部活動?それとも社会教育?

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最終更新日 2023.07.27

筆者: 本澤なおゆき(ミュージックエイト アレンジャー/開成ジュニアアンサンブル 代表)

2018年4月、国の「働き方改革」法案が国会で可決されたのに関連して、部活動のあり方が議論されています。既に部活動休養日が各学校で実施され、活動時間が大幅に減った部活動も多いことでしょう。
その上、文科省は、「将来的には学校単位から地域単位の取り組みにし、学校以外が担うことも検討する」と提言していて、今後部活動の社会教育への移行が部分的にでも進む可能性が出てきました。

では、音楽系の部活動が社会教育へ移行する場合、どのような問題が起こるのか、また、そもそも青少年を対象とした音楽系の社会教育団体にはどのような課題があるのでしょうか。
主に私が指導している「開成ジュニアアンサンブル」を例に挙げて考察してみました。

部活動と社会教育団体の比較

部活動社会教育団体
練習場所学校の音楽教室、普通教室等公共施設等
練習時間 週5日以内(平日は1日、土日は1日休養日)
 平日は1日2〜3時間、土日は1日3〜4時間など
 週1〜2日
 平日は1日2時間、土日は1日3〜4時間くらい
 その他、家庭での自主練習
大型楽器の
保管場所
部室、音楽教室、音楽準備室等指導者の自宅、貸し倉庫、楽器運搬車など
施設の倉庫に保管してもらえるケースもある
(青少年団体の場合このケースが望ましい)
管楽器の
保管場所
部室、音楽準備室等基本的に団員の自宅
送迎通常は登下校と一体なので不要場所と時間帯によっては安全のため保護者による送迎が必要
特に小学生の場合、楽器が大きくて重いので送迎は必須
練習時の
楽器運搬
児童生徒および教員が移動
小学校では保護者が移動するケースも
指導者や保護者が自家用車等で運搬
施設内は児童生徒が移動
指導者顧問(教員)、外部指導者指導者、外部指導者
コンクール等学校単位で出場出場枠が学校単位のみのコンクールには出られない
小学生団体なのに一般の部でコンクールに出場するケースもある
楽器・楽譜購入費学校予算(公費)、部活動費、保護者会費、顧問団費、助成金(備品が対象となる助成金はまれ)、指導者

社会教育へ移行する際の諸問題

練習場所の確保の問題

開成ジュニアアンサンブル

多くの自治体では、社会教育団体登録をすれば公共施設での練習が可能になりますが、学校の部活動のように大型打楽器や練習用機材の保管はできないので、楽器運搬車や多くの人の手が必須となります。当団のようなジャズバンドなら、ドラムセットとベースアンプ、ピアノがなければキーボードだけで済みますが、吹奏楽や金管バンドであれば、ティンパニ、シロフォン、グロッケンシュピール、バス・ドラム等の大型楽器を毎回運び入れなければならず、相当な困難を伴います。部活動の社会教育への移行を検討する場合、その点をクリアしなければなりません。

 練習時間の確保の問題

働き方改革に関連して、部活動に休養日を設けるようになった学校が多いと思いますが、社会教育団体はもともと練習時間が週1〜2日程度、1日2〜4時間程度と限られていることがほとんどです。部活動が日々の朝練で基礎力を上げている一方で、社会教育団体では、各家庭での自主練習、あるいは両立する吹奏楽部での基礎練習に頼っている状態です。マンション等住宅事情によっては、マウスピースのバズィング、フィンガリング確認、スライドの素振りなどしかできない団員も多く、そのため、基礎力の足並みを揃えるのが難しいのが現状です。

 楽器の保管場所の問題

開成ジュニアアンサンブル

社会教育団体では、前述のように学校のように部室等に大型楽器を保管することができないので、指導者や関係者の自宅や貸し倉庫等に置かなければなりません。まれに、いつも練習に利用している公共施設の倉庫に置かせてもらえるケースもあるようですが、当団の場合それができないのが現状です。また、児童生徒の使用楽器も毎回持ち帰ってもらう必要があります。テューバやユーフォニアム、バリトン・サックス、バス・トロンボーン、ストリング・ベースなどの比較的大きな楽器の児童生徒は、保護者の送迎が必須となります。

 コンクール等への参加の問題

コンクールやコンテストへは学校単位でしか参加できない場合がほとんどです。吹奏楽連盟の場合、小学校では地域差が大きいし、高校は学校による差が大きいのですが、中学校は比較的うまくいっているから、全体として変えづらくなっているのかもしれません。そのため、小学生のみのバンドなのに一般の部でコンクールに出場するケースもあります。マーチング、あるいは軟式野球やサッカーのように、地域団体(クラブチーム)と学校とが対等に参加できる規定が望ましいと思います。幸いなことにジャズバンドの場合、学校と地域団体が肩を並べて参加できるケースが多く、心置きなく挑戦できる環境が整っているといえます。

 楽器・楽譜購入費の問題

学校の部活動であっても、十分な予算が確保されるわけではないと思いますが、社会教育団体の場合、通常は公費の補助がないため、団員から集金した「団費」や応援してくださる地域の方の「賛助会費」、演奏会プログラムの広告費が主な財源となります。当団の場合、2018年にニッセイ財団からバリトン・サックス1本の助成を受けることができましたが、備品が対象となるそのような助成はなかなか受けることができないのが現状です。

ビッグバンドの社会教育団体としての現状

参考までに、社会教育団体としての当団のおおまかな現状を、小学生バンド「ブルーバーズ」と中高生バンド「スーパーブルーバーズ」を比較しながら以下に示してみました。当団は運営も技術力もまだまだ発展途上と認識していますが、青少年のための音楽系の社会教育団体のあり方の一例として活用されるように、また、我々自身が現状を再認識し、さらに発展させられるように、まとめてみたものです。

開成ジュニアアンサンブルの2バンドの現在の状況

バンド名 ブルーバーズ(BB) スーパーブルーバーズ(SBB)
対象学年 小4〜小6 中1〜高3
設立年 2011年 2016年
練習場所 小学校音楽室
(一般開放時間帯のみ)
小学校音楽室
(一般開放時間帯のみ)
練習時間 毎週木曜日2時間 毎週土曜日2時間
自主練習時間 毎週土曜日2時間 BBの練習時間内で可
運搬機材 ドラムセット、ベースアンプ、譜面台、ボンゴなど ドラムセット、ベースアンプ、譜面台、コンガ2個、キーボードなど
運搬方法 代表の自家用車1台
(自主練習時間は保護者の自家用車2台)
代表の自家用車1台+
保護者の自家用車1台
保管方法 代表自宅専用倉庫および自宅内 代表自宅専用倉庫および自宅内
団保有楽器
(借用楽器含む)
ドラム(共通)、ベース2、アルトサックス3、テナーサックス2、バリトンサックス1、トランペット6、トロンボーン5 ドラム(共通)、ベース2、バリトンサックス1、テナーバストロンボーン1、バストロンボーン1
管楽器の
個人所有率
37% 90%
両立している
部活
なし 吹奏楽部、ダンス部、軽音楽部、合唱部、家庭部、バドミントン部
(中学校と高校で事情は異なるが、吹奏楽部との両立は顧問の先生の理解を得れば比較的易しい)
家庭での推定
平均練習時間
15分くらい 5分くらい
主な演奏曲の
グレード
1〜2(アメリカ) 3〜5(アメリカ)
悩み  練習場に楽器を置けないため、練習の度に楽器庫から乗用車1台程度の機材を運び入れている
 練習日が平日固定なので、塾や習い事が重なる場合、入団をあきらめてもらうケースがある
 初心者が半数を占める事もあり、4〜7月に本番に出ることは困難
 SBBと本番が重なると出られなくなることがある(楽器を共有している、指揮者が同じ等の理由から)
 週4時間しか施設で練習できないため、各家庭での練習に頼っているが、練習環境が整わない家庭もあるため、基礎力の足並みを揃えることが難しい
 練習場に楽器を置けないため、練習の度に楽器庫から乗用車2台程度の機材を運び入れている
 学業優先、部活優先を基本方針にしているが、そのために出席率が下がる事がある
 運動部は練習への理解を得ることが難しく、本番やリハーサルが試合に重なると出席が困難になる
 塾より練習優先にしているため、夏期講習や冬期講習に参加しずらい
 BBと本番が重なると出られなくなることがある
 週3時間しか施設で練習できないほか、他の部活や勉強に時間を取られるため、練習の絶対量が少ないうえ、基礎力の足並みを揃えることが難しい
うまくいって
いる点
 4年目くらいからは、保有楽器や団員が増え、運営がしやすくなった
 部活との両立がなく、他の習い事より練習や本番を優先してくれるようになってきたため、本番に出演しやすくなった
 発足から2年が経ち、層が厚くなってくると、メンバーのやりくりが可能になったため本番に出演しやすくなった
 コンサートマスターに発声練習や基礎練習を任せることができるようになった

開成ジュニアアンサンブルHP 2019年1月掲載記事より引用)

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