始まりその発展が進んでいる最中、指揮者や指導者というのは軍楽隊やプロのオーケストラなどから派遣されていました。それゆえ、どうしても金管バンドの芸術的地位はオーケストラよりも低く(=専門的な職業として成り立ちにくい為)、プロの金管楽器奏者、プロの金管バンドの専門家というのが生まれにくい環境でした。

しかし、これまで書いてきた金管バンドの発展により徐々に金管バンドのための作品を専門に作曲する作曲家や、金管バンド出身のプロの金管楽器奏者がロンドンの著名なオーケストラに首席奏者として入団、そしてついには金管バンド専門の指揮者コースが王立の大学院に設立されたりもしました。

まだまだ日本やアメリカをはじめとする世界中の吹奏楽や管弦楽のマーケットに比べれば小さい世界ですが、それでも200年の時を経て、今では金管バンドは世界中で愛されている音楽ジャンルの一つとなっています。

金管バンドの歴史最終章を終えて

200年に及ぶ金管バンドの歴史いかがでしたでしょうか?

金管楽器の発展、A.サックスの作ったサクソルン、軍楽隊や救世軍、そして2度の大戦やサッチャリズムを超えて今の金管バンドがあります。欧州各地や英連邦諸国、そしてアメリカはもとより、現在では日本をはじめとしたアジア圏にも徐々に金管バンドが増え始めてきました。

今後は少子化の影響で、少ない人数で指導のしやすい金管バンドの需要も増えていくと思います。その際にぜひ、この成り立ちだけでもお読みいただき、金管バンドで使われる様々なもののルーツを知っていただければ幸いです。

今後はさらに実際の現場で使用できるような内容やこれまでの内容の深掘りなど、より一層金管バンドのことを知っていただける内容を書いていきますので、またご覧いただければ幸いです。

ひとまず、全6話に渡りここまでお読みくださいまして、誠にありがとうございました。
またお会いしましょう。

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河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography

洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
Besson アーティスト。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。日本ブラスバンド指導者協会理事。

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