最終更新日 2023.05.23
みなさんこんにちは、金管バンドディレクターの河野一之(コウノ カズユキ)です。
先週の#1 金管バンドのはじまりはお楽しみいただけましたでしょうか?
前回に引き続き今回は、産業革命がもたらした金管バンドの発展について紐解いていきます。
ぜひお楽しみください。
金管楽器で構成された最初のバンドと出版作品
1832年(天保三年)~
日本は江戸時代、さらに鎖国中であった1830年代、この頃に英国で最も古いバンドの数々が誕生したと言われています。(“The Besses o’ th’ Barn Band”, “The Stalybridge Old Band”, “The Black Dyke Mills Band”, など)。しかし英国の専門家の中でも実際のところ、これらのバンドのどれが最古なのかは明確な答えは存在していません。その理由が前回の金管バンドの始まりでも書いた金管楽器とリードを使用する木管楽器との混合バンドだった可能性があるからです。
しかし、そのような中、英国南ウェールズにあるモンマスシャー(ウェールズ語:Sir Fynwy 英名:Monmouthshire)の炭鉱地区に存在したThe Blaina Band(創団は1817年)が、1832年英国で初めて金管楽器のみで構成されたBrass Band(ブラスバンド)として記録に残っています。(イングランドではその翌年、ヨーク地方で誕生)。
そしてブラスバンドの誕生を待っていたかのように、1823年ロンドンにて創業のRobert Cocks & Co.出版社のRobert Cocks氏によって、1836年に初めてブラスバンドのために編曲された作品が出版されました。(Eight Popular Airs / George MacFarlane編曲)
産業革命とアドルフ・サックス
1851年(嘉永四年)~
1700年代中盤、世界各地に植民地を有したイギリス帝国では、それら植民地から得た資源、各種革命による社会的、経済的な環境の整備や労働力の確保、そして蓄積された資本によって産業革命が起きます。
この産業革命が各種製造業を発展させ、それにより管楽器におけるヴァルヴ・システムも発展させました。その後1851年、ロンドンに当時あったクリスタル・パレスにおいて開催されたのがロンドン万国博覧会(The Great Exhibition of the Works of Industry of All Nations)。
この博覧会においてこれまでに無かった金管楽器がお披露目されました。それがベルギー生まれの楽器発明家アドルフ・サックス(Adolphe Sax)によって発明されたサクソルン(Saxhorn)です。
このアドルフ・サックスはみなさんがよくご存知の吹奏楽やジャズなどで人気の木管楽器、サクソフォン(Saxophone)の生みの親としても知られていますが、こちらのサクソルンは金管楽器のマウスピースを使用し、唇の振動で音を鳴らす金管楽器です。アドルフ・サックス(Sax)が発明した音の出る楽器(Phone)という意味で木管楽器のSaxophone。サックスが発明した角笛(Horn)とも呼ばれた金管楽器でSaxhornという名がつけられました。
このサクソルンと名付けられた新型金管楽器はさまざまな種類や大きさのものが作られ、それぞれにアルト、テナー、ベースとその大きさに合わせた音域を担当し、現代のサクソルン属系金管楽器同様に実音のミ♭、シ♭を基準に持つ楽器として演奏されました。
前回書いたように、これまでアンサンブルの中で聞かれていた管楽器の演奏というのは、木管楽器と金管楽器の混成であったり、金管楽器の中でも現代のオーケストラの金管楽器セクションのようにさまざまな種類の(=個別の音色を持つ)金管楽器によって演奏されていました。
また吹奏楽であれば、さまざまな種類の木管楽器と金管楽器、そこに打楽器を追加してアンサンブルとして成立させており、これらの管楽器の橋渡し的役割として真鍮製であるサクソフォンを配置することにより、音色のブレンドを可能としているわけです。
先述したこの博覧会において発表されたA. サックスの新型金管楽器たちは、全て円錐型の形状、3本ヴァルヴ、マウスピースを有する金管楽器という特徴を持っていました。これらの楽器が発する演奏やその音色は、バラバラの音色を持っていた木管や金管楽器によって構成された当時のアンサンブルに比べ、音色の統一、またサクソルンが持つ独特の美しい音色が当時博覧会を訪れた英国の人口の1/3と言われる大観衆たちを魅了したと言われています。(以下当時演奏したとされるDistin Familyによるアンサンブル”Distin Qurtet”を模倣したアンサンブル)
その後サクソルンは、1853年にマンチェスターで始まった史上初のブラスバンドコンテストであるThe British Open、1860年ロンドンで開催されたジャクソンによる全英大会(Enderby Jackson’s The Great National Brass Band Contest)などブラスバンドにおけるコンテストの数々で使われ、これらのバンドの活躍により、今日におけるブラスバンドの楽器構成同様、この当時最新の円錐型の金管楽器はブラスバンドの中核を成すようになりました。
今週はここまで、みなさまブラスバンド・ジャーニー200年の旅はお楽しみいただけているでしょうか?
次週は英国金管バンドの黄金時代、そしてこれまで他ジャンルからの編曲作品や民謡、行進曲ばかり演奏されていたブラスバンドに、初めてオリジナル作品が生まれたお話などを中心に話を進めていきますので、ぜひお楽しみにお待ちください。
今週もありがとうございました。またお会いしましょう。
河野一之 (Kouno Kazuyuki) https://kazuyukikouno.wixsite.com/bassjunkie/biography
洗足学園音楽大学、英国王立ウェールズ音楽歌劇大学院(PGDip)を修了。
日本ブラスバンド指導者協会理事。Sony Music Stand Up Orchestra チューバ奏者。
Nexus Brass Band、 Riverside British Brass、Immortal Brass Eternally 常任指揮者。 東京ブラスバンド祭マスバンド総括。河野企画代表。Besson アーティスト。
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